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九州大学 QREC 授業訪問レポート No.3 (2016年10月12日)

 2016年10月12日に、九州大学伊都キャンパスにて行われる、松永正樹先生(九州大学ロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センター (QREC) 特任准教授)の授業を取材に行ってきました。
 今回取材したのは、「テクノロジー・マーケティング・ゲーム」という授業の今学期2回めのクラス。StratXというオンラインでできる経営シミュレーションゲームを使って、マーケティングと意思決定スキルを学んでいくというものです。

シミュレーションの間に、知識を入れることで定着させる

 今回使っているStratXに限らず、シミュレーションを使うことの良さは、授業で学ぶ知識を実際に活用する場面を作ることで、「知識をすぐに使うこと」だと思っています。逆に「授業で学ぶ知識が必要な場面を先に作っておくことで、学ぶ準備をさせる」ということもできます。
 シミュレーションの設定が楽しいもの、没頭できるものであればあるほど、そうした状況づくりは簡単にもなります。また、今回のStratXのように状況を複雑にするということができれば、授業との連動も容易になり、また、いろいろな広がりをもった学習目標を設定することもできると思います。
 実際、松永先生も「『テクノロジー・マーケティング・ゲーム』は、“マーケティング”の授業と銘打ってはいるけれども、実際にはそれだけではなく、チームワークやリーダーシップ、(定量的なデータをもとに判断を行うための)論理思考、コミュニケーション、そしてチームの成果を左右する責任を負って、最終決定のボタンをクリックすることを引き受ける意思決定スキルといった、複合的な学びが得られる授業になるように設計しています」と話してくれました。
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 今回の授業でも、途中で「“戦略”と“戦術”」の違いについての講義が入りました。こうして “戦略”と“戦術”の違いを学んだうえで、その知識を使って、グループの意思決定に活かしていくという場面が設定されています。
 ただ、ここは難しくて、最終的にStratXの「DECIDE」画面で自分たちのグループの意思決定をしなくてはならなくなったとき、やはりほとんどの学生たちはそこで目先の“戦術”の方に引っ張られてしまっていました。「戦略が大事」と言われたものの、DECIDEをするときにはそれを忘れてしまって大局を見誤り、それが最終的な結果としてフィードバックで返ってきて、「あ、戦略的でなかった…」とわかる、ということもあります。
 ただ、その結果として失敗をしてしまっても全然構わない、むしろそれでこそ学びが深まる、と松永先生は言います。「実際問題として、ただ講義を聞いてその内容を“理解”したとしても、現実にそれがあてはまる場面で適切な判断ができるかどうかは別問題です。だからこそ、この授業では現実に可能な限り近い場面設定をつくり、受講生にはそこでドキドキワクワク、できたらヒリヒリするような、後になって『やっぱりああしておけばよかった』と悔しさとともに思い出されるような経験を積んでもらいたいんです。そうすれば、それはきっと授業が終わった後にも残りますから。」
 “大学の授業の中で、教師の目が届き、手助けができる範囲内で、実際上のリスクなく数多くの失敗ができる”ということも、シミュレーションを授業の中で取り入れる利点の一つだと思いました。
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 こうした授業は、QRECの理念となっている、「Learning by doing」を地で行っていると言えるかもしれません。学校という場で、擬似的に、先生がいる=失敗を失敗で終わらせずに、きちんとその後につながる教訓と学びとして昇華できる環境下で、さまざまな失敗を疑似体験できるのはいいことですね。
 これは、「テクノロジー・マーケティング・ゲーム」という特定の大学の授業に限ったことではないと思います。現実世界であとをひくダメージを受けることなく、かつ、リアリティのある状況の中でリスクをとってみる、自分の判断がどんな結果を引き起こすかを試してみることができる、というのはすごく大切な教育プロセスです。なぜなら、こうしたプロセスを経験しないと「リスクをとる」ということの重みも意味合いも、なかなか理解することはできませんし、逆に、授業でそれを疑似体験した学生は、実際の場面でも地に足の着いた判断をすることができるはずだからです。

グループをヘルプして回る

 松永先生は、教室内をあちこち動き回り、グループをそれぞれ見回って、必要とみればディスカッションをファシリテートしたり、知識を伝えたり、学生が考えをまとめるためのきっかけとなる問いを投げかけたりしています。そのときも、学生のほうから質問をされればじっくり時間をかけて説明をするし、逆に、先生のほうから「どんな感じ?」と投げかけてみて、学生だけで試行錯誤しつつも進められそうなら強引に介入したりはせずにつかず離れず見守るだけに留めるなど、柔軟な関わり方をしていました。
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 今回の授業では、福岡大学の学生チームが、事情があってゲームをリアルタイムで進めることができなかったため、全チーム「持ち帰り」として、ラウンド1を来週までオープンにしておくことになりました。グループごとにどれくらい進んでいるかをきちんと見ていて、かつStratXの先生用の画面で進捗を確認し、各グループがきちんと意思決定ができるように進度を都度調整していく。こうしたファシリテーションの柔軟性は、学生主体の授業、すなわちアクティブラーニングを実践する教師すべてに求められる能力だと思います。
 StratXでは、「◯日の△時迄に必ず××をする」というふうに決まっているわけではなく、先生が「ピリオド1はここで終了」と決めることができます。つまり、すべての「DECIDE」の〆切を授業から切り離して、授業の1週間後とかにすれば、その間に何度もグループで集まって考えることもできるし、外部とのやりとりもできるようになります。
 ここからすると、たとえば月曜日にある大学でStratXを使って授業を行い、火曜日には同じ授業を別の大学、水曜日にはまた別の高校で行い、どの学生/生徒チームも週末までに「DECIDE」を完了させる、というようにすれば、理論上は九州と関東、北海道(あるいは世界のあらゆる国々)の学校が相互連携してStratXというひとつのプラットフォームを介した授業を実施することも可能です。ゲームを実施した後の振り返りやプレゼンテーション、相互評価をSkypeなどでつなげば、共通の話題と経験をもとにした交流もできるはず。
 オンラインでシミュレーションのシステムを教材として使うことで、こうした「時間割」や「教室」という制約条件を取り去ることもできるのも、非常におもしろいと感じました。

 この「テクノロジー・マーケティング・ゲーム」の授業の進行・詳細はFacebookでも公開されています(https://www.facebook.com/TechMarketingGame/)。また、授業参観の希望は随時受付中とのことですので、クラスの状況を是非現場で直接みてみたいという方は、担当教員の松永先生までメール(宛先:matsunaga@qrec.kyushu-u.ac.jp)で、お気軽にお問い合わせくださいとのことでした。


 No.4に続きます。
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(為田)