研究員の為田です。僕がフェローとして参加しているLudix Labが、2月20日に「『シリアスゲーム』刊行8周年記念トークセッション」を開催しました。この2月20日は、藤本徹『シリアスゲーム』の刊行から、ちょうど8年目ということで、Ludix Labのフェローみんなで、「ぜひ、記念イベントをやりましょう!」と盛り上がり、実現したものです。
多くの方にお越しいただきました。課題図書である『シリアスゲーム』を読んでいる方が半分くらい。あと半分は、「これから読む」ということでした。
最初は、著者である藤本さん自身による『シリアスゲーム』発行の頃の思い出。シリアスゲームやゲーミフィケーションのような言葉がまだまだなかったころ…。セカンドライフとかもありましたね…。
その後、Ludix Labフェロー全員(著書である藤本さんも含めて)、『シリアスゲーム』の各章概説を行いました。
僕は、第1章「ゲームと教育・学習」を担当しました。実は子どもの頃に「バランス・オブ・パワー」というゲームを「おもしろいなあ」と思っていました。下の画面に映しているのがそうなのですが、アメリカかソ連かをプレイヤーは選んで、世界の各国にどのように影響力を及ぼすか、ということを考えるゲームでした。たしか、「威信」というのがゲームのスコアとして使われていました。
こうした体験をすることで、現代社会の授業とかよりも、ずっといろいろ実感できるんじゃないかなあ、と思ったものです。
その後、藤本さんと一緒に、「大航海時代Online」を使って、実際にヨーロッパからアジアまでの航海がどれだけ大変だったかを実感してもらえるような世界史の授業を実施したこともあります。今回、調べてみたら、7年前の実施でした。
「ゲームと教育・学習」の解説
僕が解説した章「ゲームと教育・学習」では、ゲームを教育に利用するメリットが挙げられています。
ゲームを教育に利用するメリット
- モチベーションの喚起・維持
- 全体像の把握や活動プロセスの理解
- 安全な環境での学習体験
- 重要な学習項目を強調した学習体験
- 行為・失敗を通した学習
上で紹介した「バランス・オブ・パワー」は、ふつうに学習したら「米ソ冷戦構造が…」という文章で学ぶだけですが、ゲームをすることで、真剣に考えることができるようになる、ということができます。また、核戦争が仮にゲーム内で起こっても、実際の社会が危険にさらされるわけでもなく、「安全」で「失敗を通した学習」ができる、ということが、良い点だと思います。
一方で、ゲームが教育の現場で受けない10の理由、というのが挙げられています。そのうちの3つを紹介しますと…
ゲームが教育の場で受けない10の理由(ゲーム研究者 リサ・ガラヌー)
- 多くの「教育用」ゲームは「チョコレートで包んだブロッコリー」
- 利用する教師やスタッフの多くは、いまだIT機器に不慣れで使いこなせない
- 面白いゲームは、教育用途には正確さが不十分、正確なものは逆に退屈
このあたりって、8年前に刊行された『シリアスゲーム』ですが、今でもまったく状況変わってないですね。
とはいえ、上手にゲームを教材として使いこなせる先生はいるはずです。
ゲームは、これまでの教え方では興味を持てなかった児童生徒たちに対して、興味喚起をしたり、疑似体験をさせることができる可能性があります。
ゲームは、教育・学習に次の2つを与えてくれる(かもしれない)
- モチベーション
- シミュレーション
授業の中のワンパーツとして使いこなす先生がいれば、大きな可能性がある。
と思います。これから、タブレットなどが学校に導入が進んでいったときに、世界史で大航海時代を教える前に、ちょっとだけでも「大航海時代Online」をプレイしてみるとか、そういう事例が出てくるとおもしろいなあ、と思います。どれだけの冒険だったのか、よくわかると思いますよ!(僕は、アジアまで行けたことがありません…)
そのために、教育現場にどうやって導入していくのか、という事例を見てみたいな、と思いました。
教育現場へのシリアスゲームの導入に向けて。1,教育利用効果を上げるための機能追加。2,教師用ガイドの提供。3.ユーザーコミュニティ形成の支援。教師用ガイドが、教科書の指導ガイド的な感じになっていれば、先生方も使いやすいかな、と思います。 #SG_8th
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) 2015年2月20日
藤本さんによる「刊行から8年後の補稿」にて、学校もゲーム開発者の活躍の場になってきている、ということが伝えられました。Quest To Learn(ニューヨーク市の公立中高一貫校・2009年~)。CICS Chicago Quest(2011年~)。PlayMaker School(2012年~)。職員室でゲームデザイナーが学校運営に参画している学校がすでにあるのです。
いや、本当に行ってみたいですね。どんなふうになっているのか。ゲームデザイン的な部分と、伝統的な授業の部分と、どれくらいでミックスされているのか、本当に知りたいです。
New York City's Quest to Learn Public School: Rethinking Learning | MacArthur Foundation - YouTube
Ludix Lab主催で、視察旅行やりたいですね。
シリアスゲームの事例
シリアスゲームの事例として、消防士訓練の「Hazmat:HotZone」の紹介などもありました。こうしたものも、先生方向けの研修などで見せてみたいな、と思いました。
Hazmat Hotzone Project2 - YouTube
参加者が文献を読みながら参加
こうして参考文献が明確になっていると、プレゼンをしている最中にも、参加者のみなさんがページをめくって、いろいろと考えてくださっている様子が見られて、本当にうれしかったです。
藤本さんのブログのエントリーもぜひご参照ください。
「シリアスゲーム」刊行8周年記念トークセッションを開催しました | Anotherway
また、他にも「ゲームと教育・学習」というテーマでおもしろい本を、藤本さんが訳されていますので、ぜひこちらも合わせて読んでみてください。