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Adobe Education Forum 2018 イベントレポート No.3 (2018年7月23日)

 2018年7月23日に東京大学 伊藤国際学術研究センターで開催された、Adobe Education Forum 2018に参加してきました。今回のフォーラムのテーマは、「AI時代を生きる力 ~企業が求める創造的な学校教育とは」でした。
 今回は、経済産業省 商務・サービスグループ 教育産業室長 浅野大介 氏の講演 “「50cm革命 誰もがチェンジ・メイカー」を実現する教育”をレポートします。
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「未来の教室」

 浅野さんは、「未来の教室」が我々のキャッチフレーズです、と言います。経済産業省は、塾産業や通信教育、習い事など民間教育産業を所掌しています(学校など公教育は文部科学省の所掌)。この民間教育産業を主体として、そこからイノベーションを起こしていく。このイノベーションは民間教育産業に閉じることなく、学校の教育現場も巻き込んで、ひとりひとりの学び方、学びを得るプロセスとして、一人でも多くの学習者に提供していきたい、と思いを伝えます。
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 先程の調査報告でされた、企業が「創造的な問題解決能力」を求めているという報告に、経済産業省も同じだが、ただ企業が求めているからではなく、社会で課題を解決する人材が足りない、ということに問題意識を持っているからだ、と浅野さんは言います。超高齢社会に突入したことがいちばん大きなインパクトで、それによって社会が価値を生み出す力が弱まっている。だから、協働してイノベーションを起こす力が伸びなくてはいけない、ということです。

 浅野さんは、日本は「課題先進国」ではあるが、まだ「課題“解決”先進国」だとは言われないことに課題を感じているそうです。
 ここで、浅野さんは、「超高齢化と人口減少」「第4次産業革命」「(足下の)低生産性経済」の3つの課題を紹介します。

  • 超高齢化と人口減少
    • 社会システムの再デザインをする必要がある。
  • 「第4次産業革命
    • すべてがデータで繋がる。
    • 新しい働き方。世界中の知恵を集めて問題を解決する会社でないと生き残れない。
    • 日本では、組織の壁さえも超えられていないという、コミュニケーション不全こそが問題。
    • 学校のなかでも、教科ごとの壁が存在しているかもしれない。
    • 壁を超えて、異なる分野の知恵を合わせて、問題を解決するというイノベーションの作法に対応しなくてはならない。
  • (足下の)低生産性経済
    • イノベーションの作法に対応しないと、低生産性経済が温存される。
    • 日本の経済は、生産性が低い。一部の国際競争力のある製造業は、新聞紙上で褒められているが、日本のすべての企業がそうなのではない。その現実を見つめなければならない。

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 これを解決するために、経済産業省が立ち上げたのが、「未来の教室」とEdTech研究会です。“チェンジ・メイカー”という言葉が強く見えるかもしれませんが、浅野さんは、以下のようなコメントを言っていました。

  • チェンジ・メイカーは、だいそれたことをする必要はない。
  • ちょっとしたことでもいい。ちょっとした違和感や疑問や不満、そうしたものを、自分で解決したことがあるか?多くの人は目をつぶってきている。それが世の中の現実。
  • 未来の子どもたちには、「違和感がある」とはっきり言ってもらい、「自分でアクションを起こしてみないか?」と言いたい。そうした教育をしたい。それがこれからの世界をサバイブしていく力になる。

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「創造的な課題発見・解決力」

 浅野さんは、「創造的な課題発見・解決力」(チェンジ・メイカーの資質)を3つ紹介しました。

  1. 「50センチ革命」の力
    • 最初の50センチを踏み出そう。
    • それと、自分の半径50センチでもいいよ、という意味も。
    • 学校教育の現場で、こうした力は養われていないのではないか?1日7時間も8時間も過ごす場で、それが鍛えられないのはもったいない。
  2. 「越境」の力
    • 自分の専門性から出てくる。科目を越えて社会課題を解いてみよう、という先生もいるが、そんなに大勢ではない。
    • 企業でも、役所でも、同じ。この壁を越えられない。なぜ越えられないか?越えたことがないから。ダブルメジャーが当たり前な世界にどうやってもっていくか。
  3. 「試行錯誤」の力
    • 試行錯誤は、日本の社会でいちばん弱いところだと思う。

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日本の教育の課題

 続いて、浅野さんは日本の教育の課題についてコメントします。「未来の教室」とEdTech研究会で実施した5回にわたるワークショップに参加した子どもたちからも意見として出たという、「日本の教育は、“何のためにやるのか?”がまったく腹落ちしない」という言葉を紹介します。また、学校では、「まず広く基礎を固めて…」と言われることがあるが、これも本当だろうか?いきなり応用問題からでは駄目なのか?応用問題に取り組むから、基礎が必要なのがわかることもあるのではないか?と浅野さんは言います。

 個人的にはこの部分は、学校の先生方には言い方を工夫するとより深く理解をしてもらえるような気がしました。学校で学ぶことは、何らかの問題を解けるようになりさえすればいいということではなく、その周辺にあることについても学んでもらい、そこから「知ること」や「学ぶこと」に喜びを感じる人を育てるという目的もあると思うからです。

 浅野さんは、ここで自身の仕事を振り返りながら、仕事の中での学びについての紹介してくれました。先日の西日本豪雨災害でも、広島の現地で指揮をとってきたそうです。そこでは、他省庁との協業をしてきました。「私の仕事は文理融合。ちゃんと世の中に影響を与えようと思ったら、文理融合にならざるをえない。本質的なソリューションを立てようと思ったら、文理融合になる。」と言います。実際、仕事で石油産業の再編に仕事で関わったときに、有機化学の教科書も開いて勉強したそうです。学生時代はつまらなかった理系の教科がこんなにおもしろいのか、と思った、という経験が、浅野さんの言葉を支えています。
 ここから、「リアルなプロジェクトは学びに理由をくれる」と浅野さんは言います。
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 むかしはつまらなかったものが、なぜ今はおもしろいのか?を考えると、おとなの学びは、目的ある学びだからではないか、というふうに繋がっていきます。個人的には、この「目的ある学び」をおもしろいと思うためには、ある程度の基礎を学ぶ必要がどうしてもあるのではないか、と思っています。そして、そこをおもしろくする工夫などをされている先生方はたくさんいらっしゃいます。
 ただ、この僕が言う「ある程度基礎も必要ではないか」ということと、浅野さんの言葉とは、まったく正反対のものではないと思っています。ここをうまく接続できるように、学校に伝えていくという仕事をしていきたいな、と思いました。
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 浅野さんは、「探究」と「勉強」のサイクルを、1.ワクワク・意欲・志との出会い、2.探究プロジェクト、3.教科学習に分けて提示します。このなかでは、1と2がなければいけないのだが、日本では3ばかりではないか?だから、リアルなプロジェクトから、学ぶ理由を3.教科学習に与える、と言います。
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 また、学校という教育空間と学校の先生に頼っていては難しいとも言います。日々、課題解決をするためには、その道のエキスパートの力を借りているわけで、同じように一人の学習者も、どこからの教室空間、先生、学習内容、テクノロジーを選んで力を借りられるようにする、ということかと思います。
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 浅野さんは講演の最後に、「公教育の自由」の拡大、「公教育からの自由」の拡大というスライドを提示しました。学校がより機能するものにできるかも重要だが、そこから抜け出せる人のためのスペースを確保することも同じように重要だと思う、と浅野さんは言います。
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 この2つの観点について、今回のアドビもそうですが、企業や社会が学校に与えられることは多いのではないかと思いました。

 No.4に続きます。
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(為田)