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アダプティブ・ラーニング・サミット セミナーレポート No.2(2017年3月29日)

 3月29日にKnewton Day Tokyo 2017 – Adaptive Learning Summit-(以下、「アダプティブ・ラーニング・サミット」と表記)に参加してきました。

 基調講演は、デジタルハリウッドの佐藤昌宏先生です。講演のタイトルは「EdTechイノベーションがもたらす21世紀の学び」でした。
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EdTechとは何か?

 EdTechとは何か?と問いかけた佐藤先生は、“X-Tech(えくすてっく/くろすてっく)”という概念を説明します。X-Techとは、テクノロジーを使って、さまざまな業界にイノベーションを起こす動き。ただ、ここでいう「テクノロジーを使う」というのは、「先端テクノロジーを使った効率化」ではなく、「産業構造や競争原理、仕組みそのものが再定義される」ことであり、現在はそうした時代になってきている、と佐藤先生は言います。
X-Techのキーワードとして、(1)デジタルテクノロジーの劇的な進化、(2)海外の先進性、(3)スタートアップの創造性と革新性、の3つがあり、そのなかのEducation(教育)の分野が、EdTechとなるそうです。

 EdTechの背景としてあるデジタルテクノロジーの劇的な進化は、制度や仕組みを形骸化する側面がある、と佐藤先生は言います。ここで佐藤先生は、2つの変化を紹介しました。
 ひとつめの変化は、MITの伊藤穰一(Joi Ito)さんが言った、「Learning over Education」という考え方です(参考: http://www.academyhills.com/note/opinion/13071902mitjoi.html)。これにより、従来の教育の仕組みを越えた「学び」が手に入るようになりました。それにより、学習者中心主義(Learner-Centric)が加速していきます。そうすることにより、一部の学習者はどんどん先行して学んでいくことができるようになります。こうした背景こそが、学習者一人ひとりのペースで個別に学ぶことが求められている、アダプティブ・ラーニングが生まれてくるベースになっています。
 もうひとつの変化は、EdTechによって、コンテンツを提供する側の参入障壁が下がったことです。いい意味で、教育の「シロウト」が参入してきていて、これはeラーニングとの違いだ、と佐藤先生は言います。
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EdTechイノベーションの動向

 続いて、EdTechイノベーションの動向について、佐藤先生が説明してくれます。公教育の教育格差について、以下の方向性があるそうです。

 このなかで、アダプティブ・ラーニングは、ビッグデータによるイノベーションに分類されるとのことです。EdTechという言葉の中にも、さまざまな分類があるということは、理解しておいた方がいいと思います。
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 世界のEdTech市場規模は、2015年(実績) 437億ドル→2020年(予測) 934億ドルと成長しているそうです。中でも、中国のEdTechの台頭はすごく、すでにEdTechスタートアップ投資額はアメリカを2015年に抜いているそうです。アリババ、バイドゥ、テンセントなども教育に参入していて、中国のEdTechにも要注目だと言います。

 新たな技術としては、ブロックチェーンを教育に活用する動きがでているし、仮想現実(VR)もSXSWではホットトピックとして出ていたそうです。

 また、他業種から学ぶということで、佐藤先生はhabitという会社を紹介してくれました。habitは、食をパーソナライズドしてくれるサービスで、最初に登録、遺伝子解析、3回の血液検査をするそうです。その後、ユーザーにあった食事がデリバリーで送られてくる。このときに送られてくるのはサプリメントではなく、嗜好も踏まえて、食べたいと思う料理が送られてくるのだそうです。ビッグデータを活用することで、こうしたサービスも実現可能になり、ユーザーが増えれば増えるほど、より賢くユーザーにあったサービスを提供できるような仕組みだと思いました。
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まとめ

 佐藤先生は基調講演のまとめで、「EdTechイノベーションとは何でしょうか」と会場に取りかけました。EdTechイノベーションとは、「AIやVR、IoTを使った教育ではない」のです。佐藤先生は、これから確実に訪れる「情報化社会」を視野に、いまの教育課題に対して、これまでの成功体験に縛られず、そして、失敗を恐れずに新しい価値や視点を提案することだと言います。
 そうしたイノベーションを起こす人を教育イノベーターと呼び、心から尊敬しているそうです。実際にEdTechスタートアップをする起業家だけが教育イノベーターなのではなく、社会起業家ソーシャルアントレプレナー)、社内起業家(イントラプレナー)、先生起業家(ティーチャープレナー)、研究起業家(アカデミックプレナー)も、教育イノベーターと呼べると思うし、それぞれの立場から挑戦している人たちにとって、テクノロジーは武器になりうるのだ、と佐藤先生は言います。
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 まだまだ日本には教育イノベーターは少ないと佐藤先生は言います。Knewtonは、教育イノベーターとして先進的で、早くからこの問題に取り組んでいます。佐藤先生もKnewtonのことをリスペクトしているとおっしゃっていました。Knewtonも含めて、さまざまな立場から教育イノベーターが出てきて、日本の教育を良くしていければいいと思いました。

 No.3に続きます。
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(為田)