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京都教育大学附属桃山小学校 授業レポート No.2(2018年3月8日)

 2018年3月8日に、京都教育大学附属桃山小学校を訪問しました。若松俊介先生が担任する5年2組の授業を見学させていただきました。
 今回は、国語「わらぐつの中の神様」の授業の様子をレポートします。この日のめあては、“お互いの考えを聴き合って、「わらぐつの中の神様」を読み深めよう”でした。若松先生は、この日のめあてについて、子どもたちにとって大きな話題ではありますが、「読み深める」に関する共通イメージがあるから選んだとおっしゃっていました。

 最初の10分間はペアワーク+グループワークです。ロイロノート・スクールを使って、自分の考えを伝え合います。ロイロノート・スクールをプレゼンテーションのツールとして使っています。子どもたちのiPadの画面を見てみると、書き方もそれぞれです。文章だけで書いている人も、図にしている人もいます。こうした多様な表現を許すことができるのは素晴らしいと思いました。
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 このペアワークを見ていて、iPadと教科書を行き来しているのがいいな、と思いました。ペアの一人が発表すると、相手はそれを聴いて自分の教科書でページを開き、自分でも読んでみていました。
 ICT(デジタル機器)を活用した授業になるときに、ICT(デジタル機器)ばかり使うようになるのか?というふうに心配をされる先生方もいらっしゃいますが、子どもたちは上手にデジタルとアナログ(この場合ならば、iPadと教科書)を使い分けていきます。
 大人だって、デジタル機器でやった方が楽なことと、紙などアナログでやった方が楽なことがあります。そして、それは人それぞれ違います。こうした、学び方の多様性をもてる環境を作ることが重要だなと感じました。
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 ペアで話し合っているなかでも、いろいろな意見が出ていました。例えば、題名について、「わらぐつの中の神様」「雪下駄の中の神様」「はきものの中の神様」、どれでもいいのではないか?という問題提起がありました。
 また、表現について、「204ページのところで、おばあちゃんは雪の音に耳をすませてから…で始まっているのはなんでだろう?」「220ページで、方言の効果について書いてある」などのように、さまざまな観点が出てきていました。
 そうしたさまざまな観点をすべて一度出したうえで、若松先生は議論に方向をつけていきます。いろいろな観点が出たなかには、多くの人の賛同を受けるものもあれば、非常にユニークなものもあります。これらをその都度、方向を微調整したり、別の方向に持っていったりするということを、若松先生はほとんどしません。これが若松先生の授業の特長のひとつだと僕は思っています。
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 「自分たちだけでは気づかないことを、みんなで話すことで気づけるようになる。今回は、この題名にもなっている“わらぐつの中の神様”について考えを聴き合いましょう」という若松先生の言葉で、次にする議論の方向性が明確になります。
 このタイミングで、グループをシャッフルして新しくします。グループは、先生が決めたものをモニターに表示して、それに従ってもらっていました。このグループは、ランダムに決められているものではありません。ロイロノート・スクールでは子どもたちの書いた考えを先生が集約してみることができるので、子どもたちが挙げたを若松先生は予め見ていて、意見が近かったり、お互いに助け合って新しい観点を見つけられたりするように、グループを決めているそうです。
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 若松先生は、「いろいろな意見が出るけれども、的外れな意見や、ちょっと読めていないな、という意見は、グループ内で自然と淘汰されていきます。だからこそ、グループ分けがとても大事です。」と言っていました。
 グループのなかで、一人が疑問提起して、みんなでどう思うかを話し合っていきます。そのなかで、「神様って何だ?」「わかんね」で終わらないのが大切、と若松先生は言っていました。「根拠・論拠を聴き合うことで、本質が見えてくる」と言う若松先生の言葉は、何を大切に授業をされているのかをとてもよく表していると思いました。
話し合っても、「まだよくわかんない」というふうなこともある。でも、それがいい、と若松先生。
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 グループ分けが、先生の期待通りにうまく働くことも、そうでないこともあるだろうとは思いますが、こうしたところも授業設計の中に含まれているのだと思います。若松先生はグループを巡って、いろいろなところで質問を投げかけ、子どもたちの考えをゆさぶっていきます。子どもから出た意見を聴いて、「ちょっと待ってね…」と言って、教卓に自分の教科書を取りに行くシーンもありました。グループと共に読んでいく、わからなくても一緒に考えていく、という若松先生の姿勢がとても現れていたシーンだったと思います。
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 最後のふりかえりも、ロイロノート・スクールで入力をしていました。こうしてふりかえりがロイロノートに残っていることで、次の時間に議論を継続することが簡単になると思います。
 若松先生の授業は、「個」→「協働」→「個」のサイクルを常にしています。最後に「個」に戻すことで、読みの深まりや言葉に対する見方・考え方の変化をメタ認知していくことができるようになるように、若松先生が授業設計をされています。このサイクルのなかで、1年間を過ごした子どもたちが、主体的・対話的で、深い学びをまさに実践しているように思います。
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 No.3に続きます。
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(為田)