教育ICTリサーチ ブログ

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デジタル時代に生きる中高生の未来を考えるIT教育(Life is Tech! 代表 水野雄介 氏)

 9月17日の第62回 デジタル教科書教材協議会(DiTT) 勉強会にて聴講した、Life is Tech!の水野さんによる、「デジタル時代に生きる中高生の未来を考えるIT教育」のメモを公開いたします。
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Life is Tech!とは

 水野さんはLife is Techの代表であり、プログラミング教育のキャンプをいち早く立ち上げた人です。日本中の大学で中高生を対象にこれまでにのべ13,000人の参加者が、Life is Tech!のキャンプに参加しているそうです。
life-is-tech.com

まずは、水野さんのバックグラウンドから講演はスタートし、Life is Tech!のキャンプがどんなものなのか紹介されていきます。

  • もともと教師をやっていた。高1に物理を教えていた。
  • もっと伸びるようなことをしたいと思って、一人の先生としてではなく、サービスとして子どもたちを伸ばす方が早いと思って5年前にスタート。
  • 中学生、高校生向けに、最先端のプログラミングを、というのをやっている。
  • 夏休みのキャンプをやっている。
  • キャンプは最後にムービーを作ってあげてプレゼントしている。5~6人で1チームで、1人の大学生メンターがつく。

 プログラミング教育として見るなら、Life is Tech!の最大の特徴は、「キャンプでやること」「ハンズオンでやること」だと思います。この点についても、水野さんからのお話がありました。

  • リアルであることの価値を大事にしたい。
    • ただスキルを身につけるなら、Webでも本でもできる。
    • リアルの価値、学校では認められないプログラミングの価値を共有できる仲間と会える、リアルの場。
  • 子どもたちは、3時間でも人生が変わる可能性がある。
  • 子どもたちが希望を将来に持てるような、そんなキャンプをやっている。
  • 全国の15大学でやっている。全14コース。人気はiPhone、ゲームのコースなど。今年は、マイクラのコースも作った。
    • 大学でやることで、「こんな大学で研究したいな」とか思う。
  • 大事にしているのは、プロと同じ土俵でやること。
    • Swift、Java、Unityなど、プロが使うのと同じ物を使う。キャンプが終わった後も続けて、リリースを目指す。
  • 1対40だと子どものことを見られない。1対5とか1対6ならば、ひとりずつを見ることができる。一人ひとりの特長、好きなモノに合わせられるのが、大学生メンターが教えるキャンプのいいところ。
    • 年間150人くらいのメンターを採用。100時間の研修。受かった子だけが現場に。IT界のディズニーランド。
  • 「楽しくて来ちゃってたら、勝手に学べてた」というのが理想。それくらい楽しく学ぶべきだし、自律的であるべき。
  • 伸びるのは好きなもの、学びたいと思うもの。子どもでも社会人でも同じ。
    • 学びはモチベーション。
  • 2015年夏までにのべ13,000人参加。
    • 8割から9割は初めてアプリを作る子たち。

 「子どもたちは、3時間でも人生が変わる可能性がある」というのは本当にその通りだと思いますだから、「リアルの価値」を重視する、Life is Tech!のコンセプトにすごく共感します。

Life is Tech!が変えていく教育

 水野さんが、Life is Tech!のビジョンを語ってくれました。

  • ビジョン:年間20万人の子が、デジタルなものづくりを。
    • 日本で高校野球をやっている子たちと同じくらいの数字に。
    • ITを好きな人は現場に出ればたくさんいるが、みんなユーザー側。作る側を増やし、「かっこいい」と言われるようにしたい。
  • IT界の錦織圭=ヒーローが生まれて欲しい。
  • 親が支援をしてあげないと実現は難しい。「パソコン好きならがんばりなさい」と親が言えるようにしてあげたい。

 比喩として、「高校野球をやっている子たちと同じように」という言葉をおっしゃっていました。これは非常に力のある言葉だと思います。以前、水野さんと話をしたときに、「高校野球くらいの裾野ができれば、そこからイチローのようなワールドワイドな活躍をできる人材が生まれてくる」とおっしゃっていたのを思い出します。


