教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

ICT利活用の目的 9類型(2014年8月版)

 教育ICTリサーチ、研究員の為田です。今回は、5月に行なわれた教育ITソリューションEXPOの凸版印刷のブースで行った、ICT利活用セミナーをベースにして、エントリーを書こうと思います。

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ICTを使った教育と一口に言っても…

 僕らは、ICTを学校や学習塾などの教育現場に導入する際のお手伝いをすることがあります。その際に、ミーティングの最初に、「iPadはやはり一人1台いりますかね?」と訊かれたり、「アプリは何がいいでしょうか?」と訊かれたりすることがあります。ですが、正直、この質問にはお答えができません。僕は質問で返します、「先生、どんな授業をしたいですか、どんな教室にしたいですか」と。

 こうした仕事をしていますので、ICTの導入が進んでいる学校や学習塾を多く訪問し、授業を見学させてもらったり、導入した先生方や、活用されている先生方のお話を伺うことが多くあります。どの学校も「ICT導入先進校」ですが、使い方はバラバラです。使い方がバラバラなのは別に悪いことではありません、なぜなら、ICTはたくさんのことができるからです。ICTのどの部分を使いたいのかが学校や学習塾によって違うので、当然、使われ方も違うものになります。

ICTを使う目的を類型化してみる

 さまざまな学校を見させていただいて、ICTを使う目的にはいくつかの類型があるように思えました。「どう使うか=手段」は多様ですが、「なんのためにそれを使うか=目的」はある程度まとめることができるかな、と。
 そうしたICT利活用の目的を類型化することで、これからICTを活用される学校や学習塾の、判断基準になればいいな、と考えています。
 まだ、ICTを利用する方法は発展段階であり、過渡期であると思っています。現状、9つに類型化していますが、これから数年たって、教え方が洗練されていく中で、類型の数は増減することもあり得ると思います。ですが、現状、こういった目的で使われているケースが多いのではないか、ということで、現状把握としてまとめておきたいと思います。

(1)興味喚起

 最初に「興味喚起」と呼んでいる目的です。これは、教科書や資料集などの文字情報では、教材にあまり興味を持てない場合、文字情報以外の方法で教材に興味を持ってもらおうとする使い方です。例えば、動画などを用いる、イラストを見せる、音声をつける、作者によるインタビューが聴ける、などの方法があります。
 デジタル教科書などでは、こうした仕掛けを多くしているページを見ることができます。

(2)モチベーション喚起

 「モチベーション喚起」は、「ゲーミフィケーション」という言葉を考えるとわかりやすいかもしれません。学習し、練習問題に正解するごとにポイントがたまっていったり、アイテムがもらえたりする、というようなものを想像するとわかりやすいでしょう。
 最初は「動機が不純!」と思わないことはないですが、いずれポイント集めよりも、何度もくり返して問題を解いたことによりできるようになってくる学習そのものに興味が移ることも多いです。こうしたゲーミフィケーションは、実は教室では多くされています。僕が学んだ小学校では、漢字テストの点数によって、東海道本線の駅を東京から出発してどんどん進んでいく、という仕組みになっていました。それをコンピュータで行う、と考えれば、そう不純でもないかもしれません。

(3)理解促進

 「理解促進」は、黒板や紙の教科書などでは、説明がしにくいものについて、動画などを使って説明をし、理解度を高めようとする利活用の方法です。例えば空間図形であったり、日食や月食の説明など、どうしても二次元では頭のなかにイメージを描けないという児童生徒がいます。そうした子にとって、三次元で動く解説動画があることで、「わかる!」チャンスが増えるということは考えられるでしょう。
 理解ができたら、その後は二次元で説明を続けたり、実際にテストを行ったりして、学習内容を定着させる、という先生方もいらっしゃいます。下の写真は、佐賀県立神埼高校での授業の様子です。モニターでの動画と黒板でのグラフを併用しています。
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(4)授業効率化

 授業の中では、何度も同じことを書かなければならない場面もあります。先生方とお話をしてよく出てくるのは、地図やグラフなどでしょうか。また、数学の先生が図形問題を描くのに時間がかかるわりに、すぐに解かれてしまうので、続けて描き続けなければならない、というような声も聞かれます。すると、机間巡視など、先生方がしたいことができなくなってしまう、ということがあります。
 図形問題や地図などは、あらかじめデジタルデータとして持っておいて、投影してしまう、というのもひとつの方法です。こうすることで、先生方は児童生徒と向き合う時間を得ることができます。

