2017年10月4日に、東北学院中学校・高等学校を訪問し、名越幸生 先生の高校2年生の物理の授業を見学させていただきました。一人1台のChromebookを活用した授業がどのように行われているのかを見せていただいた後、名越先生の授業設計の意図や知見などについて訊いてみました。
名越先生の授業動画活用についての意図
まず、反転授業でなく、あえて“授業動画を授業中にみんなで見る”という形にしていることについて、名越先生に訊いてみました。
- 最初は動画を反転授業で活用するために録画していたのだが、今はそうした使い方はしないことにしている。
- 家で授業動画を一人で見ているのとは違う効果を感じる。
- 生徒にとって教室でクラスメイトが学んでいる表情を見ることの意義は大きいと思われる。
- 授業動画を見ながら、その場で先生に質問ができ、その場で答えてもらえる。
名越先生は、「あくまで、授業動画は授業の中で見るものとしての位置づけ。授業動画だけを見ていればいい、ということではない」とおっしゃいます。これは、授業動画を見ながら板書を書き写させたり、授業動画を見ている時間に机間指導も行ったりしていることなどとも重なっていることだと思います。
また、効果について質問すると、「成績につながっているかというとまだだが、授業のストレスは違うように思う。わかりきった説明を聴かなければならない、わからないのに説明がどんどん先に行ってしまう、というのはどちらにしてもストレスです」という答えが返ってきました。加えて「授業動画を観る授業の方が、何故か寝ない。動画と同じ私が同じ内容で授業をすると、すぐに眠気に襲われる生徒が出るので、違いが歴然です。原因はわかりませんが、自分のペースで学べることと、私が黒板の前から離れて生徒のそばに行くこと、さらには『早く終われば自分の時間が稼げる』といった要素がかみ合って、寝ないで授業動画を観てもらうことが実現しているのかもしれません。とにかく『寝ない』ということは、いずれ成績の向上につながるような気がしています」といった見解も伺えました。
実際に授業動画を授業の中で見てもらうという実践をすることで、「授業動画を見終わってから理解するまでにかかる時間が生徒たちの間で全然違うという、なんとなく思っていたことが可視化された」と言います。「むしろ、生徒によってこんなに理解するのにかかる時間が違うのに、一斉授業をしてきたことには無理があったのではないか」と名越先生は感じたそうです。
どうやって動画を作っているのか
生徒たちが見ている動画は、4年前~3年前に行った授業を2年間取り続けた動画です。教室の最前列に座っている生徒の机に、三脚を置いて、黒板の前でしている授業を撮影してもらったそうです。
動画の再生時間は、短いもので5分ほど、長いものでは30分くらいで、それより長いものは途中で動画ファイルを2つに分けるなどで調整しているとのことです。授業時間の中で見て、板書する時間も込みで、かつ巻き戻して聴いたり、一時停止して教科書と照らし合わせたり、といった時間の使い方を考えると、これくらいの時間で収める必要があるそうです。
名越先生と話をしていると、「生徒の様子を見て初めて気づいた」という言葉が非常に多く聞かれます。名越先生が行った新しいスタイルの授業実践は、最初から理想的な状態ではなかったのかもしれないのですが、気づいたことをどんどん修正し続けているのだと感じました。こうして教室で実際に叩き上げられた実践というのは強いと思います。一人1台のChromebookを使っての実践、そしてその実践から得られた経験の授業設計へのフィードバック。これが繰り返されて、どんどん最適な形になっていくのではないでしょうか。
生徒たちの学び方が変わるのと同時に、先生の教え方も変わってくる、というのが非常に良いと思いました。
(為田)