教育ICTリサーチ ブログ

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JAPET&CEC海外調査部会 オーストラリア視察研修報告6 「Queenslandブランドの教育を世界に~クイーンズランド州教育省訪問(後半)~」

 第6回の今回は、6月4日の午後に訪問したクイーンズランド州教育省で伺ったお話の続きです。

電子図書館システム

 クイーンズランド州では、先生や生徒向けの蔵書のデジタル化にも取り組んでいます。先生は、1,600冊以上の電子書籍のほか、毎月アラート配信される教育に関する情報や、査読済みの論文などを閲覧することができます。
 また、児童生徒向けにもOverDriveのシステムを使って電子図書館を運用しており、241校64,000人が利用しています。ここでは21,000冊の電子書籍やオーディオブック、ビデオブックなどが利用できます。

 電子図書館の利点としては、いつでもどこでもアクセスが可能な点、表示(文字サイズや明るさ)の変更や音声による補助(※オーディオブックなど)により識字障害の児童・生徒でも利用しやすい点、全ての生徒が一度に同じリソースにアクセスできる点、紙の図書館の運営に比べコストを削減できる点などを挙げていました。
 もともとオーストラリアは国土が広く人口密度が低いこともあり、遠隔地教育が盛んな国でもあります。電子図書館システムが普及しやすいのはそのあたりにも関係があるのかもしれません。

 常に興味を持って読み続けてもらうために、毎年コンテンツの追加や変更を行っています。年度に合わせて新しいものやおすすめの書籍などを紹介したり、「3年生の英語のクラスで読む書籍」や「Minecraftに関するもの」など科目の内容に応じたコンテンツセットを用意したりしています。
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 私自身は紙の書籍や図書館も大好きですが、目当ての本が貸し出し中で読みたいときに読めないことも多かったので、こういったシステムによって読書の機会が増えるのはとてもよいことだと思います。

Learning Place

 オーストラリアには日本のように統一で使われる教科書がなく、先生方は指導計画の立案から教材の作成まで自分で行う必要があります。そんな先生方をサポートするのがLearning Placeです。

 Learning Placeは大きく以下の4つの機能からなります。

  1. edTube と edStudio:デジタル教材の作成と共有
  2. Virtual Classrooms:生徒も利用できるLMS
  3. Web Conferencing:オンライン会議システム
  4. Contemporary Practice Resource:各教科の指導案やアイデアの共有

 例えば下の画面はedStudioの中のデジタルコミックの作成を補助するためのコンテンツ。
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 また、下記はedTubeの中のオーストラリアに生息する動物の写真を集めたコンテンツです。各コンテンツはカリキュラムに沿って検索が可能なほか、先生方が自分で作成したものを共有することができるようになっています。
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 また、Learning Placeにはオンライン会議システムもあります。
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 オーストラリアは非常に国土が広いため、教育省の職員が全ての学校を訪問して研修を行うことはできません。そういった場合にもオンライン会議システムを活用して研修を行うことができます。マイクを使って質問をしたり、出席できなかった人が後で聞けるように会議の様子を録音しておいていつでも聞けるようにしたりすることができます。
 このようにLeaning Placeには教材の提供に加え、研修や教師同士の学び合いの場が設けられています。先生方のデジタル活用能力を向上させることが生徒のデジタル活用能力向上につながり、それが結果的に成績向上につながることを目指しているということでした。

Digital Technologiesのカリキュラム

 第1回でもお話しましたが、全国統一カリキュラム(Australian Curriculum)では、8つの学習領域(教科)が定められています。その中の1つがTechnologiesです。以前のカリキュラムはOfficeの使い方やpythonの記述の仕方など、限定的な内容でした。一方新しいカリキュラムでは、生涯使える知識として問題解決のソリューションを作り出すことを中心に据えています。
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 TechnologiesはさらにDesign and TechnologiesとDigital Technologiesに分かれており、このうちDigital Technologiesの中でプログラミング(コーディング)が扱われています。
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 日本でも小学校におけるプログラミング教育の必修化が話題となっていますが、日本の場合は小学校では各教科の中で、中学校では技術・家庭科で、高校では情報の科学でというように、それぞれ扱いが異なります。一方オーストラリアは就学前から高校まで一貫した体系の中で段階的に学習していくように設計されています。このあたりは日本よりもすっきりしていてわかりやすく感じられました。

 一方で課題もあるようで、使える教材や指導案などはまだ不足しています。また、回線や機器整備の遅れ、先生方のスキル不足、指導時間の不足など、日本でもよく聞かれる課題はそっくりそのままオーストラリアにも当てはまるようです。現在クイーンズランド州では、州のカリキュラムからナショナルカリキュラムへの移行を進めている最中であり、教育省ではこれらの問題を解消するために、各地域にSTEM教育の導入をサポートする人材を配置したり、Learning Placeの中にコミュニティサイトを作って成功事例を共有したりするなど、様々な取り組みを行っています。2020年に小学校におけるプログラミング教育必修化を控えた日本にとっても、大いに参考になることと思います。

 第7回に続きます。
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(東京書籍:清遠)