(5)進捗、理解度確認

 ICTには、人が到底できないことをしてくれるという利点があります。例えば、単純な作業を何千回何万回と正確にくり返したり、正確にいろいろなものを計測し記録しておいたり、というのがそれにあたります。
 それを、学習の記録を取るために利用するという方法もあります。例えば、どの生徒が、9時45分から9時52分まで数学の問題(3)に取り組んでいて、正解した。この問題(3)の類題については、総正解率は87%となっている、などというように記録を取ることが可能です。そうして、学習の記録と成績の記録を結びつける、ということができるようになりました。
 こうした記録は、先生方がどのように授業を進めていくかを考える際の有益な情報源にもなります。

(6)教材拡充

 これまで、どうしても教科書や資料集にはページ数という制約がありました。ですが、ICTでデジタルデータとして教材をもてば、ページ数の問題はなくなります。また、理科の実験動画なども、効果な薬品などを使うものは、全員で実験をするのは難しくとも、先生が実験をして動画を撮影しておき、それをみんなで見ることで、理解を深める、ということも可能です。
 タブレットPCは、手軽に持ち運ぶことができ、撮影したものをそのまますぐに見ることができるので、実技教科でも多く使われています。体育でフォームを撮影したり、家庭科での包丁の使い方の動画の撮影などをされている先生方もいらっしゃいます。

(7)表現、思考手段拡充

 表現、思考手段拡充は、これまでの世代とこれからの世代で、表現方法や思考方法が変わってくるだろう、というのが前提にある考え方です。僕は論文作成指導も学校で行うことがありますが、作文の下書きを見て、「ここの段落は後ろにある方がいいんじゃないか?」とコメントをした時、原稿用紙で書いているときには「先生、直すのいやだ、たいへんだもん」という返事が返ってきましたが、実はコンピュータで書いている児童生徒は「ちょっとやってみます」と簡単にコピー&ペーストをしてみて推敲作業を重ねていきます。
 また、表計算ソフトを使って、試算をしたりシミュレーションをしたり、というのも、論理的な思考力を養うために非常に有効だと思います。

(8)家庭との情報共有

 家庭との情報のやりとりにメールなどのコミュニケーションツールを使ったり、教室と家庭で共通のウェブページを見て、状況を共有するということもできます。特に学習塾の場合などは、さまざまな連絡を紙や電話で行っており、これらの一部をICTを使って行うことで、業務を効率化することにも繋がっているケースがあります。

(9)学習環境拡充

 ICTを用いることで、これまでは「決められた時間」に「決められた教室」で学んでいた授業が、その枠を越えることができるようになっています。例えば、家に帰って夕食後に改めて授業の課題について取り組んでメールで送ることができます。ディスカッションのテーマが授業で与えられて、提出期間を1週間とし、その間、クラスメイトとともに授業サイトでディスカッションをする、ということもできます。
 45分や50分という決められた時間では考えがまとまらない児童生徒が、時間の制約を受けず、いつでも学びの機会を与えられる、ということも可能です。

それぞれの目的は複合的に組み合わせられる

 ICT利活用の目的を9類型で分類し、紹介してきました。 9つの類型は、複合的に組み合わさることもあります。例えば、表やグラフを作成して考えさせるのは、「表現、思考手段の拡充」であると同時に「授業の効率化」にもつながり得るものです。

大切なのはICT技術×現場力

 さまざまな実践事例がメディアで取り上げられ、公開授業なども見ることができるようになっていますが、それらの事例や授業は、どの目的で行っているのか、というのを見ていただくのも、評価のひとつの基準になるのではないかと思います。
 どんなICT技術が学校に導入されようと、最終的に使いこなすのは教室の先生方です。先生方が「何のために使うのか」という目的を明確にすることが先にあるべきです。そして、その目的を助ける手段として、ICT技術があるのです。
 ICT技術を最大限に利活用するためには、先生方の現場力(教務力、これまでの経験)などが必要不可欠です。ですが、まだ現状では、ICT技術の方が強く、現場の方からの声は上がってきていません。
 我々のスタンスとしては、「教室で先生たちがどうICTを使うのか」というところをスタート地点にして、教室をより良くするために、先生方を支援していきたいと思います。