教育ICTリサーチ ブログ

ICTを教育にどう活用できるか、現場目線でリサーチします。

武雄市「ICTを活用した教育」検証報告会レポート(2017年3月24日)

 3月24日に東洋大学にて、武雄市教育委員会の2016年上半期までの取り組みをふまえた、ICTを活用した教育の検証報告会が開催されたので、参加してきました。参加者は20名前後、メディアの方々が数社くらいだったかと思います。
 会場では、報告書『武雄市「ICTを活用した教育」第三次検証報告 -新しい学力観を求めて-』も配布されました。武雄市小松市長も参加されていて、「200ページという大作、重さにびっくりしたが、200ページに値する内容だと実感している。この検証は次へのステップの非常に大きなポイントであると考えている。武雄市の次のステップに、ヒントがもらえればと思っている。」とおっしゃっていました。
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 ICTの導入については、武雄市は小中学校に一人1台を配備し、外部との協力も進めています。2015年5月に、私塾界の山田社長と共に取材に伺ったことがあります。
blog.ict-in-education.jp
 機種選定の話をはじめ、さまざまなことが言われていますが、教室を見た感じでは、「褒めている記事で書かれているほど最高でもないけれど、貶されている記事で書かれているほど悪くはない」と思いました。いい面も悪い面もあるのは、どのような教育環境を作っても出てくるものだと思うので、こうした検証の質を高めていくことで、日本の教育の情報化のひとつのベンチマークになるのではないかと思っています。

 検証報告書は、武雄市教育委員会のサイトでも見ることができます。
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 東洋大学現代社会総合研究所 ICT教育研究プロジェクトの代表、松原聡先生(東洋大学副学長)は、以下のような点についての話をしました。データの概要としてメモしておきます。

  • 武雄市ICT教育に関する覚書を締結している。
    • 児童生徒の成績データを、守秘義務を追って提供してもらっている。
  • 2015年に立ち上がり、今年で3年目。
  • 武雄市ICTを活用した教育パンフレットで、これまでの武雄市の教育についてまとめてあるもの。
    • 今日は二部構成。
      • 第一部 検証報告
      • 第二部 新しい学力観と武雄市「ICTを活用した教育」
  • 第三次報告書目次
    • 全部で5つのパートに分かれている。
    • 「5 武雄市「ICTを活用した教育」の課題および提言」、これこそが大事。
  • 調査対象は、児童・生徒の評価 21,822件(持ち帰り、小テストの結果、感想など)これをビッグデータの形で、武雄市教育委員会にたまってきている。それを活用して東洋大学が分析した。
    • 教職員の評価は、303人対象のうち、266人から詳細なアンケートを実施。アンケート結果を分析した。
    • 保護者2654人対象のうち、2225人の評価を分析した。
  • 武雄市のように、公立の小中学生の全員に3年前からタブレットPC配備した、という事例が、全国でトップである。
  • ひとつの市、すべての義務教育のうち、児童生徒・保護者へのほぼ全数の調査をしたということもこれまでに前例がない。これは第三次報告書の価値である。
  • 効果検証をすることの意義。

 斎藤里美先生(東洋大学文学部教育学科教授)により紹介されたポイントを以下に挙げます。

  • 公立の小・中学校において、全国に先駆け「1人1台タブレットPC」の継続的な活用。ある単元のみではなく、自宅に持ち帰らせ、かつ「反転学習」を実施し、かつ継続していることに意義がある。
  • 「新しい学力観」に基づくICTを活用した教育を展開している。世界全体がこれから目指そうとしている学力観に照らしている、ということ。古いタイプの学力観で見るのではなく、「どういった学力を育てようとしているのか」を見るのも今回の意義。
  • 全小中学校の児童生徒、教職員、保護者を対象とした「悉皆調査」。調査自体が、教育改革の成果を地域で共有する試みになっている。
  • 効果=「ICTを活用した教育」の実施による差異や変化
    • 1.児童生徒
    • 2.教職員
    • 3.保護者


 検証報告については、為田が興味深いと思ったところだけをメモします。ぜひ、報告書の原本もチェックしていただければと思います。

学習理解度

 まずは、学習理解度についてです。どんな科目の、どんな単元で効果があるのかを知りたいな、と思いました。また、先生の授業力との相関もあると思うので、そのあたりもわかるといいですけど、難しいですよね…

学習理解度調査

  • 3年間で初めての実施だそう。非常に意義深いかと思う。
  • 全小学校の4年生「分数4コマ目」「変わり方1コマ目」のスマイル授業(武雄式反転授業)を対象
  • 理解度調査を「スマイル学習利用授業」と「従来型授業」で分けて比較。
    • 分数4コマ目では、基礎問題(計算問題)で0.03点、発展問題(文章題)で0.02点高かった。
    • 変わり方1コマ目では、基礎問題で0.25点、発展問題で0.07点高かった。
  • 変わり方1コマ目の方が差異が大きいのはなぜか?
    • 単元内容によるものか?=計算問題と反転授業の相性がいまいち?
    • 導入のところで反転授業をする方が効果が高いのか?
  • 継続的にではなく、「この授業でだけ」実施。本来はより長期間ですべきだが、公立校での「教育の平等」の観点から、それは難しい(松原先生)

