教育ICTリサーチ ブログ

ICTを教育にどう活用できるか、現場目線でリサーチします。

JAPET&CEC海外調査部会 オーストラリア視察研修報告4「世界で活躍する人材を育てる~Queensland Academy for Health Science Campus~」

 第4回の今回は、6月5日の午後に訪問したQueensland Academy for Health Science Campusです。
 この学校はyear10~12の生徒が通う高校で、国際バカロレア(IB)の認定校でもあります。
f:id:ict_in_education:20180907145600j:plain

 学校に入ると、なんと日本人の生徒たちが我々を迎えてくれました。この学校には日本人の生徒も多くいるそうで、その中の何人かが今回の訪問の補助をしてくれました。
 お陰で、先生との会話で分からない部分や、生徒から見た学校の様子などを直接日本語で聞くことができ、とても助かりました。

 この学校は公立の高校ですが、科学や医療介護関係の産業に従事したいと思う学生の創出を目指しており、理系科目の授業に比重が置かれています。日本で言うところのスーパーサイエンスハイスクールのような位置づけの学校と言えばよいでしょうか。
 キャンパスのすぐ横にある、グリフィス大学(Griffith University)とのパートナーシップによって教育や研究の面での連携を図っており、高校というよりは大学のような高度な内容の授業が展開されています。

 オーストラリアでは公立の高校に進学する場合、一般的には受験はありませんが、この学校に入学するためにはWebでの審査のほか、試験と面接が課されます。これは教師についても同様で、この学校で働くためには審査を受ける必要があるそうです。

year11:知の理論(Theory of Knowledge)

 この学校では、11年生(日本での高校2年生にあたる)の「知の理論」という授業を見学しました。この科目はIBのディプロマ・プログラムの必修科目の1つで、文部科学省のHPによると以下のように記載されています。

知の理論(TOK:Theory of Knowledge)
 「知識の本質」について考え、「知識に関する主張」を分析し、知識の構築に関する問いを探求する。批判的思考を培い、生徒が自分なりのものの見方や、他人との違いを自覚できるよう促す。最低100時間の学習。
(参考)3. 国際バカロレアのプログラム:文部科学省

 授業はホールのような場所で行われ、生徒は1人1台のPCを持って授業を受けています。この学校では、BYODが実施されており、入学にあたってはPCを自費で購入する必要があります。案内してくれた生徒によると、紙のノートを使うときもありますが、長い文章を書くときはPCの方が速いのでそちらを使うことが多いと話していました。
f:id:ict_in_education:20180907145724j:plain

 また、MyQAという学校専用のアプリが導入されており、授業中に使用するドキュメントや参考資料の閲覧などはこのアプリケーション上で行われます。他にも、授業のたびに出される課題の提出やフィードバック、スケジュールの管理、CASと呼ばれる課外活動の記録まで、学校で行われる学習活動が全てこのMyQA上に記録されるようになっています。
f:id:ict_in_education:20180907145742j:plain

 ただ、次回の記事で説明するOneSchool System(クイーンズランド州が運営する、生徒の成績や家庭環境などの情報を管理するデータベース)との連携はしていない(することが許されていない)らしく、成績表や個人情報の管理はOneSchool System上で行っているとのことでした。

4000語の課題論文(Extended Essay)

f:id:ict_in_education:20180907145808j:plain

 次に見せていただいたのは、学校の図書館。ある生徒によると、以前通っていた別の学校では放課後すぐに図書館が閉まっていましたが、こちらでは毎日17:00まで開いており、課題に取り組む際によく利用するそうです。また、隣のグリフィス大学の図書館もよく利用しているとのことでした。

f:id:ict_in_education:20180907145829j:plain

 図書館の壁には、何やら難しそうなタイトルの書かれた紙が。これは過去の生徒が12年生の終わりに提出した課題論文のテーマが書かれたものです。IBのディプロマ・プログラムでは、12年生の終わりに4000語の課題論文(Extended Essay)を提出する必要があります。

