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東京書籍×凸版印刷:福生市の算数学習履歴データを読み解く対談レポート No.3

 今回、東京都福生市で小学校3年生が2017年9月~3月の間に凸版印刷アダプティブラーニングシステムやるKeyを使って学んだ学習履歴を見ながら、東京書籍の清遠和弘さんと対談を行いました。
 今回の対談の相手である、清遠さんをご紹介したいと思います。清遠さんは、東京書籍株式会社 教育文化局 教育事業本部 ICT第一制作部に所属されています。以前は算数の教科書編集にも携わっており、やるKey開発時に、教科書編集経験者の立場から参加していただきました。

どこまで学んだかがわかることの意味

 学習履歴をとることで、◆ドリルを最後までやっている子どもがどれくらいいるか、ということもわかります。それについても、清遠さんに話を伺いました。

清遠さん ◆ドリルを離脱した人数もけっこういますね。

為田 ◆ドリルがいやだから、ということもあると思うし、問題数が多くていやだった、ということもあると思います。このあたりは、先生に寄り添ってもらいたいところですけどね。履歴を見てわかる、「◆ドリルが100人に出題されて、そのうち25人が離脱している」という事実を知るのは、◆ドリルを作った僕らとしては傷つく数字ですよね…。
 ◆ドリルがわかりにくいという可能性はもちろんあると思います。その◆ドリル自体が難しいということもあると思いますし、今までにやった◆ドリルが大変だった経験が離脱させるということもあるかもしれないですね。
 ◆ドリルが、ページ数が多いもの、少ないものがあって、それによってもどう違うかは見た方がいいですよね。

清遠さん やるKeyのドリルで自動出題された問題を間違え続けたときに特定された、学習者のつまずいているポイントを克服するために出題される◆ドリルは、一般的にページ数は多くなりがちです。それで、問題を見て、「いやだ」という子どもは多いと思います。

為田 でも、◆ドリルが大変だからページ数を減らして、長くて読まれないから短くして、その結果としてわからないまま、また問題に戻す、というのでは意味がないと思うんです。ドリルが長いのをどうやらせるかは、デジタルの表現で何とかするか、または、そういう状態を先生が理解してくださって、声掛けしてもらうなど何とかする、というふうにしなくてはならないと思います。
 それとは別に、離脱率が高くて、後ろにつながっているやらなければならない◆ドリルは、「最初に肝です。ここで諦めると来年苦労します」というのをあらかじめ先生に言うのはありかもしれないですね。ここが難しそうですよ、とメッセージを表示するのは簡単ですけど、その裏側にはどういう意図でこうした問題を出しているのか、というのを言えるのが、東京書籍とコンビを組んでいるやるKeyの強みだと思います。
 デジタルドリルで学習履歴を見られるからこそですが、見たい数字がまだまだ出てきますね。例えば、何ページくらいある◆ドリルなのか。◆ドリルが表示されてすぐに離脱しているのか、問題を解き進めて途中で離脱しているのか。そのあたりは、データを読み込まないとわからないところですね。

清遠さん 漢字があると読まない、とも言われますが、それでいいのか?というのは根底にありますね。児童の状態に合わせて「読み替えてご覧」と先生が言うのはいいですけど、一律にシステムで漢字を全部ひらがなにすればいいということではないように思います。

為田 「この子は読めない」というのはシステムでは判断できなくて、そこは先生にやっていただくしかないように思います。だから、やるKeyはスタートは先生であり、授業である、と言っているわけです。先生が一度離脱してしまった子どもに、「ああ、あそこの◆ドリル、ちょっとページ数が多いもんね。でもがんばろうね。」というふうに言ってもらえばいいですよね。

清遠さん 先生は、誰に◆ドリルが出題されているのか、わかるようになっているんですか?

