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近未来教育フォーラム2018 The ART into Future レポート No.2(2018年11月22日)

 2018年11月22日に、デジタルハリウッド大学で開催された「近未来教育フォーラム2018 The ART into Future」に参加しました。
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 学校法人角川ドワンゴ学園、N高等学校 副校長である、上木原 孝伸 先生による講演「「未来の教室」を今、つくる ~N高の挑戦と展望~」を聴きました。
 僕は、テクノロジーによって学び方の選択肢が増えることをとてもうれしく思っています。その意味で、N高がどのような形で運営されているのかを聴くのは非常に興味深かったです。以下、自分でとったメモを公開します。
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どんな子どもたちがN高へ?

 最初に、どんな子たちがN高へ来ているのか、ということについての話がありました。

  • 2016年4月 N高等学校開校→2018年10月現在 7,274名が学ぶ
  • なぜN高に?
    • 不登校の人数は182,977人(中学生の33人に1人は不登校
    • いまのN高生15歳は、2003年~2004年の生まれ。←2008年7月11日にiPhoneが日本発売。子どもの頃からスマホがあった世代。
    • 勘のいい子どもたちは「教室で覚えるだけの勉強に何の意味があるのだろう?」「“Hey, Siri”と言ったら答えがわかるのに…」と違和感を感じている。
    • これがこうじると、学校へ行かなくてもいいんじゃないか、となる。「非登校」と勝手に呼んでいる。この子たちが、N高に来ているのではないかと思う。

 こうして、「非登校」になった子たちが多く集ったN高のことを考えると、既存の学校システムに合わなくなった子たちが、テクノロジーの力で学ぶ術(N高)を手に入れているように思えます。

N高のカリキュラム&授業はどんなもの?

 N高がどのような学校を作ろうとしているのか、どのような授業をしているのかについて、詳細にお話をいただきました。

  • N高は、通信制高校の制度を使って、未来の学校を作ろうと思っている。学校での拘束時間を短くして、自分がやりたい勉強の時間を最大化する。
  • 高校入学当時に、「やりたい勉強」が決まっている子はほとんどいない。
  • 高校卒業資格をとることを目的とはしない。高校は自分の「個」を見つけ、その後の生きる道をしっかり考える時間。
  • 授業は空いた時間に動画で受ける。小テストに合格しないと次の動画を見ることができない。
    • 映像は5分×4講→小テスト。
    • 生徒の学習履歴を先生がマイページを見ることができる。2年前に、保護者向けマイページもつくった。進捗を見て担任が連絡している。
  • N高を卒業するだけなら、ベーシックプログラムで終了。大事にしているのは、アドバンスプログラムとコミュニケーション。
    • アドバンスプログラム(N予備校、大学受験、中学復習、プログラミング、クリエイティブ、エンタメ…)
    • コミュニケーション(Slack、メールなど)
  • 本校(沖縄)に、年間5日間、来なくてはならない。一期一会の真剣勝負の授業と現地でしかできないアクティビティ。先生たちにも、最高の授業を用意してください、とお願いをしている。

 ネット上だけで勉強できるの?という心配もあるかと思いますが、これについては、一期生の冨樫真凛さんがインタビューで答えていた、「ネットの高校だからこそ、ネットじゃない部分は自分でやっていかなくてはならない。誰もフォローしてくれない。だからこそ、アクティブになる。」という言葉が、まさにそうなのではないかと思いました。この内発的動機が出てくれば、オンラインでもオフラインでも、どこで学ぶかは、あまり関係なくなるのかもしれません。

 続いて、N高の授業がどんなものかについてです。すごくおもしろそうで、一度見学してみたい、と思いました。また、先生たちも楽しそうだと思いました。一回、教えてみたいですね…。

  • ニコニコ生放送の仕組みを授業で使っている。
    • 先生の説明がわかったら、「なるほど!」って字幕がどわーっと出る。
    • コメントで先生に質問をすることができる。
    • アンケート機能もある。
  • 生の授業でできることを再現したかった。
    • 挙手&生添削:挙手してあてられたら、自分のノートを写真で撮影して送る。それをもとにして、生添削してもらうことができる。
  • 2018年6月から、Adobe CreativeCrowdがN高生は、全員無償配布。イラスト好きな子が多い。好きを仕事にできるように。
  • Slack上で毎日ホームルームが行われている。
    • 言葉では言えない子も、コミュニケーションに参加できる。
    • Slackを入れた理由は、「のびているサービスだから」。卒業生が使えることに意味がある。
    • 失敗があるなら、Slackの中でしてもらいたいと思っている。
    • 先生が「きーんこーんかーんこーん」ってSlackで(文字で)鳴らしていたり。
    • 「起立!」「礼!」「よろしくお願いします!」「ガタッ」「ペコペコ」とかSlackで文字列でホームルームをしている。
    • チャンネルも制限なし。自由に作っていいと言っている。

 「生の授業でできることを再現したかった」という、上木原さんの言葉は、非常に大きい意味をもつと思いました。リアルな場を一度取り払ったときに、オンラインで学ぶN高の教室に何が残っているのか。学校の本質的な機能がそこに残っているのを感じました。学校は、N高と同じ地平で争うのではなく、N高の持っている本質的な機能に、教室という場だからこそできることをもう一度整理し直してみてもいいのではないかと思いました。

オンラインだけでもコミュニティとして機能するのか?

