12月10日に、デジタル教科書教材協議会シンポジウム2014 Vol.3「未来の学び~授業が変わる・学びが変わる!」に参加してきました。
前半と後半の二部構成でした。それぞれでキーフレーズをまとめておこうと思います。情報量が多かったので、箇条書きでまとめておいて、間に自分なりのコメントを書いていきます。
「学校の教育力低下をどう食い止めるか~「最高の授業net」のプラットフォーム始動!」
前半は教育改革実践家 藤原和博氏による、「学校の教育力低下をどう食い止めるか~「最高の授業net」のプラットフォーム始動!」でした。
入場したらすでに藤原さんの板書がすでに書かれてあって、これを見ながら、教育をとりまく状況がどう変わっていくのか、を説明していきました。
成熟社会の事例については、周囲にいる人とディスカッションをする機会がもたれて、「外部脳をつなぐ」という作業を実体験できるようにデザインされていました。
ここから、学習がどんなふうに変わっていくか、という話に移ります。
- 人間の学習は、情報編集力の方に寄っていく。ドリルや記憶モノなどは、機械で行えばいい。どこででも学べるようにすればいい。
- 2020年に間に合わせるために、次の指導要領で必ず情報編集力の方に振ってくると予言。
- ヨーロッパ、OECDもこちらに移っている。
- クリティカルシンキングは必ず入ってくる。
- 思考力など、どんどん存在が大きくなる。
- メイカーズの時代も、この流れ。多種少量生産ができるようになる。
- 出版社×書店という組み合わせは、アマゾン×スマホには勝てない。
個人という単位で情報を得ることも発信することもできるようになり、3Dプリンタなどでリアルなものも作れるようになる時代となっているという話も、情報編集力の話も、「ドリルや記憶モノなどは機械で」という話も、教育の情報化の分野で言われている部分です。が、こうした背景からきちんと説き起こすというのは非常にわかりやすい、と感じました。
そして、メインテーマである「教育力の低下」です。家庭学習の時間が減っている、というのは現場の先生方からよく伺う話です。家庭の教育力が低下してきたなか、どうにか日本の教育が踏みとどまったのは、学校の教育力があったから、先生ががんばってきたから、というところ、同感です。
ところが、これから年配の先生がどんどん退職されていきます。そのときに、学習指導、生活指導のノウハウが伝えられないのではないか、という局面になるので、ついに学校の教育力が下がっていってしまう、というお話でした。
- 教育力の低下
- 約半数の家庭で学習の協力はされていない。家庭の教育力の低下。
- 地域の教育力の低下。
- そうしたなかで、踏みとどまってきたのは学校の先生。日本の先生方だけがそうしたことをしていた。
- ところが、あと10年で年配の先生が抜けるため、生徒指導・生活指導のノウハウが流出する。
- このノウハウの移転はできない。(私企業でも同じ。目先の先輩からしか学べないので、一足とびにはならない)
- あと10年で、学校の教育力がとうとう落ちてくる。
- 小学校3年生の算数の授業で、子どもたちが落ちこぼれていく。
- 具体物から抽象の方にいけない。
- ようかんを分ける、みたいな部分がそもそも実感がわかない。
- 論理脳を作るところでつまづく。
- 図形が出てくる。先生によって当たりはずれが大きい。
こうした流れがやってくる前に、さまざまなチャレンジをしているのが、佐賀県武雄市である、ということですね。
武雄市の授業、見に行きたいなあ。反転授業の割合は、「小学校では10%くらい、高校で50%くらい、大学では90%くらいになる。」という話をされていたけれど、ビデオを使った授業もそうだし、それ以外の授業も、児童たちがどんなふうに学んでいるのか、実際に見てみないとわからないと思うので。来年度は絶対に見に行きたいと思います。(九州に仕事を作らねば・笑)
また、最後に藤原さんから「最高の授業」のオンライン授業プラットフォームの話がありました。「よのなか科」の授業がアップされるとのことです。
- 「最高の授業」のオンライン授業プラットフォーム構築
- 受験サプリ(リクルート)、20万人のユーザー。
- 縦軸は教科別、科目別。
- このほか、横軸に本日から「よのなか科」が入る。
しっかり見てみようと思います。万人にあう授業ではないかもしれないけれど、この日に見たプレゼンみたいなことを語れる先生は、にhん全国探してもそういないはずです。ならば、生で藤原先生の話を聞けないならば、せめてオンラインで、というのは、ICTの教育現場での使い方として非常に効果的です。
藤原和博氏が受験サプリで授業提供、高校生の生きる力を育む | リセマム
また、最後にデジタル教科書の導入についての注文もされていました。
- 教科書検定制度を認めてはいけない。また、「教科書」として使わせない。
- 教科書となると、ビデオなどに出演する人などが、「先生でなければならない」ということになる。
- ビデオ教材は、小学校では10%くらい、高校で50%くらい、大学では90%くらいになる。
- 学校では、学校でしかできないことをする。
参考図書として提示されていた、藤原和博『負ける力』。このなかに、今日の講演の内容も含まれています。
「未来は今ここから始まる-学校×新しいICT×感性-」
後半は、広尾学園 教務開発部統括部長 金子暁氏による、「未来は今ここから始まる-学校×新しいICT×感性-」でした。
実は、10月にICTカンファレンスでおじゃまさせていただいたので、そちらもあわせてお読みいただけるといいかな、と思います。
広尾学園 ICTカンファレンス2014(2014年10月14日) - 教育ICTリサーチ ブログ
広尾学園の凄みは、「きちんと目的から出発して、ICTを導入されている」ことです。当たり前のことですけど、「こういう授業をしたい」「こういう学びを生徒にしてほしい」というのが出発点としてあって、そこから機種を選ぶ、というのは当然のことなのですが、実はこうしたステップで導入を決めるというのはそう簡単ではありません。
そこを明確にして学校全体で突き進んでいるのがすごいな、と思っています。
- ICT機器 一人一台体制
- 医進サイエンスコースは、iPad→Chromebook
- そのときに最適なものを選んでいる。
- それぞれのコースの「教育活動」にあったものを選ぶ。
- なぜICT化が遅々として進まないのか?
【Chromebook 導入事例】Acer Chromebook C720 私立広尾学園高等学校様 - YouTube
目的は、「文献にアクセスすること」であり、その目的を達成するために、紙の本でもKindleでもコンピュータでもいい。教室の中で生徒たちがそれぞれのデバイス(紙の本も含めて)で学んでいる。当たり前ですけど、けっこう大変です。先生方の覚悟がないと、なかなかこうはなりません。
ただ学習と学園生活だけでなく、そこからどんどん広げて「創造」のツールとして使ってほしい、という先生方の思いが見られます。
- 永続する進化 ICTをベースとして
- 活用
- 学習:授業講習、個別学習
- 学園生活:情報共有、自己管理
- 創造
- プログラミング
- デジタルファブリケーション
- 外部講師の講演会
- 教員が聞いていて安心するような範囲ではダメではないかと思っている。
- 次世代の子どもたちに枠をはめる必要はない。
- 学年は無視。「これは大学院レベル」みたいなことは言わない。点と点が結びつくタイミングは生徒によって違う。だから、本物をぶつけていく。
先生方の覚悟を感じます。でも、最後に金子先生はこうおっしゃいました。「東京の学校だからできる?私立だからできる?とよく訊かれます。でも、変革を始めてから今まで特別な人間は一人もいなかったんです」 出発点を決めて、そこから一つずつ、歩みを進めていく。そのお手伝いを、学校の外側から、していきたいなと思います。
(研究員・為田)