教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

西川純『アクティブ・ラーニング入門』 ポイントメモ

 学校を訪問するときに、先生方から授業の説明を受けます。そのなかで、非常によく聞くようになってきた言葉は、「アクティブ・ラーニング」です。生徒が一人1台のタブレットを持っていて、先生とのやりとりをすることで「アクティブ・ラーニング」と呼んでいることもありますし、先生と生徒の間での情報のやりとりをする授業を「アクティブ・ラーニング」と呼んでいることもあります。
 「アクティブ・ラーニング」とは何か、基本から学ぶことで、授業を変えていくお手伝いをより的確にできるのではないかと思い、信頼する先輩方に「どんな本を読んだらわかりますか?」と訊いたら、まずは3冊、オススメをいただきました。その3冊を順に紹介していこうと思っています。
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 まずは「アクティブ・ラーニングがどのように先生たちの仕事を変えるのか」がいちばんしっかりはっきり書かれているとともに、大学と大学入試と高校が変わることで、小学校・中学校・高校の先生方の仕事がどう変わるのかをわかりやすく書かれている、西川純『アクティブ・ラーニング入門 会話形式でわかる『学び合い』活用術』をご紹介したいと思います。対話形式で書かれているので、非常に簡単に読み進めることができます。ところどころ、ドキッとするような会話が入りますので、それも良いアクセントになっています。

注目しておくべきと思う箇所を簡単にまとめてみます。関心をもっていただけたなら、ぜひ書籍を手にとって読んでみてください。

アクティブ・ラーニングの定義

 まず、「アクティブ・ラーニング」という言葉の定義を確認しましょう(p.8-9)。アクティブ・ラーニングという言葉の定義は、平成24年8月28日に発表された「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」の用語集の中にあります。

教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニングの手法である。

 この定義は、何度も何度も立ち返って読んでおく必要があると思います。

大学入試が変わる

 中教審の「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」という答申の中で、試験制度の改革が盛り込まれています(p.26)。大学入試は、以下のように変わっていくことが、決まっています。

  • センター入試の廃止
  • 「高等学校基礎学力テスト(仮称)」で基礎学力を評価する。高校段階における学習成果を把握するための参考資料の一部として用いる。
  • 「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」で「知識・技能」を単独で評価するのではなく、「思考力・判断力・表現力」を中心に評価する。
    • 「教科型」に加えて、現行の教科・科目の枠を越えた「思考力・判断力・表現力」を評価するため、「合教科・科目型」「総合型」の問題を組み合わせて出題する。将来は「合教科・科目型」「総合型」のみとし、「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」を総合的に評価することを目指す。
    • 解答方式については、多肢選択方式だけでなく、記述式を導入する。
    • 年複数回実施する。
    • 「1点刻み」の客観性にとらわれた評価から脱し、大学及び大学入学希望者に対して、段階別表示による成績提供を行う。
    • CBT方式での実施を前提にする。
    • 英語は四技能を総合的に評価できる問題にする。民間の資格・検定試験を活用する。
  • そのうえで、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の成績に加え、小論文、面接、集団討論、プレゼンテーション、調査書、活動報告書、大学入学希望理由書や学修計画書、資格・検定試験などの成績、各種大会等での活動や顕彰の記録、その他受検者のこれまでの努力を証明する資料などを活用することが考えられる。=多元的な評価尺度によって、「確かな学力」として求められる力を的確に把握することを目指す。

 今回の答申に対応して発表された高大接続改革実行プランの中には、工程表がある。(p.33)
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 工程表を見ると、高等学校基礎学力テスト(仮称)が平成31年度開始。そして大学入学希望者学力評価テスト(仮称)が平成32年度開始となっている。「つまり、いまの小学校、中学校の子どもは新テストを受験するということ。だからむしろ、小学校、中学校の方が待ったなし」(p.33)だということです。

