2018年10月29日に開催された、私塾界リーダーズフォーラム 教育ICTカンファレンス2018に参加しました。Session4「【パネルディスカッション】未来の教室がやってきた」にて、モデレーターをつとめさせていただきました。パネリストは、経済産業省 教育産業室 室長 浅野 大介 氏、英進館株式会社 代表取締役社長 筒井 俊英 氏、武蔵野大学中学校・高等学校 校長*1 日野田 直彦 先生、atama plus株式会社 代表取締役CEO 稲田 大輔 氏でした。
ステージ上で皆さんとお話をしていたので、あまりメモを取れなかったのですが、録音テープをもとに自分が気になった部分を記録として残しておきます。パネリストの皆様のやりとりが活発だったぶん、情報量も多いのですが、こうしたやりとりがされたのだという記録にはいいと思います。
きちんとした記事は、月刊私塾界にて記事として掲載されると思いますので、そちらもぜひご参照ください。
パネリストの皆様の自己紹介
浅野さん
- 民間教育と公教育が混じり合う。
- 2つの目的
- 学びの個別・最適化
- プロジェクト志向
日野田先生
- 世界は大きく変わる
- 2050年、GDPもランキングは大きく変わる。日本がナイジェリアになる!?
- すべきことは、「チャレンジ」。
- ICTの学校への導入
- ICTは手段と目的が反対になっている。入れたらなんとかなると思っている?再整理すべき。
- 一方で、全員が何をやっているのかがわかるようにTrelloを使っている。N高校が使っているSlackも同時に使っている。
筒井さん
- ICTの教室への導入の具体例
- 中学生の集団指導(英語、数学)で、すららを導入。すららによって、塾のない日でも、どれだけ勉強したかがログで残る。塾にいないときも、常に見られている感が子どもたちに伝わる。塾に来たときに、先生が全部どれだけ勉強したかがわかるようになっている。従来型ではできなかったこと。
- FLENSを授業中の演習で使っている。採点や順位出しに時間がかかっていたが、リアルタイムで採点も順位もわかるようになった。ゲーム感覚で、緊張感をもって子どもたちは取り組んでいる。
- 英語は4技能。テキストも全面改訂。4技能の教科書+MyET(音読やっているかがわからなかったのが、これもログが残る)
- ICTは導入して終わりではない。うまくいっているところ、うまくいっていないところがある。使う指導者に依存しているところがある。
稲田さん
- AIの先生を作っている。全国の塾で導入してもらっている。タブレットでatama先生と勉強している。
- AI先生は、子どもたちのそれぞれ違う勉強の仕方に対応している。それぞれの子どもたちにあった教材を自動的に作る。子どもの強いところ、弱いところ、集中できることろ、忘れてしまうところ、そうしたことを分析して、その子にあった教材を作る。
- センター試験前に勉強してもらった生徒、全員の平均で1.5倍くらい成績が上がった。勉強時間をできるだけ短くしたい。
- 三井物産で働いていて、いろいろな国の教育を見て、世界で活躍する力、社会で生きる力を身につけてほしいと思って起業した。
- アクティブラーニングをしている時間が先生にも生徒にもないのではないか、と思っている。だから、基礎学力の習熟にかける時間を短くすればいいのではないか、と思っている。基礎学力も身につけて、社会で生きる力も身につけてほしい。
これからの教育について
自己紹介の中で語られた、パネリストの皆さんのバックグラウンドをベースにして、これからの教育についてディスカッションをスタートしました。
- 浅野さん
- 「学びの生産性」。自分のプロジェクトを定義して、自分ができることと、自分ではできないことを結びつけて、プロジェクトとしてゴールにもっていく、ということはみんなやっていること。
- AIが活躍するこれからの社会では、人間に期待されるのは、こうした能力。この能力を磨くのは必要だし、この能力を磨くのは楽しいはず。
- 薄っぺらい知識でディスカッションして終わり、ではいけない。インプットはしなければならない。ただ、何のためにインプットしているのかがわかるように、かつ効率的に行うべき。
- 為田
- 基礎学力を挙げていく部分は、公教育、学習塾での場面でもあると思うのですが、どうですか?
