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国語と情報教育を追究する冬季セミナー2018 セミナーレポート No.1(2018年2月3日)

 2018年2月3日に、国語と情報教育を追究する冬季セミナー2018に参加してきました。テーマは、「新学習指導要領で求められる学びを体験する ~デジタル教科書で実現する主体的・対話的で深い学びとは~」でした。
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基調講演

 基調講演は、放送大学教授の中川一史先生が、「新学習指導要領が求める学びと学習者用デジタル教科書の役割」というテーマで行いました。以下、為田がしたメモを公開します。

  • このセミナーは、国語と情報教育研究プロジェクトのメンバー+光村図書のメンバーで毎年やっているセミナー
  • 中学校の新学習指導要領で「コンピュータや情報通信ネットワークを適切に利用」的な表現が入った。
  • デジタル教科書は2つある。
    • 指導者用デジタル教科書と学習者用デジタル教科書
  • タブレット型コンピュータの台数は、37万台に。3年で5.1倍。そんななかで、学習者用デジタル教科書は、どう使えるだろう?しかも国語科で。
  • ロサンゼルスの中学校で、手元のタブレットに、デジタル教科書が入っている。重たい教科書を持ち歩かなくてよくなる。
    • 諸外国では、教科書がデジタル化するときに、この重たいものを持たなくてもいい、というメリットがある。が、日本ではそうはいかない。
  • 文化審議会著作権分科会 文化審議会著作権分科会報告書(p.102で、デジタル教科書についての言及(PDFはこちら

 最後に触れられている該当箇所を読んでみると、「どのように使うのかの事例も書かれています。
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  • 中川先生によるまとめ「教科書・教材のデジタル化によってできること」
    • 見る・聞く
      • 紙ではできない動画・音声での情報の補完
    • 書き込む・消す・拡大する
    • 共有する・示す
    • 試す・動かす
    • 保存する
      • 保存する、はまだまだこれから(中川先生)
  • 文部科学省「デジタル教科書」の位置付け
  • 紙の教科書とデジタル教科書を使い分けている。両方を使っている。両方使いながら、自分の思考地図をデジタル教科書に書き込み、友達に説明する。そういう使い方をしている。
    • 自分の考えを整理・説明する
    • 画面で確認、大きく表示
    • 全体で共有し、考えを深める
  • 学習者用
    • 教科書であり、ノート・メモである。
    • 個であり、協働である。
    • そういう教科書だから、欧米とは違う?
  • 教科書の発想の転換:読む教科書から、書く教科書、共有する教科書へ。

 デジタル教科書の活用事例を見ると、いろいろと書き込めるのはたしかにいいと思うことが多いのです。また、いちどマーカーを引いたけども、やっぱり消すとかもできるのはいいですよね。
 ただ、そのためには一人1台ないといけないのがネックですね…。Amazon Kindleでもハイライト機能でマーカーを引けますが、メモが紙面そのものに書けるわけではないので、教科書的に使うにはちょっと使いにくいかもしれません。やはり、教科書のページに書き込みをさせてあげたいような気がします。

  • 教科書のデジタル教科書化(これは環境と制度の問題がある)
    • 環境整備は?3クラスに一台という端末環境でできるのか?
    • どうやって供給?
    • 無償措置や著作権を含めた検定の問題はどうなるのか?
  • 教員の活用スキル向上をどうするのか
  • 児童生徒の活用スキル向上をどうするのか

 広げていくには、まだまだいろいろな問題があることがわかります。この問題を乗り越えていけるほどの、「デジタル教科書ならでは!」な使い方がどれだけ広がるか、ということだと思いました。

実践対談「学習者用デジタル教科書の実践と考察」

 続いて、関西学院初等部の野村先生と武蔵大学准教授の中橋雄先生の実践対談がありました。為田のメモを公開します。

 「学習者用デジタル教科書の効果を高める活用のあり方は?」という質問への野村先生のコメントが以下の通りでした。

  • 教室文化も変わるし、先生の授業デザインも変わるだろう。まだ実践している学校は少ないので、先例に学ぶ、ということ。
  • 先生としての感想としては、指導者用デジタル教科書だけだと、紙の教科書の延長線上にあった。学習者用デジタル教科書を使うことで、先生のパラダイムシフトがあると思う。
    • 情報が多い。子どもたちの学習がどんどん集まってくる、前に映るようになる。それを授業をしているその場で子どもと一緒に分類するなど、新しいやりかたになった。これまでになかった緊張感。
  • 子どもの反応としては、デジタルネイティブだと思う。家でスマホタブレットを使っている子がほとんど。「使えるか」というハードルは低い。
  • 子どもたちは、自分の端末と先生の端末がつながることについても「当然つながる」と思っている。どんどん書き込めることについても喜んでいる。
  • 本文に向き合えるという効果があると思う。
  • 導入した瞬間は、iPadが来た!という興奮状態。それから落ち着いて来て、無口になる。対話も減る。それに慣れると、教科書を使っていたときのように、交流が始まった。対話が再度始まってくる。

 デジタル教科書は、指導者用デジタル教科書だけだと、紙の教科書の延長線上にあり、学習者用デジタル教科書を使うことで、先生の指導法は大きく変わる、という話がありました。
 子どもたちが学習者用デジタル教科書を使って手元でいろいろと書き込んだり、本文から抜き出した情報が先生のサムネイル画面に集まってきて、それをどう使うか、どう指導の中に組み込むのかをその場で考えていく、ということができる、というお話でした。
 そのひとつの例として、「マイ黒板」を使った事例がさらに詳細に説明されました。

  • マイ黒板で、教科書本文をドラッグして(タブレットならば、なぞるだけ)短冊を作り、マイ黒板に並べられる。
    • 短冊で抜き出すことにどんな意味があるだろうか?
    • 抜いたり、消したりが、簡単にできるので、友達と「そこ、抜くの?」「そこ?状況描写?」みたいに、話し合って、直したりもしている。
  • 紙の教科書でも、傍線を引いたり、書き込みはできる。でも、それを一度消す、というのは難しい。
  • 話すことをマイ黒板で短冊を動かしながら考えられる。これはこれまでと違うところ。
  • グループにしたり、タイトルをつけたり、構造化ができている。

 クラス全体で、短冊を動かしながら考えていく様子を大きく映し出しつつ、ときに誰かが作った短冊をクラス全体に示しながら、だんだん練り上がっていくキーワードが書いていくのは楽しそうだと思いました。板書を使ってされている先生も多いと思いますが、一人ひとりがその活動をできるということは、ただ板書をノートに書いていく、とはまったく違うと思いました。

 最後に中橋先生から、野村先生の授業を見学した際に、授業の終わり際に児童からあがったコメントについて紹介がありました。

  • 子どもが「他の人がどんな考えをもっているのか、見たい」と言うので、クラス全員の書き込みが表示されたサムネイルをスクリーンショットで保存して、全員に先生から送ったことがある。

 「全員の考えを知りたい」と子どもたちが思ってくれているのは素晴らしいなと思いました。デジタル教科書に限った話ではありませんが、こうして他の人がどんなことを考えているのかを見ることができるのはとてもいいことだと思います。ICTを活用することで新たにできるようになったこうした活動を、授業にどう取り込んでいくのか、という部分は、野村先生がおっしゃる「パラダイムシフト】だと思いますが、これを楽しめる先生が少しずつでも増えていくように、実践事例の蓄積と情報発信、そして、「これよさそう」と気軽に試せる環境づくりが進めばいいと思いました。

 No.2に続きます。
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(為田)