教育ICTリサーチ ブログ

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武雄市「ICTを活用した教育(2014年度)」第一次検証報告書を読んで(2/2)

 前回の武雄市「ICTを活用した教育(2014年度)」第一次検証報告書を読んで(1/2) - 教育ICTリサーチ ブログの続きで、今回は後半のプログラミング教育に関する部分を中心に読んでいきたいと思います。

武雄市でのプログラミング教育

 東京IT新聞で「<佐賀県武雄市>小1にプログラミング教育、異例の先進実験で成果」という記事が出ました(2015年6月11日)。
http://dot.asahi.com/tokyo-it/2015061100028.html?relLink=org2dot.asahi.com

 記事から、武雄市でのプログラミング教育に関する部分を引用します。

 昨年(2014年)秋から佐賀県武雄(たけお)市で行われている小学校低学年を対象としたプログラミング教育が順調に進んでいる。同市とディー・エヌ・エーDeNA)、東洋大学三者が共同で取り組んできたもので、「公立小学校の1学年全員を対象に実施したケースはおそらく全国でも例がない」(東洋大学の松原聡副学長)という先進的な実証実験だ。

 プログラミングについては、市内の1校で導入しているものです。

 武雄市iPadが日本で発売された直後の2010年には既に40台を小学校へ導入しており、その後も範囲を拡大。今年度までに市内の全公立小中学校の児童や生徒全員に一台のタブレット端末を配布する。これまでに学習支援システムや電子黒板を活用した授業を実戦するなど、教育のIT化に積極的な自治体として知られている。


 その一貫として、実験的に行われたのがプログラミング教育だ。現在、義務教育に正規の授業として導入しようという議論が活発となっているが、武雄市では小学校低学年を対象にいち早く実践している。


 今回の実証実験では、同市内の公立小学校1校で1年生全員となる39名を対象に昨年(2014年)10月から今年2月まで、全8回にわたってプログラミングに関する授業が行われた。

 実際に小学校での授業を見たわけではないので、記事で紹介されているような授業だったかはわからないが、報告書の中からプログラミングの部分を読み込んでみたいと思います。

ツールの設計、授業の設計

 プログラミングの授業は、報告書の方で見ると「2014年10月から2015年2月まで、隔週で課外授業として行った」とされています。
 プログラミングのツールについては、Scratchやプログラミンや、いろいろなツールが存在しますが、武雄市ではツールはDeNAが提供しています。記事で読むと、講師もDeNAの方がされているようです。
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 報告書の中に、進行案が書かれていました。
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 プログラミング教育にときどきあるコマンドをひたすら覚えてやってみる、という感じよりは、「画面の外にはみ出しちゃうと困るから、何とかしよう」みたいな感じに、問題解決の形にしているあたりはいいな、と思いました。ゼロから作らせると、本当に教えたい部分に到達するまでにすごく時間がかかってしまいますし、プログラムの完成形がバラバラになってしまうために、教える側も大変になってしまいます。基本的な授業設計ですが、こうした部分をしっかりすることは非常に大きな意味を持ちます。

プログラミング授業に対する評価

 報告書の中で、「プログラミング教育の評価について」という章があります(p.21)。そこでは、目標について触れられていて、以下の力などがつくことを目標として挙げています。

  • 筋道を立てて考える力(論理的思考力)
  • 構成等を考える想像力
  • 空間認識や距離感覚等の立体認識力

 そして、アンケートで評価が行なわれています。まず、「プログラミング授業は楽しかったですか?」という設問(総回答数は261)ですが、98%が「たのしかった」と評価しています。楽しいと思った理由も知りたいな、と思いました。「その理由も教えて下さい」と小学校1年生に答えてもらうのはちょっと大変だと思うので、選択肢にするとかヒアリング調査をするとか、した方がいいと思います。タブレット触れるから楽しい、というのとちゃんと分かれているのかな、と心配になります。
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 次に、「先生の説明はわかりやすかったですか?」という設問(総回答数は261)ですが、90%が「わかりやすかった」と評価しています。ですが、これは「何を説明するか」によって、「(その説明が)わかりやすかったですか?」とならなければ、授業評価としてはちょっと物足りないかと思いました。上で挙げていた「筋道を立てて考える力(論理的思考力)」「構成等を考える想像力」「空間認識や距離感覚等の立体認識力」につながる内容の説明がわかりやすかったのか、ということを見たいな、と感じました。
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 そうすると、当然、「何を教えるのか」という学習目標(Learning Objectives)をどのように設定しているか、というのと関わってきますので、そこまで追いかけてほしいな、と思いました。
 授業を見ていないので、個人的な意見としてですが、小学校1年生で「筋道を立てて考える力(論理的思考力)」「構成等を考える想像力」「空間認識や距離感覚等の立体認識力」を理解させようと思ったら、隔週で8回の授業ではちょっと少ないのではないかと思いますし、企画を立てて、自分なりにやり方を考えてみて、それを試してみて、エラーが出て、デバッグして、自分の思った通りの動きをプログラムがした!と感動するところまでやるには、時間が足りないのではないかな…と感じているので、そのあたりが授業提供側の意図と、学習者側の状況・感想を合わせて見たいな、と思いました。

 図表27では、「何が楽しかったか」という回答が出ています。
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自分が指示した「お願い」*1でキャラクターが指示通り動くことに喜びを見いだせたことと、自分の作品を発表することによって得られた達成感が大きかったことが分かる。

 と図表の下に書かれているのですが、これで見ると、「発表する(38%)」「キャラを動かす(36%)」で上位2項目です。プログラミングそのもののねらいである(と思われる)「ブロックをつなぐ」「やり直し(ブロックのつなぎ直し)」はそれぞれ、10%、3%なんですね。
 ここも、上の「わかりやすかったですか」と同じで、授業提供者が「楽しい」と思わせたかったところがきちんと楽しかったのか、もう少し細かく評価を見たいな、と思いました。

まとめ

 こうして数字で状況を報告することはとても大切なことだと思います。ですが、「プログラミング教育ってどんなもの?」と注目している人が多くいる現状では、先生方に、「ああ、こういうところが児童・生徒に響くんだなあ」「こういうところが教えるときには伝えにくいな」と建設的に評価してもらえるようなデータがもっと入っているといいかな、と思いました。
 1年生なので、評価するのは難しいですが、インタビューなり、観察なり、手法を工夫すれば、もっともっといろいろな背景が見えてきそうだな、と思いました。
 第二次報告を、楽しみに待ちたいと思います。

(研究員・為田)

*1:プログラミングツール内での「コマンド」をこう呼んでいます。