- 日野田先生
- 人材育成には時間がかかる。品質が安定しない。その間にもやめていく。そこが塾の辛いところ。
- プロジェクト・ベースト・ラーニング(PBL)しか私はやっていない。逆に基礎学力はリサーチでやっているだけ。カリキュラム・コンテンツがすごく整備されていて、そのとおりにやれば基本的なところまでは学べる、日本の教育はかなりよくできていると思う。
- 前任の箕面高校の2/3は日本の教育、残りの1/3はインターナショナルスクールのカリキュラム。どう結びつけるかが課題。
- 先生のマインドセットは変える必要があると思う。「なんでこれをやっているのか」を、どの先生も説明せず、解法だけを教えている。好きな子だけは伸びる。高度経済成長期のスピード重視の教育法。
- 浅野さん
- 日野田先生
- 微積分は目的ではなく、ただの手段。
- 浅野さん
- 社会科と数学が一緒になった授業はできるのではないか?未来の教室事業でやりたい。
- 歴史だって、戦争にどうして勝ったのかをゲーム理論的に学ぶ、というのもできる。戦略論から数学もあるし、経済学から数学もあるのだと思う。
- 為田
- こうした社会が来る、というところから戻る思考がある一方で、教室という場には、「いつか役立つもの」もたくさんあると思うのですが、そのあたりを意図的にやろうと思うと膨大なプロジェクトが居るのではないかと思うのですが…。
- 筒井さん
- インターナショナルスクールの教育は、日本の教育と全然違う。日本の教育のいいところは読み書き算盤。
- 一方で、科目横断、社会課題をテーマに与える、というアプローチも万能ではない。基礎知識がない状態で、検索してコピペするだけ、一見見た目はかっこいいけど、あまりわかっていないな、という雰囲気もある。
- 従来型の日本型の教育が知識に偏りすぎているのも問題だが、欧米型の方ばかりに偏るのもよくないように思う。
- 浅野さん
- 稲田さん
- 基礎学力の習得については、先生の役割は大きい。生徒のやる気を引き出すのは、「基礎学力を知ることでわからないことがわかるようになる楽しさ」「基礎学力を知ることで世の中をどうするのか」ということを知らせること。
- 基礎学力は高校までは、誰でもできる。問題は、「どこがわからないかが、わからない」こと。微分積分の前に、2次方程式をやりなさい、というところをAI先生が教えてくれる。自分がわかっていないところがわかるようになって、それをわかるようにするのは、テクノロジーの得意なところ。AI先生が教えてくれる。
- 人間の先生は、「微分積分を身につけて、それが社会にどう役立つのか」ということを伝えること。
- AIだけで教育改革はできない。AI×人のベストミックスをどう作っていくか。それが大事。AIをどう使いこなすか、人とどう融合するかというモデルを作っていく塾さんが伸びていくと思う。
2024年以降の取り組み
AI×人のベストミックスをどう作るか、AIをどう使いこなすか、という点から、新しい学習指導要領が完全実施される2024年以降、学校・先生はどのように変わっていくべきかについて、ディスカッションは続きます。
- 為田
- AIを使いこなす、教室に入れていく。それを先生方はできますか?
- 日野田先生
- 稲田さん
- マネジメントがコミットする塾はうまくいく。ただ教材の代替にしたい、というようなところはダメ。
- 筒井さん
- 英進館には、生徒が30,000名、正社員の教師が500名いる。実際導入してみて、教師によって同じ会社、同じ教材なのに、校舎間でばらつきがある。もともと授業の上手な先生、従来型の授業が上手な先生は、授業をしなくてサポートに入っても、アクティブラーニングの授業をしても、上手。
- デジタルコンテンツにしてもアクティブラーニングにしても、先生一人ひとりの個性、魅力に依存すると思う。
- 浅野さん
- 未来の教室実証事業では、学校が現場になるプログラムがほとんど。だが、本当に目指したいのは、塾の現場がどんどん変わっていっていくこと。「学校がこうなってほしいよね」という理想の教育空間を、塾に作ってほしい。これまでも塾はそうだった。塾は教育の質を実質的に担保してきたとも言える。
- ICT使いましょう、個別最適化しましょう、というもの、民間教育サービスが最初に作り出している。まず民間教育がモデルを示していく。そうすることで、「あ、できるんじゃん」ということになり、最終的に学校に取り入れられていく、という未来になるといい。
- 塾が在り方を変えていく、というのがすごく重要だと思います。
- 為田
- 未来の教室については、学校に対してのフィードバック、どれくらいまで広げるというビジョンはありますか?
