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「未来の教室」とEdTech研究会の「第1次提言」(2018年6月25日)

 2018年6月25日に、経済産業省が、「未来の教室」とEdTech研究会の第1次提言を公表しました

 「未来の教室」とEdTech研究会は、第4次産業革命が進む世界の情勢を鑑み、日本が世界に様々なソリューションを提供する「課題“解決”先進国」となるために、今後行う実証事業(学びと社会の連携促進事業(「未来の教室」(学びの場)創出事業))の実施を見据えて開催したものです。

「未来の教室」とEdTech研究会の「第1次提言」がまとまりました (METI/経済産業省)

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 第1次提言では、「未来の教室」とEdTech研究会が行ってきた、「全4回の研究会(本体)と全5回のワークショップにおいて議論した内容を踏まえ、委員・専門委員、現役の中学生・高校性・大学生たちの考える2030年頃には「日本全国でこんな学び方が当たり前になっていてほしい」と考えるイメージについて、問題意識と理想を束ねた「ラフ・スケッチ」を描くとともに、EdTechを用いて世界各国で急速に進む教育イノベーションの動向や、日本でこうした学び方を実現するために解決が必要になる諸課題を並べ」たそうです。
 これをたたき台として、7月から「未来の教室」実証事業のプロジェクト群がスタートし、第2次提言に向けた検討がスタートするとのことです。

 経済産業省のサイトで関連資料としてリンクが貼られているのは、4つの資料です。

  1. 「未来の教室」とEdTech研究会第1次提言(PDF形式:1,003KB)
  2. 第1次提言のポイント(概要)(PDF形式:481KB)
  3. (付属資料1)「未来の教室」に向けた、思いとアイデア(ワークショップの概要)(PDF形式:2,146KB)
  4. (付属資料2)「未来の教室」とEdTech研究会第1次提言参考資料(PDF形式:5,004KB)

「未来の教室」とEdTech研究会第1次提言

 PDFで全24ページ。表紙には、「50センチ革命×越境×試行錯誤」「STEAM(S) ×個別最適化」「学びの生産性」と、3つのキーワードが書かれています。興味深かったところなど、メモとして公開していきたいと思います。

  • 「課題先進国」日本は、過去の成功パターンを頼りにできない環境で、課題の本質を見極め、様々な分野の個人・組織の力を集めて試行錯誤を繰り返し、状況を変化させられるだろうか。そのような力を持つ「チェンジ・メイカー」を日本の教育は育てることができているか?
  • データと AI(人工知能)を軸にして進む第4次産業革命は、多くの「与えられた仕事をこなす」労働から人間を解放する。そんな中、リアルな生活課題や社会課題を解決するプロジェクト(経験)で試行錯誤し、必要な知(教科)を系統立てて最大限効率的に身につけ、プロジェクトの成功に向けて邁進する、そんな生きた知的作業と行動と表現=「創造的な課題発見・解決力」を育む教育機会が十分にあるか?
  • EdTechのインパクトは、「教育現場でICTを活用する」といった次元ではない。「学び方」そのものを変えるはず。
  • EdTechは「学習者の特性・適性・興味・関心」を見いだし、学習者の「WILL(志)」を引き出す助けになり、多くの人達に「学習の自由化」(個別最適化された学び方を世界中から幅広く選べる)や「学術の民主化」(幼い頃から誰もが探究できる)という恩恵を与える。
  • EdTechによって、「教科(系統)主義と経験主義の壁」、「民間教育と公教育の壁」、「教育と社会の壁」が溶けていく 。「未来の教室」とEdTech研究会では、いかにして 2020 年代の新・学習指導要領の実践をより豊かなものにするか、そして「その先」にある 2030 年頃には「日本中の当たり前」であってほしい姿を先回りして考え、「民間教育と公教育の壁」を越え、「教育と社会の壁」を越えて今からトライアルすべきことを議論してきた。
  • 世界を変える発明やイノベーションも、目を見張るような現場のカイゼンも、気の利いた新サービスも、すべては小さな気付きを最初の一歩に変える「50センチ革命」から始まる。そして、複雑性・相互依存性の増す社会課題や生活課題を解決するイノベーションは、膨大なデータと AI による解析を味方につけ、問題を俯瞰して構造を把握し、様々な専門性・組織・業種・地域・国境の壁を「越境」し、分野横断の知や技能を集めた「試行錯誤」を繰り返す中で生まれることになる。
    • 「50センチ革命」を起こす力は、自己肯定感や自己効力感、圧倒的な当事者意識、他者への共感力、課題の発見力、(勝算や成否を恐れず)最初の一歩を踏み出す力などで構成されよう。
    • 「越境」するには、自らの思考の軸になる専門性のほか異分野の視点や知見を理解する力(本来の基礎学力)、多様性の受容力、タテ割りや対立を溶かす対話力、巻き込む力などが必要となろう。
    • 「試行錯誤」で結果を出すには、遊び心、創造性、正解なき中での思考力、リフレクション(省察)、失敗からの回復力などが欠かせないであろう。
  • 「浅く広く基礎を固めてはじめて、応用ができる」という考え方
    • 多くの児童・生徒は、自ら興味のあること知りたいことに出会う機会に乏しい中で、「何のために勉強するのか」はよくわからないままに好きな教科も嫌いな教科も教科書を読み進め、「いつかどこかで役に立つ」と言われながら、「まずは浅く広く基礎を固めることが大事」という考え方で勉強を繰り返す。しかし、将来自分が向き合うリアルな社会課題や生活課題という「応用問題」に最初から出会い、当事者意識を持って探究する中で、必要に駆られて初等・中等・高等教育の関係する様々な教科・学問分野に興味が湧き、深めていくスタイルの学び方もありうるのではないか。

