3月26日に同志社中学校・高等学校を会場に行われた、D-project春の公開研究会2016 in 京都に参加してきました。テーマは“「主体的」と「協働的」をダイナミックに授業デザインする”で、放送大学教授の中川一史先生のキーノートスピーチから始まり、現場の先生方によるディスカッション、ワークショップ、研究者の先生方によるディスカッションと盛りだくさんの内容でした。それぞれのパートに参加してのレポートをシリーズでお届けしたいと思います。
今回は、ディスカッションをレポートします。テーマは“私が考える「主体的」「協働的」な学び”でした。登壇されたのは、豊田充崇先生(D-project副会長/和歌山大学)、山中昭岳先生(D-project副会長/関西大学初等部・当時)、小林祐紀先生(茨城大学)でした。
ディスカッションの中で出てきたポイントをメモしていきたいと思います。3人のなかで、豊田先生がモデレーターとして話を進めていきます。以前から気心がしれた3人という感じで、聴いている側もリラックスして聴くことができました。豊田先生から小林先生と山中先生に、それぞれの先生が考える「主体的な学び」とはどういうものか。また、そうしたことができた授業事例を紹介してください、と投げかけてディスカッションがスタートします。
主体的な学びとは?
小林先生は、「主体的な学びは、学習者の中から沸き起こるもの」だと言います。外側から強制してパッシブ・ラーナー(Passive Learner)=受動的な学習者を増やすのではなく、勇気づけ、価値付け、支援することで、主体的な学びを助けていきたい、という思いを語られました。
学級風土の大切さ
山中先生は、学級風土がとても大事だということを最初に話されました。学級風土をありきとして、さまざまな授業ができるのだ、というのは、ICTを導入して指導案を用意するだけで突然授業が良くなるわけではなく、授業を変えるための学級風土と合わせて変えていかなければならない、というメッセージだったように思いました。
また、「教師自身が空気みたいな存在になれたらいいと思う。なければ生きていけないけど、あってもあるかないかわからない。」ということもおっしゃっていました。子どもたちが、自分たちで考動してほしい、と思っていると話されました。
授業の事例として、修了式の次の時間の授業の様子を紹介してくれました。5年生が1年間iPadを使って、どうやったかを新5年生に引き継ぐという授業で、ルーブリックを子どもたちと一緒に作ったそうです。授業の中では、マンツーマンで5年生が4年生に教えるようにすることで、自然とグループ化していき、どうまとめていくかを相談が始まり、自分たちなりのゴールを見据えていくようになった、というふうに紹介してくださいました。
山中先生からのプレゼンテーションをうけて、小林先生から「異学年の交流があるのが非常にいい」というコメントがありました。「自然と協働になっていく」というところは、まさにそうした状況が、教室ではしばしば起きているように思います。そのために、最初は教師が手を変え品を変え環境をセッティングしますが、それに価値を感じ始めると子どもたちが自発的にグループを作り始めていく、そうした環境を作るということが、山中先生がおっしゃっていた、学級風土ということなのかな、と思いました。
続けて、豊田先生が、「環境はとても大事です。普通の公立学校だったが、“学習動線”を作っていたとおっしゃっていました。例えば、教室の中での次のような行動が起こるように環境を作ったのだそうです。
- 自分の必要な部分に出かけて作業をして、まだ戻ってくる。
- 自分の活動内容や活動場所、何のツールを使うかまで含めて判断する。
こうした環境を作るのは形から入って、雰囲気を実感させて、それから実践していったそうです(反対も多かったそうです)。「雰囲気を実感させてから実践する」というのは、実践へいたるまでのひとつの方法論だなあ、と感じました。
山中先生がプレゼンテーションの資料として提示したD-proが提唱する2つの学力(確かな学力と豊かな学力)を用いて、「豊かな学力の前に、確かな学力をしっかり身につけさせる」ことが必要だということです。こうした考え方は、非常に重要だと思います。「学力」と大きな言葉で考えるのではなく、「学力」はどのような要素から構成されているのか、というのを分類していくことで、それぞれに必要な学習環境、学習方法、教材、ICT…というふうに建設的に考えることができるようになっていくと感じました。
「なぜそうした実践をしているのか?」
最後に、「なぜそうした実践をしているのですか?」という問いかけが豊田先生から行われました。その問いに対する先生方の回答が印象的でした。
- 批判性に開かれた信念にもとづいて。「人は関わり合いの中で成長する」と思っているから、こうした授業をしたい。(小林先生)
- 教師自身が主体的・協働的でないと、そうした授業はできない。(豊田先生)
- 私は、信念はあまりない。こだわりがないのがこだわり。そのときそのときで、子どもたちにとって良い実践とは何かを考えている。そうすると、必然的に「常に新しい物を求めて」といいうふうになる。いまは、思考力が大事だと思っているので、思考力に取り組んでいる。自然も大事だと思っている。それをミックスしたりもしている。(山中先生)
- そもそも、教師になるつもりはなかった。ワーキングホリデーで行ったニュージーランドの学校が日本と全然違っていて、それを見て「これからこういう教育をしなければ」と目覚めたのがきっかけ。授業を大事にしたい。でも、空気みたいな存在で。(山中先生)
豊田先生から、「卒業生のbefore-afterみたいなエピソードはありますか?」という質問から、2年間、iPadを一人1台持たせて感じたことを山中先生がお話されました。
- 新しい基礎基本として、読み・描き・計算・そしてICT 情報活用能力(思考力)
- (たくさんある情報の中から必要な)情報を収集し、
- (思考スキルを活用して)情報を整理・分析し、
- (一人ひとりが自分なりの)情報を発信する
- この↑( )の中が大事だな。
- 保護者が「なぜ一人1台必要なのですか?」と訊いてきたら、「基礎基本だからです」ときっぱりと答えている。
- 一人ひとりが自分なりの発信をする。思考や発信の基本的なトレーニングをしている。それもすごく大事だと思う。
- 学習はすごくおもしろい。もっとしらべたい。でも、「集中して取り組めた?」というのには評価が低い。→なぜ?→一人1台もたせると、今までの情報伝達の授業スタイルではだめなんだな、と思います。
- 授業デザインの変革が必要なんだな、と思う。
まとめ
最後に山中先生がおっしゃっていた、新しい基礎基本として、ICTによる情報活用能力が入ってきたのだろう、というのが非常に納得いきました。「情報を収集し、」「情報を整理・分析し、」「情報を発信する」という3つの項目が挙げられたのですが、これをより具体的にした、( )がついた3つの項目がとても大切だと思いました。
- 新しい基礎基本として、読み・描き・計算・そしてICT 情報活用能力(思考力)
- (たくさんある情報の中から必要な)情報を収集し、
- (思考スキルを活用して)情報を整理・分析し、
- (一人ひとりが自分なりの)情報を発信する
( )をつけることで、より具体的な項目として、全国で授業を作り、実践していく先生方の参考になると思いました。
No.3へ続きます。
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(為田)