大学入試が変わると…

 大学が変わり、大学入試が変わり、高校が変わる、そうすることで、変革の波は中学校、小学校の先生方のところまで及びます。「授業を変える」ことをしなければならなくなります。世界レベルで戦える人材を育てるスーパーグローバル大学を作るために、学校英語も抜本的に変わっていかざるをえなくなります。そのために入試制度も変えていくことが、すでに工程表に載っています。
 大学入試が変われば、そのために高校が変わります。高校が変われば、小学校中学校も変わります。先生たちは変わらなければなりません。(p.54-p.59)

<高校が変わる>

  • スーパーグローバルハイスクールとスーパーサイエンスハイスクール用の高校教師と、それ以外の高校教師に分かれていく
  • ドイツやフランスでは、大学進学向け高校の教師と職業教育進学向け高校の教師はまったく違う職種

 ↓
<中学校、小学校も変わらざるをえない>

  • スーパーグローバルハイスクールとスーパーサイエンスハイスクールは、自分たちの教育に耐えられる子どもを入学させようとする
  • そのために、高校入試も変わる。高校入試のために、中学英語も変わらざるをえない。
  • そうしなければ、子どもと保護者から見捨てられる。特に怖いのは、頭の良い子、つまりクラス経営で教師が頼りにする子どもから見捨てられる。これは小学校の先生も同じ。

 とはいえ、すべてが一気に変わるわけではないと思います。ですが、変わる大学と変わらない大学に分かれる。変わる大学に入るために、どういった学びが必要かは明示されています。試験制度も工程表の中でいつ変わるかが書いてある。そこについていかなければ、学校は期待に答えられないということになります。(p.61)

  • 今回の改革で本当に変わるのは、スーパーグローバル大学と、そこに卒業生を入学させようとするスーパーグローバルハイスクールとスーパーサイエンスハイスクール、そしてトップ進学校だけ。
  • スーパーグローバル大学以外の大学はTOEFLを課すかもしれないが、概ね、今と変わらない入試を行い、今と変わらない講義をして、今と変わらない卒業生を社会に送る。
  • 同じようにアクティブ・ラーニングに対応できない高校は、概ね、今と変わらない入試を行い、今と変わらない講義をして、今と変わらない卒業生を社会や大学に送る。
  • 狭間(スーパーグローバルハイスクール、スーパーサイエンスハイスクール、トップ進学校とそれ以外の高校)にいる生徒と教員は大きく混乱する

 文部科学省が本気で進んでいくと決めた方向に学校を変えていく、児童生徒を育てていく、というのであれば、アクティブ・ラーニングをするしかありません。先生方には変化が求められています。そのひとつとして、西川先生は『学び合い』について紹介をしています。

だからこそ、『学び合い』

 現場が混乱するであろう、ということを見越していて、だからこそ、『学び合い』が重要だと、西川先生は書いています。本書の中で、西川先生は『学び合い』について語っていますが、その中でも、以下の3箇所を読んで「自分でもトライしてみたいな」と思いました。

  • 『学び合い』は、「一人も見捨てないということを毎日の教科学習の時間に求め続ける授業」(p.70)
  • 『学び合い』では全員達成したか否かを語るんだよ。『学び合い』では子どもたちの「素」がもの凄く分かるよ。遊んでいる子はいる。丸写しをしている子はいる。逆に、一生懸命に全員が出来るように動いている子もいる。それが全部見えるんだよ。そのことを見取って、最後に心を込めて語るんだ。(p.74)
  • 「座りなさい、静かにしなさい、勉強しなさい」と言うより、「立ち歩いてもいいよ、相談してもいいよ、でも、一人も見捨てては駄目だよ」と言うのとどちらが簡単?(p.75-76)


 動画で『学び合い』の授業の様子を見ることができる、西川先生のサイトのリンクを貼っておきます。
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『学び合い』の細かい方法に関する「読書ガイド」

 p.79には、『学び合い』の細かい方法に関する「読書ガイド」が書かれています。興味を持った先生は、ぜひ読んで見られるといいと思います。

まとめ

 西川先生の強いメッセージが詰まった本だと思いました。分量もそう多くはありません。あっという間に読めます。が、内容は今後の高等教育の変化、入試の変化、先生方に求められる変化など、畳み掛けられる感じです。特に、教育行政の全体の動きをフォローするために読むべき本だと思いました。

(為田)