- 浅野さん
- 筒井さん
- 10年以上前までは、官民連携はまったくなかった。塾から学校へ歩み寄っていくことはできないので、学校や教育委員会からの依頼を待っている。
- 山口県や長崎県などで、進学指導や授業のやり方のサポートをしたりもする。学校単位では、昼間の授業で、学校の先生と入れ替わって授業をするという取り組みもしている。
- 本当にサポートが必要なのは、経済的に苦しい、保護者が教育に関心がない家庭の生徒。本当にサポートが必要なのは、そうした家庭。
- 過疎に向かっている地域は熱心。塾の教室から遠い地域からの依頼が多いので、生身の先生がいくのは厳しくなりつつある。授業を収録して、全カリキュラム中学生分を用意して、対応できるようにした。
- 浅野さん
- イメージしているのは塾がプログラムを作って、困っている学校に入っていくのが、ビジネスとして成り立つようになること。
- 学校から「放課後を手伝ってください」というのは、塾のプライムタイムにあたる。「お金が払えません」というのにどう対応するか。学校のプライムタイムと塾のプライムタイムがカニバらないようにするのはどうするか?ここは制度自体に切り込んでいく話。
- 塾の先生が学校の教団にそのまま立つというのも、制度的な問題に関わることなので、そこも未来の教室でやっていくこと。
- 日野田先生
- 学校の先生は60万人。本来、民が主、官がサポートなのがリアル。それを官が全部やるから大変になっている。
- ICT教材、デジタル教材で、生徒をサポートすることができる。良質なコンテンツを探してくるようにしなければ、財政的にも学校はもたない。払おうと思っても払えない、いまの状況を変えなければならない。
- 浅野さん
- 前提としているキャラクター設定がぜんぜん違う。どんどん校長室から出ていく日野田先生のような校長先生を普通としなくてはならない。
- 為田
- 「未来の教室」実証事業も、どんどん横に広げていけるようになればいい。
- 浅野さん
パネリストからのメッセージ
まだまだ話を続けたかったのですが、時間が来てしまったので、ここでパネリストの皆さんに、今回のテーマになった「未来の教室」について、どのように関わっていきたいかなど、メッセージをもらいました。
- 稲田さん
- 日野田先生
- 筒井さん
- 個別最適化、これは絶対大事。ICTを使って個別最適化がキーワード。
- 学校と塾の垣根が完全になくなってきた。社会問題の解決を目指した模索が学校現場にも浸透していると思う。入試問題も変わってきている。全国学力調査の国語の問題が変わってきた。多様な考えをくみとったうえで、自分の考えをどうまとめるか、ということが入試問題で問われるようになってきている。福岡県の入試でも、5科目すべてで対話型の問題が出題された。
- 塾の人間としても、学校の先生と協力する機会が増えてきている。社会に役立つ力を育てることに、塾が貢献できる。
- 浅野さん
- 「教室」って、ある人にとっては家かもしれないし、学校かもしれないし、フリースクールかもしれないし、塾かもしれない。社会課題の現場が教室であるかもしれない。
- 新しい学び方は誰もまだ定義できていない。年末から研究会を再開する。実証事業でどんな変化が出てきているか、それをテーブルの上に乗せて、組み合わせなどを考える。生徒がどう変わる必要があるかを話し合っていく。そこで塾の人たちといろんな議論をしたいと思う。
- 市場を作っていくもの。そこはこれから課題だと思っている。市場は自分で作るもの。「これから必要になる、もっと他の力を身につけましょう、塾で」というふうに言うべき。
パネルディスカッションの最初には、「未来の教室」という言葉が、学校の教室のイメージだったのが、ディスカッションを続けていくうちに、どんどんイメージが広がっていったのではないかと思います。
公教育をより良いものにするために、私教育である学習塾をはじめとする民間教育サービスは、さまざまなサポートができると思います。そうしたビジョンを参加者の皆さんと共有ができたのではないかと思います。
(為田)
*1:2018年度まで 武蔵野女子学院中学校・高等学校