第1次提言のポイント(概要)

 上記の第1次提言全体を読んだあとにポイントを読むと非常にわかりやすいと思います。
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 学習者が学び方をデザインする「学びの社会システム」のところに書かれている、学力、学年、時間数などの概念が希釈化され、学びの自由度が増す、というのは、C.M.ライゲルース・J.R.カノップ『情報時代の学校をデザインする 学習者中心の教育に変える6つのアイデア』のなかでも述べられていたことだと思います。
blog.ict-in-education.jp

(付属資料1)「未来の教室」に向けた、思いとアイデア(ワークショップの概要)

 「未来の教室」とEdTech研究会の付属ワークショップ(全5回)で集められた、教育関係者と中高生・大学生のコメントを読むことができます。さまざまなコメントが読めるのがおもしろい。
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(付属資料2)「未来の教室」とEdTech研究会第1次提言参考資料

 付属資料2では、諸外国の教育の事例、委員・ゲストスピーカーからの研究会提出資料の抜粋、「学びと社会の連携促進事業」について、を読むことができます。個人的には2つめの委員・ゲストスピーカーからの研究会提出資料が非常に興味深かったです。
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まとめ

 先日、私塾界リーダーズフォーラム2018で、浅野さんのプレゼンのレポートを書いたときに、「未来から逆算する経済産業省、いまの学校システムから積み上げ思考の文部科学省」というような対比を紹介しました。
blog.ict-in-education.jp

 どちらが正しいという話ではなく、どちらの視点も必要なのだと思います。そのうちの、経済産業省側からの、視点をぐっと高めてくれるような資料だと思います。テクノロジーでここまでできる、ということがこの提言には示されていて、これは「学校を、教室を、授業を、こうして変えられる可能性がある」ということを学校/先生方向けに知ってもらうきっかけにもなるのだと思います。

 Z会がまとめた「2018年6月文部科学省・経済産業省からの報告書・提言まとめ~これからの学びってどうなるの?~」も非常に勉強になりました。いろいろな人が、学習指導要領ともあわせて、読んで、考えていく、ということができればいいと思います。
https://www.zkai.co.jp/home/z-asteria/ms/2020/s4.htmlwww.zkai.co.jp

 すべての学校が一気にEdTechを導入して変わっていく、というのはなかなか考えにくく、未来から逆算をしていく学校と、いまの学校システムから積み上げてアップデート(「アドオンで変えていく」という言い方をされる先生もいます)していく学校と、両方が繋がるように、仕事をしていきたいと思っています。

(為田)