 現在、どの国もプログラミングに力を入れ始めています。アメリカのオバマ大統領がアメリカの若者たちに語りかけている動画を見ると、ただ消費者側にいるのではなく、作る側に回ろう、というメッセージを送っているのがわかります。
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 実際にキャンプでプログラミングを教えているLife is Tech!が大事にしていることとして、4つのことを紹介してくれました。

  • Adaptive Learning 一人一人を見ること
  • Active Learning 学びのモチベーションをつくること
  • Social Learning 新しい世界を知り、踏み出すこと
  • Presentation Learning 自己表現し、自信をつけること

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 この4つのことは、プログラミング教育だけの話ではないと思いました。新しい教育の形として、一般教科などでも取り入れられる部分が多い話ではないかな、と思いました。プログラミングは、問題を自分で設定し、それを解決していく過程の連続だと思っています。だからこそ、正解がなく、自分たちで考え続けて意思決定をしていける子を育てるために、こうした要素は一般教科などでも必要だと思います。Life is Tech!が、これまで13,000人の子どもたちと向き合ってきて、大事にしてきた教えるポイントは、きっと学校の教室の中でも役立つものだと思います。

Life is Tech!のビジネスモデル

 続いて、Life is Tech!のビジネスモデルについての紹介がありました。

  • ビジネスモデル
    • 3割がB2B、7割がB2C
    • 13,000人の半数が無料、半数が有料。
    • 学校でやるときは無料でやっている。
  • 2020年 IT教育の仕組み
    • 出口:活躍の場(ドラフト、大学、起業、メンター)
    • 中身:育てる(学校、オンライン、甲子園)
    • 入口:初めての人を増やす 公教育、キャンプ、Kids
  • 経済格差、地域格差情報格差を超えていく。
  • LiTは「プログラミング教育のピクサー」を目指す。
    • どこででも学べる。

 非常におもしろいのは、入口、中身、出口と3つに分けて考えていること。特に出口のところにある、ドラフトは本当におもしろいと思います。
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 さっきの「IT界の錦織圭=ヒーローが生まれて欲しい」というメッセージを実現するために、出口をしっかり作るということは大切です。

Life is Tech!が考える、21世紀の教育改革

 最後に、21世紀の教育改革について、6項目を紹介し語ってくれました。
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  1. IT教育による、創造力の育成
  2. アントレプレナーシップ教育による、実行力の育成
  3. オンライン教育による知のオープン化
    • 東京集中を崩す
  4. 先生の力を最大化するプラットフォーム
    • いかに先生の力をエンパワーメントするか
    • TECH for TEACHERSリクルートと一緒に)
      • 先生は、最先端の「情報」の授業を。TECH for TEACHERSは、カリキュラムを。すべて、無料で。
      • ITは早い。先生がすべてやるのは無理。「無料で導入」「30分で授業の準備」「創造性を高めるカリキュラム」を提供。
      • ITは便利なもの。なのに、いまは導入することで負担が増えるということになってしまっている。
      • 動画教材(1講義=5分×3、10回講義、2コース)、プリント、スライド(先生のネタ帳、先生はファシリテーションに集中できる)、学習指導案(評価制度まで含む)を提供
      • いま、400人くらいが登録して使ってくれている。
  5. 21世紀の学校
    • 学校を作りたいと思う。やりたい教育がたくさんある。10000人の学校が作りたい。
  6. グローバルに学び合う土壌

 TECH for TEACHERSは、本当におもしろい試みだと思います。現在、400人の先生が登録して使っているとのことです。授業でどう使うか、が考えられていると思います。
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 Edu×Tech Fes 2013 by Life is Tech !の際に水野さんが話している「21世紀の教育改革」の動画がYouTubeにアップされていますので、こちらもぜひ。
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 講演の最後に、水野さんは「情報の授業が体育の授業より楽しくなるのを目標に」とおっしゃっていました。キャンプの現場で実際に中高生にあって、TECH for TEACHERSで先生方に会っているからこその言葉だなと感じました。
 まだまだ広がっていくだろうプログラミング教育。その中心としてのLife is Tech!、そして水野さんにこれからも注目していきたいと思います。

(為田)