 オンラインだけで友だちはできるのだろうか?という疑問についても、アンケートの結果が示されました。

  • 新しい友達ができた 87%
  • 絵を好きな人が集まるチャンネルは、美術部に昇格し、イラストレーターによる指導を受けられるようになった。部員は190人(2018年11月現在)
  • N高文化祭。生徒・保護者・生徒の友人で来場者数3279名(門をつくって、門の前で記念写真が取れる、本当の部下祭に近いことができるように、ということにこだわった)

 「新しい友達ができた」のが87%、「新しい友達ができなかった」が13%という数字も何だかリアルな感じがします。
 絵が好きな人が集まっていたSlackチャンネルがオンライン部活に昇格し、いまや部員が190人いるというのも素晴らしいと思います。190人在籍している部活を持っている中学校、そんなにありませんよね?これもオンラインだからこそのサイズ感かもしれません。

N高の新しい取り組み

 こうして歩んできたN高ですが、開校してしばらくして、生徒から「N高だったら通いたい」という声があがったそうです。そこで、「せっかく通える場所を創るなら、通わないとできないことをやろう」と、もう一度ゼロベースで「高校に通う」を再設計したそうです。

  • 通学コースを2017年4月に2校、2018年に6校、2019年に5校開校予定
  • 通わないとできないのは、「実践型プロジェクト学習」、探究型と言ってもいい。
    • PBL開発専門チームは教員とは別に配置。←普通の学校とは違う。
    • 教員・生徒からのフィードバックをもとにブラッシュアップする。
    • プロジェクトは産学連携でやっている。
  • 部活はネット部活、事務は事務チーム、先生はスクーリングの授業以外は授業しない。それ以外は生徒面談を徹底的にやる。月に1回、生徒と1on1ミーティングをする。

 とにかく、どんどんチャレンジしていくところが本当にすごいと思いました。

N高の課題と対策

 課題と対策についても触れられました。全体としての感想として、課題に対する対策が非常に具体的だと感じました。具体的だからこそ、すぐに実行することもできるのだと思います。

  • 学習に対するモチベーションの維持
    • 生徒それぞれの夢に向かうための動機づけ
    • Salesforceで架電数とレポート提出などについての関係を調査している。
    • 5月6月くらいに、電話をかけるのがよい。
    • ネットで三者面談(Zoomを入れてもらってやっている)
  • 生徒間のトラブル
    • トラブルが起こるのは当然。
    • ネット通報フォームがある。
      • コミュニティ開発部と生徒指導部で協議をしている
      • ニコニコ動画の運営をしていたプロが担当している。教育の畑の人たちとはちょっと違う、知見がすごい。
      • N高のスタッフは、教育、ネット、他業種から3分の1ずつ来ている。だからこそできることがある。
  • 将来の進路をきちんと描けるか
    • メールでは送っていたが、保護者への情報提供がない、と言われた。紙で保護者通信を送るようにした。

まとめ

 非常に刺激を受けた講演でした。上木原さんは、「N高のスタッフは、教育、ネット、他業種から3分の1ずつ来ている」とおっしゃっていましたが、まさにこの多様性が強みになっているのだと感じました。
 上木原さんは、「中学生の選択肢が少ないと思う」とおっしゃっていて、公立の中学校に在籍しながら、校長先生の許可を得てN中等部に通ってきてもらう仕組みも動き始めます。

 最後のまとめでは、N高がどのような学校でありたいのか、ということがよく伝わるメッセージがあったと感じました。

  • N高等学校はネットやICTを「手段」とした未来の学校を創る 先生の役割は聞き出す、引き出す、夢中にさせる
  • 「学びは楽しい」という、一生モノの価値観を創る。

 また、C.M.ライゲルース・J.R.カノップ『情報時代の学校をデザインする 学習者中心の教育に変える6つのアイデア』に出ている内容とも合わせて、考えてみたいと思いました。

 N高は、情報時代の学校、のひとつのモデルになるように思います。N高の挑戦を応援していきたいと思います。
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(為田)