教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

D-project春の公開研究会2016 in 京都 取材報告 No.4(2016年3月26日)

 3月26日に同志社中学校・高等学校を会場に行われた、D-project春の公開研究会2016 in 京都に参加してきました。テーマは“「主体的」と「協働的」をダイナミックに授業デザインする”で、放送大学教授の中川一史先生のキーノートスピーチから始まり、現場の先生方によるディスカッション、ワークショップ、研究者の先生方によるディスカッションと盛りだくさんの内容でした。それぞれのパートに参加してのレポートをシリーズでお届けしたいと思います。

 今回は、ワークショップ「メディア創造力到達目標と授業づくり」に参加してきました。講師は、北海道北広島市立双葉小学校の加藤悦雄先生と北海道札幌市立稲穂小学校の山田秀哉先生でした。
f:id:ict_in_education:20160513054759j:plain

f:id:ict_in_education:20160513054824j:plain

教室現場で積み上げる、授業設計力の大切さ

 最初に、加藤先生から、「手の届くところに端末があると、先生も子どもたちも変わる」という話がありました。「たしかに変化はある、問題は“実のある変化”かどうかであり、フューチャースクール事業では、そこまでは解明できていない。その後も同様というのが現状」です、というプレゼンテーションがありました。実は当たり前のことですが、あまりこうしてはっきり言われることがないことだな、と思いながらお話を聞きました。
f:id:ict_in_education:20160513054911j:plain

 加藤先生の言葉は続きます。

そのなかでアウトカムが策定されていて、さらに“教えなければいけないこと”が決まっている。その状態でどうするか?そこが授業設計の力、授業を作っていく力です。端末はiPadでもAndroidでも何でも、なぜ情報端末が必要か、子どもたちを見てたらわかる。

 加藤先生の言葉には、現場で積み重ねてきた知見やノウハウの凄みというのがあるな、と話を聴きながら思いました。現場で子どもたちをどれだけ見てきているか、どんなふうに言葉をかけたら、どんなふうな学びの場ができあがったか。もちろん、正解があるわけではないので、「こうした→こうなった」というサンプルをたくさん持つためには、実践を教室現場で積み上げる。実践から仮説を立てて、また実践して…というのの繰り返ししかないのだな、と思います。
 加藤先生は、アクティブ・ラーニングで「自主的な活動ができるよう、餌を教師が提示できるか」「勉強には使ってない、でも授業とリンクする活動には使っている。そんな情報活用能力を育てる」というふうにおっしゃっていました。


 続いて、山田先生から、「メディア創造力を育成するための、学習サイクル」についての説明がありました。4段階の学習サイクルと4つの到達目標が説明されます。グループごとに学習の流れ1~4のどこかを切り取って考えてもらうグループワークがここからスタートします。
f:id:ict_in_education:20160513055019j:plain

 ワークショップのお題は「『すてきなふるさと新聞』づくり」の授業づくりと発表されました。
f:id:ict_in_education:20160513055045j:plain

 グループごとに学習計画を構想するときには、加藤先生も山田先生も、グループをまわってサポートをします。
f:id:ict_in_education:20160513055112j:plain


 グループワークを行なっている間に、加藤先生とお話をする時間がありました。このグループワークのねらいについて加藤先生は、以下のようにお話をされていました。ポイントをメモとして公開します。

  • 実際に子どもが作るだろうものを仮定して、「1+1=2だよ」と教えこむ形から変わる。
  • 目的から考えるようになり、「どうやって1+1=2」と学んでもらうのか、という設計ができるようになる。
  • 通常の授業では、「1+1=2だ。それは1+1=2だからだ」と、教えこむ形。
  • 穴埋め式になっていて、プレゼンテーションをさせるのもあるが、それだって、レールが敷かれている状態。レールに乗った自主的活動に意味はない。

 これまでやってきた形から授業を変えていくのは、なかなか大変そうです。特に、最後の「穴埋め式になっていてプレゼンテーションをさせる」というふうにレールを敷いていくのは、僕もやってしまいそうだな、と感じました。でもそれは結局、レールを敷いているだけで、自主的活動ではない、ということですよね。
 「先生方にとっても、非常に大変な課題なのではないですか?」と質問したら、以下のようなコメントをいただきました。

  • このグループワークをすると、フリーズしてしまう(=どうしたらいいかわからなくなってしまう)先生が、一定程度いる。
  • 割合で言うと、小学校の先生よりも、高校の先生の方が、フリーズをしてしまう先生は多いかもしれない。学内で教科など、縦割りの壁などが多いからか?
  • これまでのやり方、教え方を捨てる必要がある。そのために、このグループワークをしている。
  • ICTの使い方も、高校ではあまりICTを使っていない。だから、大学入試改革にCBTが入っている。
    • キーボード入力のスキル低下は深刻。小学校で1分間に5.9文字しか入力できない?(全国平均)


 ワークショップの最後には、それぞれのグループでの成果をプレゼンテーションしてもらいました。
f:id:ict_in_education:20160513055231j:plain


 全グループのプレゼンテーションが終わった後、山田先生と加藤先生から、「主体的・協働的な学び」を生み出すための教師の手だてについて、まとめがありました。これも、メモを公開します。
f:id:ict_in_education:20160513055655j:plain

  • 山田先生によるまとめ
    • 教師の手立て
    • 「5年先、10年先」という課題設定をすると盛り上がる。答えのないところで、答えを創り出す魅力がある。
    • チームでやる、グループ一丸でやる、人間の向上力が鍛えられる。
    • ルーブリックは決まり事。毎日やることで、子どもたちの中に落としこむ。
      • そこまで、先生が御膳たてをする。
      • こういうのは教科書に出ていない。
  • 加藤先生によるまとめ
    • 初めて会う人とは大変。
    • 中学、高校、教科の専門性もあって大変
    • だからこそ、こういうワークショップは大事です。
    • 今日のワークショップで、何か閃いて「これはこの教科で使えるのでは?」と思うことが、1つでも2つでもあればいい。そういう心がけに。
    • アクティブ・ラーニングを進めるのも大事なのは教科力←でも、そう簡単じゃないよね…


 こうして、教科力や授業設計力、現場でのノウハウをベースにして、たくさんの先生方がまた主体的・協働的な学びができる指導案を書いていくのだと思います。そうした現場の先生方のノウハウがD-projectで交わり、研究者である先生方によってコメントを受け、洗練されていく、そうした場になっているのがD-projectの良さではないかな、と感じました。

 加藤先生、山田先生、どうもありがとうございました。

 No.5に続きます。
blog.ict-in-education.jp


(為田)