為田 わかります。クラスの習熟度の概要がわかっていて、そこから一人ずつまでフォーカスして見られます。
 でも、個人的には一人ずつのデータを見ていくよりも、授業のなかでやる方が楽だと思っています。授業のなかである程度の時間をかけて、オススメドリルをやってみると、先生たちは、学習履歴のデータを見て「ああ、あの子ね」と分かることが多いのです。見とりができているんです。そうしたら、「あそこの◆ドリルはあの子にはちょっと文章が長過ぎるのかな」というのを先生は分かるし、次にどうするかを先生は考えると思うんですよね。そこで、自動出題・自動採点機能があることで、答え合わせや次の問題の配布などから先生を解放し、次を考える時間を先生に作り出すことができていると思います。
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文章を読んでいない?~概念が大事

 コンテンツの量とか質の問題もある一方で、例えば、問題を読もうとしていない子どもが多いように思います。問題を読もうとせず、直感的に答えてしまう。やるKeyを使って学んでいる児童を見て、ときどきそう思うことがあります。そうした点についても訊いてみました。

為田 問題を読んでいない子どもがいるんじゃないか、という問題点は、実は紙でも同じではないかな、と思うんですよね。これは、デジタル起因なのか、紙でも一緒なのか。また、◆ドリルの離脱も同じかな。先生はどうしているのか。教科書的にはどうにか拾おうとしているのか、とか。

清遠さん それは明らかにそうだと思います。PISA調査でも、日本は誤答よりも無答が多い、というのが特徴でした。かなり問題文が長くなっていて、それを読むのを諦めて次に行ってしまうのが問題になっていました。そういうのもあって、読解力の重要性が言われるようになってきていると思いますし、文部科学省の学力調査が始まった経緯もそのあたりにあります。
 教科書の文章題も、以前は簡単で短かったんです。それに、わり算の単元には、わり算の問題しか出てこなかった。だが、それではだめだ、ということで、読まないとかけ算かわり算かわからない問題文にしたり、わり算の単元にかけ算の問題が出てきたりもするようにしたんですね。

為田 教室に行くと、「問題文の中に“分けると…”って書いてあるということは…使うのは、なに算?」と訊くような先生もいますよね。はじきもくもわも、流れとしては同じだと思う。正解になれば何でもいいのか。概念は後で追いついてくればいいのか。どうなんでしょうね?

清遠さん 概念を疎かにできないのは、そういうところです。例えば、わり算は、3年生までは大きい数を小さい数でただわればいいですよね。そうしたら、問題文を読まなくてもいい。「大きい数÷小さい数」と立式ができれば、日本の子どもたちは計算はできるから、正解になります。そういう子どもたちはわり算ができるもんだと思って、上の学年へ行くんですけど、小数が出てくると、小さい数を大きい数でわるわり算が出てきます。ここで、「どうやればいいの?」とつまずいてしまう。
 かけ算の順番問題は、ネットを騒がすことがありますが、それにも一理あるとは思っているんです。本来数学的にはたし算やかけ算には順序はありません。しかしひき算やわり算には順序がある。ところが小学校低学年段階では、先ほども言った通り、大きい数を前にしておけば正しい式がかけてしまうので順序を意識する必要がありません。ただ、そうやって意味や順序を考えないで立式するという経験をずっと積んでくると、上の学年でつまずいてしまう。もちろん,順序を逆に書いたから一律に×にすべきということではありません。
 ただ、算数では、数式自体が言語だと思っています。それ自体が意味を持った言葉なんです。人に伝えたり、後から見直したりする際には、ある程度意味を考えて書いておいた方がよいという側面もあると思います。
 単なる計算ができる/できないではなくて、桁数が増えたり、小数になったりしたときにわからなくなってしまう子どもは、「式をどう考えて書くのか」というところに本質的なつまずきがあるはずだと思います。

為田 つまずきポイントには、「わる数が大きいときに間違える」というようなのをつけた記憶もあります。

清遠さん 教科書でも、文章題の中に、式には使わない数字が入っている問題を意図的に入れたりしています。そのあたり、なぜその問題が入っているのかという出題の意図がわからないとさらっと流してしまうかもしれません。
 そういうところが、やるKeyのつまずきポイントの傾向を見ることで、指導のヒントになるのではないかと思います。だから、つまずきポイントを先生に見せるのは、意味があると思いますね。問題にどういう意図があるかが分かる、というのはとても大事だと思います。

為田 保護者様にも、面談のときに見せることもできますね。つまずきポイントまで見えれば、「かけ算の筆算のところ、少し間違いが多いですけど、特に部分積に0が入る問題でよく間違えがちですよ」と言うことができますね。


 No.4に続きます。
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(為田)