2014年12月22日(月)に、京華女子中学・高等学校(東京都文京区、以下「京華女子」と表記)において、先生方向けの研修を実施いたしました。この研修は、将来の生徒へのICT端末導入を見据えて、ICT教育担当の先生方、ICTの導入に関心をお持ちの先生方、職員の方に参加していただきました。
iPadとChromebookとSurface(Windowsタブレット)という3つの選択肢のうち、京華女子が生徒たちに提供したいと思っている教育的効果をいちばん持っているのはどれか、またコスト的にそれが見合うものなのか、という議論をする土壌を作ることを研修の目標として設定しました。
研修の最初に、講師をつとめた為田が、ICTの利活用目的を9つの類型に分けて、それぞれについて説明をしました。
- 興味喚起
- モチベーション喚起
- 理解促進
- 授業効率化
- 進捗確認、理解度確認
- 教材拡充
- 表現手段、思考手段拡充
- コミュニケーション手段の拡充
- 学習環境の拡充
↓参考資料
ICT利活用の目的 9類型(2014年8月版) - 教育ICTリサーチ ブログ
そのうえで、先進的にICTを導入し活用している学校の事例を紹介していきました。実際に授業でどのように使っているのかが見えてくると、先生方も「自分の授業ならば…」という観点で「どのように使うか」をイメージすることができるようになってきます。このように、先に「どんな授業をしたい」というイメージを作ってもらうことが、我々の研修の特徴です。
先生方に、上の9つの類型であれば、どの類型でどんなふうに使ってみたいな、と思いますか?とグループでディスカッションをしてもらいました。
以下に、そこから出てきたコメントを紹介します。
- 教材拡充
- 家庭科、理科は、動画(実験、実技)がいちばんやりたいことである。
- 興味喚起
- 理科は興味を持たない子がいるので、興味を持たせたい。
- 教科書だけだと、下を向きがちなので、上を向くようになる。
- 理解促進
- 空間図形などを理解させるために使いたい。
- 授業効率化
- グラフの座標軸をいちいち書かなくてもいい
- 長文をいちいち書かなくてもいい
- 家庭との情報共有
- 大量のプリントを同時に配ると、重要度がわからなくなる。
- 表現手段、思考手段拡充
- 理科の実験データについては、図を描いたりしなければならない。
- 手書きの大切さは絶対にあると思う。
- 学習環境の拡充
- わざわざタブレットを使って学習をする必要はないのでは?
コメントのなかには、否定的なコメントもありましたが、使い勝手がいい部分も、そうでもない部分も含めて、ICTが学校に導入されてどんなふうになるのか、ということをイメージしてもらうことが目的なので、賛否両論出てくる方がディスカッションの軸になります。
例えば、理科の実験については、動画でICTを使いたい一方で、「手描きで図を描くことは大切だ」というコメントが出ています。では、「ICTを実験のどの部分で使うのか」「ICTを使うことでどのような効果があるのか」ということを明確にしたうえで、使うべきところで使う、ということが必要になります。
また、「大量のプリントを同時に配ると、重要度がわからなくなる」というコメントも出ていましたが、だからICTを導入する、というふうに単純にはいきません。実はICTでメッセージを送っても、大量にメッセージが来れば結果的に重要度がわからなくなる可能性があるからです。つまり、問題点の解決策としてICTがベストではないかもしれないのです。ただし、ICTであれば、プリントのように一度に一度きり配る、という制約を取り払うこともできます。例えば、持ち物を連絡するのであれば、夕食後にリマインドのメッセージを表示させることができます。誰がメッセージを見たかを確認して、見ていない生徒にだけ再度メッセージを送る、ということもできます。このようにデジタルを使うことで、問題点を解決することが可能になります、ということがわかります。そのうえで、ではこのようにメッセージが閲覧されたかどうかを確認でき、メッセージを配信する時間を設定できるシステムはないか、と発注先を探す、というふうになればいいと思っています。
プリントの大量配布のケースは、学校にある問題点です。「現状の学校にどんな問題点があるのか」は、学校の先生方が最もよく知っているところです。それをICTで解決できるかどうか、というのは「こんな問題点があるので解決したい」と明言して、テクノロジーに詳しい人たちに提案してもらえればいいのです。
先生方が、学校をより良くすることに100%集中していただけるようにしたいと思っています。ICTを導入することはゴールではなく、先生方の仕事をサポートするための手段です。それを議論のベースとした上で、「どの機種がいいでしょうか?」とディスカッションをすべきです。
また、「協働学習」についても体験していただく目的で、iPadとChromebookとWindowsタブレットを使って、Googleドキュメントで全端末同時にアイデアを書き込む、というアクティビティをしました。
レポートを書く、プレゼンテーションを作る、などに焦点を当てるならば、「実は機種を統一しなくてもいいのではないか?」という意見も出ました。別の先生から「生徒がMS Officeに慣れているのでは?」という質問が続いて出たのですが、「実は生徒は簡単にMS WordかGoogleドキュメントか、みたいな壁を飛び越して、逆に苦労をする(=嫌がる)のは、先生の方じゃないかと思う」という意見が出て、たしかにそうかもしれないな、と感じました。
研修の最後の方は、先生方の間でこのようにディスカッションが自発的に行われていたように思います。ディスカッションのトリガーになるようなことと、ディスカッションの中で議論する必要のあるキーワードを手渡すことを目指していたので、研修設計の目標は果たせたかなと思っています。
この後、先生方が「こういう学校にしようよ!」「こういう授業にしようよ!」と自分たちで話し合いつつ、そこにICTがどう絡んでくるかを我々、企業がサポートしていく、そうした関係を作ることを目指しています。そのための第一歩となる研修だったと思います。