教育ICTリサーチ ブログ

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D-project春の公開研究会2016 in 京都 取材報告 No.3(2016年3月26日)

 3月26日に同志社中学校・高等学校を会場に行われた、D-project春の公開研究会2016 in 京都に参加してきました。テーマは“「主体的」と「協働的」をダイナミックに授業デザインする”で、放送大学教授の中川一史先生のキーノートスピーチから始まり、現場の先生方によるディスカッション、ワークショップ、研究者の先生方によるディスカッションと盛りだくさんの内容でした。それぞれのパートに参加してのレポートをシリーズでお届けしたいと思います。

 今回は、参加しました、ワークショップ「アプリで思考の分類・整理方法を習得、問題解決力向上へ」をレポートします。講師は、沖縄県沖縄市立山内小学校の豊川多美江先生と沖縄県北谷町立北谷中学校の宮城渉先生でした。
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 最初に、宮城先生から「これからの子どもたちに必要な学力とは」という説明を受けました。情報活用能力を育成することが必要になっていく、ということを説明し、そのために「生徒が夢中になる教材」「教科の壁を越える教材」「お手軽に使える教材」として、ポケタッチを使った実践を行なってきたことを説明していただきました。
 ポケタッチを活用することで、児童生徒が「楽しく学べる」こと、また、ベン図などを使って情報を分類したり比較したりすることを、わざわざ意味を説明しなくても、ポケタッチのなかのポケモンのコンテンツの楽しさによって引っ張られて、自然に学んでできるようになる、ということが伝えられました。
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ポケタッチ体験ワークショップ

 ここで、ポケタッチを使ったワークショップとなりました。株式会社ポケモンコミュニケーションズの柳田智克さんがゲストティーチャーとして教えてくれました。
 ポケタッチは、ポケモンへの高い関心を学びに活かせるように開発された教材ソフトです。子どもたちが、大好きなポケモンと一緒にトレーニングをするうちに、思考力や表現力を身につけられるように設計されています。
http://www.pokemon.co.jp/poketouch/www.pokemon.co.jp

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 ポケタッチは、HTML5で開発されていますので、ブラウザだけで使うことができます。また、Windowsタブレットで、スタンドアロンでも動くそうです。
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 学べる内容としては、以下のようなものがあります。

  • マウス、タブレットの使い方
  • アルファベット
  • タイピング
  • 情報分類・比較(グルーピング)

 今回のワークショップで取り上げられたのは、最後の「情報分類・比較(グルーピング)」です。この内容を、登場する720種類のポケモンを分類していくことによって学んでいきます。ポケモンだからみんなが知っていて、とにかく楽しい。楽しんでいる間に分類がわかる、という構造になっています。
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 例えば、二次元表の表し方など、情報の規則を自分たちで見つけるようにコンテンツが設計されています。先生方も実際にポケタッチを触ってやってみています。子ども目線で楽しんでやっています。
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 もちろん、ただゲームをやっているだけではないので、「これってなんだっけ?」「これってどういうことだっけ?」という振り返りを入れるのが大事だな…と授業での利用方法を考えていた先生方も多くいらっしゃいました。
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沖縄での実践報告と体験授業

 この後、沖縄での実践の報告と共に、実際に授業で行なったことを体験する授業へ進みました。生徒たちは、6月と3月に、北海道とテレビ会議交流を実施したそうで、沖縄の5年生が自分たちのことを調べて北海道に伝える、という活動の前段階として、7月にポケタッチを使って、ベン図へ導入したそうです。
 まずは、個人活動として、沖縄と北海道の情報を付箋に書いていきました。
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 その後、グループ活動として、各自が書いた付箋を比較、分類、整理していき、表やベン図からの気づきを文章でまとめます。ここで、ポケタッチで学んだベン図などの情報整理の手法を使う、という授業設計でした。
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 先生方がグループワークに取り組まれているのを見ながら、せっかくポケタッチを使っているのだから、いっそ北海道と沖縄など、都道府県をポケモンみたいに属性をつけるように考えたりしたらおもしろいかもしれない、というアイデアが浮かびました。そうしたら、全国の都道府県をいくつの属性にするかとかも考えることにもなります。情報を整理するためには、どういった切り口で分類するかを設計するのが実はいちばん重要なので、そこを組み込んだらおもしろくなりそうかな、と。

 最後に、思考力育成の授業設計をしてみる、というワークを行ないました。さまざまな思考ツールがあるなかで、「何のために思考ツールを使うのか?」というところをしっかり設計しなければならないのと、「発達段階に応じたツールを与えるべき。最終的には、子どもたちが判断してツールを使えるように」というような声が挙がっていました。
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山中昭岳先生によるコメント

 最後に、関大初等部(当時)の山中昭岳先生によるコメントがありました。コメントのポイントメモを公開します。

  • ツールで「見える化」する→見えるようになって初めてできることがある。
    • 何のため、何の目的でツールを使うのか。
    • 関大初等部では小学校1年生からツールを与えている。
      • 比較はベン図、分類はXチャートとYチャート、という具合。
    • 図は便利だが、限定して使わせないと混乱する。
    • 思考ツールは、一つ一つ丁寧に広げる。
      • 関大は先端。でも広げるためには、どう授業に埋め込むか。
    • 関大では「考えてみて」という言葉を禁止にしている。
      • 具体的に何をしたらいいのかがわかるような言葉だけを使う。例えば、「比べよう」と言う。
  • 切実感のある課題設定
    • 教師がどれだけ知っているか。

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 最後に、ワークショップに参加した先生から、「こないだ教えた国語の単元でのまとめを、ベン図を使ってやったらよかった、と思いました」という感想が出ていました。こうした閃きを得る先生がいらっしゃることが、非常に意味があると思います。このように実践でのアイデアに繋がるワークショップであることが、D-projectの公開研究会の価値なのかな、と思いました。

 No.4に続きます。
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(為田)

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