 テーマをちょっと見てみると「ストレスや不安がスポーツ選手のパフォーマンスにどのように影響を与えるか」や、「2015年のフォルクスワーゲン二酸化炭素排出量の偽装問題は、同社にどのような内的・外的影響を与えたか」など、高校生のエッセーというよりは大学の卒業研究のようなテーマが並んでいます。

 課題のテーマについては11年生のころから先生と話し合いながら生徒自身で決定します。世界で1つしかないユニークな論文を発表することが求められ、過去の論文の焼き直しはできません。これは先ほどの「知の理論」の課題についても同様で、毎年課題が変わるため、いくら過去に提出された課題をしっかり読み込んでもそれだけでは評価されません。ちなみにMyQAには、なんと盗作チェックツールが搭載されており、生徒が他者の文章をコピー&ペーストして課題を提出しても、すぐにわかるようになっています。

 12年生の終わりに、論文の発表会があり、そこでその年の勝者が決定されます。審査員には校長先生以外にもパブリックスピーキングの専門家なども招いて行われ、内容はもちろん、話し方や態度なども審査の対象となるそうです。

課題が忙しくていじめをしている暇はない

 この学校では、「知の理論」をはじめ授業のたびにレポートなどの課題が多く出されます。授業ごとに出される課題は相当量が多いらしく、授業自体は14:00には終わるそうですが、課題をこなすのに時には深夜までかかることもあるそうです。実際、課題がきつすぎて、一旦入学したものの、普通の公立高校に転出していく生徒も一定数いるようです。

 参加者が、「日本ではいじめが問題となっているけど、この学校にはいじめはないの?」と聞いたところ、「課題が忙しくてそんな暇がない。それに課題やグループワークをこなすのには他の人の手助けが必要。いじめをしても自分が困るだけでメリットがない」と言う言葉が返ってきました。
 ・・・うーむ。何という大人のような答え。返す言葉がありません。

 今回案内してくれた生徒の学年はバラバラでしたが、皆とても仲がよさそうでした。同じ日本人(といっても日本在住経験があまりない子が多いようでしたが)ということもあるのでしょうが、学年を超えて助け合う文化が自然と醸造されているのかもしれません。

希望の進路に向けて課題を選択する

 オーストラリアでは日本のような大学入試がありません。入学したい大学ごとに履修が必要な教科と、成績の基準が示されており、その条件を満たした大学に出願することができます。従って、将来の進学先を見据えて受講教科を選択する必要があります。
 この学校は、科学や医療介護関係の仕事に従事する人材を育成しているということで、ある高校1年生の生徒に「入学前から将来は科学や医療関係の仕事に就きたいと思っていたの?」と聞いてみたところ、「正直入学したときはそこまで考えていなかった。この学校を選んだのは同じ学校から多くの友達が受験したから。ただ、この学校で勉強して、今は看護師になりたいと思っている。」とはにかみながら教えてくれました。恥ずかしながら自分が高校生のときにはそこまで将来のことをしっかりと考えていなかったように思います。そうやって自分のやりたいことを見つけ、それに向けて努力をしている生徒たちはとても輝いていて、なんだか少し羨ましい気持ちになりました。

 今考えている将来の夢がずっとそのままとは限らないし、必ずしも希望通りにはならないかもしれません。しかし、これからの子供たちには、誰かが決めた道を歩むのではなく、自分自身で道を切り拓いていく力が今まで以上に求められます。そんな時、そうやって自分でやりたいことを見つけ、それに向けて努力した経験は、どの分野に進んでも必ず生きるときが来ると思います。

 「世界で活躍できる人材を」。国際バカロレアとこの学校が目指す理念は、しっかりと生徒の中に息づいていました。

 第5回に続きます。
blog.ict-in-education.jp


(東京書籍:清遠)