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九州大学 QREC 授業訪問レポート No.1 (2016年10月12日)

 2016年10月12日に、九州大学伊都キャンパスにて行われる、松永正樹先生(九州大学ロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センター (QREC) 特任准教授)の授業を取材に行ってきました。
 今回取材したのは、「テクノロジーマーケティング・ゲーム」という授業の今学期2回めのクラス。授業が始まる前にオフィスを訪問し、松永先生に話を聞きました。
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授業の進め方

 この授業では、学生はStratXというオンラインでできる経営シミュレーションゲームを使って、マーケティングと意思決定スキルを学んでいきます。ICTを活用して、架空のデータを使ってマーケティングを継続的に行っていくそうで、全部で5つのグループが、同一の市場内で競合する5社を担当し、授業ごとにリサーチをし、方針を決定し、意思決定をしていきます。いわゆるシリアスゲームの一種で、「信長の野望みたいですね?」と訊くと、「そうですそうです!」と松永先生。
 5社の状況はそれぞれ違い、各社ごとにマーケットの情報を得るためにはゲームの中で調査に予算を割かなければいけなかったりするそうです。ゲームはピリオド0からスタートして、最長でピリオド10まで行われます。受講生たちはピリオドごとにリサーチをし、自分たちの戦略と戦術を決め、各社が管理運用する製品ブランドごとに予算配分を決め、広告宣伝の方針を決め、営業販売員の配置を決め、と様々な意思決定を行うことでゲームを進めていきます。
web.stratxsimulations.com


 そうして学期の間、ピリオドがどんどん進んでいき、各社の成果を比較していきます。松永先生は、最後の2週は、プレゼンテーションと振り返りを行なうと言います。学期をふり返って、悩んだところを共有したり、「あのピリオドのときには、こんなことを考えていた」というふうにディスカッションをしたりするとのことでした。
 StratXでは、プレイヤーはピリオドごとに自分たちのチームだけでなく、市場全体の動向に関するデータもみることができます(実際の企業がマーケット調査を行うのと同じですね)ので、受講生はこのデータをとっておいてプレゼンテーションや振り返りのときに使用します。勿論このデータは各ピリオドにおける意思決定にもそのまま使うものなので、受講生は期末試験の準備をしているという意識なしに、ただゲームに集中しているとプレゼンテーションのための資料が自然とできあがっていく、という仕組みです。
 実際の仕事であれば、こうして振り返ることも、ましてや競合企業(他のグループ)の意図を聞くということもなかなかできないので、学びとして非常に重要ではないかと思いました。上記の通り、StratXの標準仕様では全部で10回のラウンドを実施します。1ラウンドは1年間という想定ですので、理屈のうえでは受講生は1クォーター(2ヶ月弱)の授業を終えると10年間の疑似体験を積んだ「ベテラン」マーケターになる、ということになります。


 複数のピリオドを行なうので、学期の間ずっとStratXに取り組むことになってしまうと若干マンネリ化して間延びしてしまいます。そこで、この授業ではちょうど中盤に差し掛かる頃に参考図書の勉強会をセッティングして、その書籍で得た知識をその後のピリオドに活かせるようにできるように設計する予定だそうです。このための課題図書は、大学のイントラネットに設定されているクラスのウェブページにPDFの形で共有されており、既に一部を印刷して授業前に目を通している学生も見受けられました。書籍の種類はマーケティングに関するものだけではなく、グループでの意思決定に関するものや論理的にデータを分析するためのものも含まれていて、受講生の学びの幅を広げるセレクションになっています。
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グループワークのフリーライダー問題

 グループで会社の方針を決定していくという、今回の授業ですが、グループワークだとよく出てしまう、「何もしないでグループワークの成果にタダ乗りする人=フリーライダー」についても訊いてみました。松永先生は、「この授業ではね、フリーライダー、出ないんですよ。なぜなら、“猫の手も借りたいほど、忙しくなる”からです」と笑っていました。
 
 この後、見学した授業を見て感じたのですが、たしかにグループの中でやることが非常に多いと思いました。グループワークで、最終的な到達点(=正解、模範となる成果)がたとえば「100」とマックスが決まっている場合には、100をするための作業量をみんなで分担することになり、優秀な人がたくさんやる結果、フリーライダーが出てしまうことが多いと思います。極端な話、1人であっという間に100どころか120までもこなせる人がグループにいれば、他の人はフリーライディングするしかなくなるということですね。
 ですが、今回のStratXについては、「ここまで」という100がありません。やればやるほど、成果は上がる。だから、より結果を良くするために、グループ内で分担すればするほど、全体でのアウトプットが100を超えて行きます。そうすると、メンバーそれぞれがやればやるほど、成果が出ることになり、それがフリーライダーが出にくくなる理由なのかと思いました。というか、フリーライダーを抱えるグループは明らかにパフォーマンスが下がるので、フリーライドしにくくなる、ということはありそうですね。

 この「テクノロジーマーケティング・ゲーム」の授業の進行・詳細はFacebookでも公開されています(https://www.facebook.com/TechMarketingGame/)。また、授業参観の希望は随時受付中とのことですので、クラスの状況を是非現場で直接みてみたいという方は、担当教員の松永先生までメール(宛先:matsunaga@qrec.kyushu-u.ac.jp)で、お気軽にお問い合わせくださいとのことでした。


 No.2に続きます。
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(為田)