教育ICTリサーチ ブログ

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週刊東洋経済 10/24号 「教育」の経済学を読んで ~ 非認知スキルは学校で上げましょう!

 週刊東洋経済 10/24号の特集が「教育」の経済学です。表紙には、「その子育て、間違っていませんか?」「科学でここまでわかった!悪い教育 良い教育」「子どもの生涯年収を決める「非認知スキル」の高め方」と刺激的な文言が。

 15万部を超えた中室牧子 慶應義塾大学准教授の『「学力」の経済学』からも多く引用がされています。著書も、今回の週刊東洋経済の記事もどちらも楽しく読んだのですが、何だかモヤッとしている部分も残るのです。

教育に科学的根拠を、というのは大賛成

 「なぜ今“教育経済学”なのか」のところで述べられている「POINT1 教育に「科学」の目を持ち込む」については大賛成です。

「財政や金融政策などについては、客観的事実に基づく現状分析が議論を先導している。その一方で、議論が教育再生に及んだ途端、「私の個人的な意見ではあるが」などといって、個人的な体験に基づく主観的な意見が大勢を占める。(p.50)

 これでは、上に積み上がっていきません。そもそも「何を目指す政策で、そのためにどんな手段をとっているのか」が明確になっていないこともいけないのですが、以前に武雄市の調査についてのところでも書いたように、メディア側もこれを評価しようとしません。

 目的と手段を明確にしないから、「POINT2 「相関関係」ではなく、「因果関係」を明らかにする」も実現できないのだと思っています。現状の「教育の情報化」もまさに、この目的が明確になっていないから難しい、というところにひっかかっているのだと思っています。特に、公立学校だとあまりにたくさんの事情がある学校があり、ある程度の規模の自治体になると数多くの学校に対して平等に施策を打つ、ということが非常に難しいと思います。
 シンポジウムやパネルディスカッションでご一緒した自治体の何人かの指導主事の方は、学校ごとに配備希望をプレゼンテーションさせて決めたりしていました。どんな目的を実現しようとしていて、そのためにどれくらいの配備規模(=手段)を用意するのか、ということを明確にしていくべきだと思っています。

非認知スキルはどう伸ばすのか?

 教育に科学的根拠をということには大賛成な一方で、記事を読んでもモヤッとしている部分もありました。それは、p.62からの「学力より重要だとわかってきた 非認知スキルとは!?」というところ。認知スキルと非認知スキルについて簡単にまとめると、以下のようになります。

  • 認知スキル
    • IQ(知能指数)や学力など数値化が可能な能力
    • これまで教育現場で向上を目指してきたもの
  • 非認知スキル
    • 気質や性格など目に見えない力の総称
    • 近年、経済的・社会的な成功に大きな影響を及ぼすという研究成果が多く報告され、注目を集めている
    • 「思いやり」「協調性」「やりぬく力」「社交性」「自制心」「勤勉性」など、人間が生きていくために大切な能力全般を指す

 この「非認知スキルの伸ばし方」というのが、よくわからないのです。気質や性格など目に見えない力を育てる場所。すぐに思いつくのは幼児期のしつけでしょうか(実際、未就学の時機が重要、というのも書かれています)。僕なりに考えた「非認知スキルを伸ばす要素」は、以下のような場面/機会でしょうか。

  • 家庭でのしつけ、子育て方針
    • 僕は、非認知スキルを磨く場の基礎は、家庭だと思っています。「思いやり」「協調性」「やりぬく力」「自制心」「勤勉性」など、上で挙げられているスキルの多くは、幼児期に獲得するものだと思うからです。ただ、家庭教育はなかなか変えにくい。保護者の子育て方針を変える、というのは容易ではありません。
  • 家庭以外での承認の機会
    • サッカーのクラブに入ったり、バンドをやっていたり、地域での活動などで認められることで、「がんばる」→「承認される」という流れができれば、「やりぬく力」や「勤勉性」は育つかな、と思います。
    • ただ、ここには才能であったり、体格であったり、いろいろと条件があるような気がします。努力したら全員が活躍できるわけではないですよね、残念ながら。

実は、勉強をトリガーにして非認知スキルを上げるのがいちばん手っ取り早いのではないか?

 そう考えると、実は「学校での勉強」というのがいちばん非認知スキルを伸ばしやすいのではないかな、と思っています。勉強は、実はとてもフェアです。以前に、Twitterでまわってきた以下のTweetが、非常に「そうだなあ」と自分の意見に近いです。

 ただ、勉強は結果が出るまでに時間がかかるし、苦手な科目は逃げ出したくもなるし(逃げてもけっこう大丈夫だし。後で苦労するだけで)、だからこそ学校という場所で、先生がどう教えるか、というのが非常に大切だな、と思っています。
 テストの点が上がること(=認知スキルの向上)はもちろん、「がんばったから点数が上がった」と自分に自信も持てるし、「やりぬく力」や「自制心」や「勤勉性」などの非認知スキルも上がっていくのではないだろうか、と思います。テストの点が上がらなくても、上手にほめてあげて、あるいはクラス内で教え合う空気を先生が作ってくれたりすることで、先に非認知スキルが上がり、そこからテストの点が上がるということも考えられるのではないだろうか。

 「認知スキルを上げる方法=勉強の教え方」と「非認知スキルを上げる方法=勉強に向かわせる方略」は、学校の先生方が持っていると思う(中室先生も今回の記事の中でそう言っています p.52)。だから、その先生方が教室の中で行なっている振る舞いであるとか、言葉のかけ方であるとか、そういったものをこそ、科学的に分析して横展開できるようにしてほしい。結果、学校という子どもたちが長い時間を過ごす場で、認知スキルと非認知スキルを両方伸ばすことができるようになるのではないか、と思うのです。

 以前、セサミストリートのリサーチを仕事でしていたのですが、そのときには幼稚園児にエピソードを見てもらって、「何分何秒で画面から目を逸らしたか」「どのセリフで笑ったか」などの行動の記録や、つぶやきなどの記録も詳細にとりました。そうしたものを分析して番組作りに活かしています。それと同じように授業でも、どの部分で黒板を見なくなった、とか。先生が黒板に向かっている時間は何分くらいだった、とか、数値化できる部分はまだ教室にたくさんあると思うのです。あれも、エビデンスベースだな、と思っています。

ICTの導入でも、非認知スキルを伸ばすことができる

 教室での授業×ICTの組み合わせで、非認知スキルを上げることは可能だと思っています。そうした動きもいくつかあります。プロジェクトに関わらせていただいている凸版印刷の「やるKey」もそうです。
blog.ict-in-education.jp
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 少し方向性は違いますが、先日の岡山大学・寺澤孝文教授の研究室が行なっている取り組みもそうです。
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 全国の先生方のノウハウを結集すれば、非認知スキルを学校が上げることだってできると思います。施策をとって、それを科学的根拠で裏付けていきましょう。実際にどう教育現場で機能するのか、しっかり科学的にリサーチしていって、先生方を助け、「認知スキル」も「非認知スキル」も上げるお手伝いができるように、仕事をしていきたいと思っています。
 「教育経済学」について、学校の先生方からコメントをあまりお聞きしたことがないので、ぜひ声も聞かせていただければと思います。

(為田)