学校観実施率の違い

 学校間実施率については、けっこう数値が違っていることが報告されています。これだけ違うと、学校ごとにデータを分けて見てみたいなと感じました。

学校間実施率

  • 学校によってその実施率に大きなばらつきがある。
  • 教材があるのにやっていない学校がある。
    • ばらつきの理由は何だろう?
  • これだけ実施率に差があるなら、この後に続く児童アンケートでの「学級の友達との間で話し合う活動を通じて、自分の考えを深めたり、広げたりすることができていると思いますか?」などの質問は、学校別で見てみたい。

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スマイル学習の実施回数

 スマイル学習の実施回数についてです。件数はそんなに多くないですが、正直な回答かなと思います。

スマイル学習の実施回数

  • 小学校のスマイル学習で教えた経験がある先生方のうち、「回数を減らしたい」と58.3%が回答している。
    • 「この数字を減らしたい。深刻な数字だと思っている。」(松原先生)
  • 回数を減らしたい理由はで大きいのは以下の3つ。
    • 負担を減らしたい(23人、38.3%)
    • 子どもの実態に合った他の指導法を用いたい(15人、25.0%)
    • 効果が今ひとつ(8人、13.3%)
  • 佐賀県の中で、“武雄は大変”という空気もあるのか?先生の転入希望は少ない。が、転出希望も少ない」(松原先生)
  • 2015年度の年間必須授業時数に対するスマイル学習の実施率
    • 算数(3年~6年)では、総授業数700時間のうち、スマイル授業数は117時間だけ(16.7%)。実施率は51.7%なので、実質実施率は8.6%となる。
    • 理科(4年~6年)では、総授業数315時間のうち、スマイル授業数は65時間だけ(20.6%)。実施率は41.2%なので、実質実施率は8.5%となる。
    • 「残りの時間は、通常型の授業ということ。ここがもっと上がらないと、学力へのインパクトはわからない?」(松原先生)

 教科、学年、単元によって、適しているところと適していないところがあると思うので、それを母数に反映させて数値を出してほしいと思います。
 結局、スマイル授業は子どもたちの習熟のためのツールなので、適したところに適したツールを使えているのか、また使った結果がどうだったのか、という視点の分析が知りたいなと思いました。

 そこまで知りたいとなると、報告書レベルでは難しくて、やはりまた授業を見に行きたいなと思いました。

中川一史先生(放送大学教授)のプレゼンメモ

 最後に、中川一史先生(放送大学教授)によるプレゼンからメモを下に挙げます。武雄市個別の話というよりは、そこからタブレットの活用についての全体的な知見を紹介し、紐付けていくようなお話でした。

  • 詳細な分析が行われていると思う。
  • 大きなところでは3点。
    • 学校と家庭をICTで連動させたのは非常に大きい。2011年4月の教育の情報化ビジョンからの推進。そのなかでも、家庭に持ち帰る事例というのはでてこなかった。そのなかで、武雄が持ち帰りを実施し、スマイル学習をやってきた航跡は大きいと思う。「ショックだ」と松原先生がおっしゃるデータも含め、他の地域への普及の参考になる。
    • ICTのアドバンテージに着目している。電子黒板とタブレットの連携、カメラ機能の活用。機能として当たり前にあることと、それがICTのメリットであると理解して活用を推進することは別。パンフレットにこうした項目が盛り込まれていることを評価したい。その共通理解がないならば、紙を使えばいい。拡大ができる、共有ができる、などのICTの良さを意識して使うことが大事。
    • 新たな学びに結びつく挑戦をしている。パンフレットを参照。プログラミング教育、反転学習など。オンライン英会話も、どうやって進んでいくのか興味深い。生きた知識に直結するようなこうした学びは大事になっていく。
    • 反転学習を先陣を切ってやってきた部分だが、きっちりと予習をやってくるということは、学級経営に関わる。基礎知識部分は協働的な学びになることであり、先生方の力量が問われるところ。そこを「負担」と答えているのかもしれない。これが、他の自治体への展開という部分で興味深い。武雄の課題というよりは、これから取り入れていく他の自治体の課題と言えるだろう。

「新しい学力観」への展開

 「新しい学力観」への展開についての資料もありました。が、まずは現状の小学校で実施されていることをしっかり足元を固めて、“何を目的にICTを導入するのか”ということを明確にしたうえで、目的が達成できているのか/できていないのか。また、その要因は何か、ということをチェックしながら進んでいってほしいと思います。そのために、こうした報告は有意義だと思います。(学校別での結果報告などが見られたらいいな、と思いましたが…)

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(為田)