教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

書籍ご紹介:『イノベーション・スキルセット』

 田川欣哉『イノベーション・スキルセット』を読みました。田川さんは、東京とロンドンを拠点に、人工衛星から和菓子まで幅広くものづくりに取り組むデザインファームTakramの代表取締役です。
 この本は、2020年代に生きる企業やビジネスパーソンやエンジニアに必要とされる、イノベーションを生むためのスキルやその人材像について書かれています。キーワードとなるのは、「BTC(ビジネス×テクノロジー×クリエイティビティ)」です。デザインファームではありますが、Takramは「越境」というコンセプトが強くて、いわゆるクリエイティビティも製品・サービスだけでなく、コミュニケーションやコンテクストなども含めて考えられています。
 学校での子どもたちに探究する機会を増やそうと考えると、こうした考え方を伝えてあげたいな、と思いましたし、「学びのデザイン」にもBTCは関連させられるのではないかと思いながら読みました。

イノベーション・スキルセット~世界が求めるBTC型人材とその手引き

イノベーション・スキルセット~世界が求めるBTC型人材とその手引き

  • 作者:田川 欣哉
  • 出版社/メーカー: 大和書房
  • 発売日: 2019/08/24
  • メディア: 単行本
イノベーション・スキルセット~世界が求めるBTC型人材とその手引き

イノベーション・スキルセット~世界が求めるBTC型人材とその手引き

  • 作者:田川欣哉
  • 出版社/メーカー: 大和書房
  • 発売日: 2019/08/24
  • メディア: Kindle

 以下、興味深かったところをメモしながら、まとめていきたいと思います。

BTC(ビジネス×テクノロジー×クリエイティビティ)の重要性

 キーワードとなるBTCの「C」は、クリエイティビティです。テクノロジーの発達によって、デザインがどのように機能するようになってきたのかについての説明がありました。

デザインの力が注目を集めるようになったのは、インターネット以降、企業がエクスペリエンス(体験)を通してユーザーと向き合う必要が出てきたからです。そして、このエクスペリエンスをつくるのがデザインのしごとだからです。人間とテクノロジーの境界面にデザインが入り、良質なエクスペリエンスが実現されることで、人ははじめてテクノロジーを生活の中で活用できるようになります。
その意味で、デザインはテクノロジーやビジネスの大切な伴走者なのです。もはやデザインは特別なものではなく、デザインなしでは成功できない時代が到来しました。ですから、ビジネスパーソンやエンジニアが、このデザインというものの中身を知り、活用することはとても重要なことなのです。(p.9-10)

 第4次産業革命によって、デザインが重要になっていることは、経済産業省特許庁も「デザイン経営」宣言を出して述べているそうです。

世界はいま第4次産業革命(コネクテッドの時代)に突入し、あらゆる産業に大変革の波が押し寄せている。そんな中、日本企業がまたグローバルプレゼンスを発揮していくには「イノベーション力」と「ブランド力」の向上が急務である。その両方の力を飛躍的に高める力を持っているのがデザインであり、AppleGoogleNetflixなどのグローバル企業にとってデザインの力を活用した経営はもはや常識。かたや日本企業は、経営判断においてデザインを軽視する傾向がいまだ根強く、それが日本経済の足かせとなっている――。」(2018年5月 経済産業省・特許庁「デザイン経営」宣言 主旨)
(中略)
インターネット時代がもたらした大きなビジネスの変化は、作り手と消費者のあいだのつながり方の変化(p.12-13)

 なんとなく、「デザインセンスがなくて…」とか「クリエイティブはプロに任せて…」という風に思っていることが僕は多かったですが、自分でできないにしても、組織の中にBTCの間を行き来できる環境を作ることが重要です。

BTCトライアングル
「BTCの「B」はビジネス、「T」はテクノロジー、「C」はデザインを含むクリエイティビティです。大学の専門でたとえてみれば、「B」は文系、「T」は理工学系、「C」は芸術系となります。新しいプロダクトやサービスが生まれる際には、これらの3職種の人間が緊密に連携することが必要なのですが、大企業になればなるほど、この3職種のあいだは分断され、互いのコミュニケーションは疎かになりがちです。
「どうやったらイノベーションを起こせますか?」という問いに対して、その答えには様々なアプローチがあるのですが、私からの提案は「BTC型組織をつくる」ということです。


まずはデザイナーを交えた組織横断のBTC型チームをつくること。そしてそのチームでビジネスの観点、テクノロジーの観点、デザインの観点を、統合的に思考し、仮説を立てて、プロトタイピング(試作)を通して、その効果を検証するプロセスを実行すること。そして、プロダクトの市場投入以降、初期の集中的改善フェーズを経て、市場に受け入れられる状態であるPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を実現すること。ここまで分業せずに、全員がビッグピクチャー(全体像)を共有したチームワークで乗り切っていくということです。(p.45-46)

 ITリテラシーだけでなく、デザインリテラシーも身につけて、BTCを越境できるようになることが重要なのかな、と思います。もし学校現場でBTCへの入口を提供するのだとすれば、総合的な学習の時間やプロジェクト学習などのなかに意識的に取り込むことができるのではないかと思いました。

越境する人材育成

 学校の学びのなかに、BTC型のスキルへの入口を仕掛けようとするならば、Takramで行っている人材育成法が参考になるかと思います。

Takramの人材育成方法にはシンプルな指針があります。それは、「片足を自分が安心できる得意な領域に置きながら、片足は新しい分野に踏み出して、探り探り進んでもらう」ということ。「二足歩行型の越境」とも呼べる考え方です。こうやって一歩一歩「越境」を重ねていくことで、複眼思考が自然と身についていきます。(p.66)

 また、『ザ・プロフィット 利益はどのようにして生まれるのか』で紹介されている「学習の4つのA」も紹介されています。これも学びの過程として授業の中に取り込むこともできそうだと思い、まとめておきます。

学習の4つのA

  1. Awareness(気づき)
    何かを学ぶ必要性について気づいたり、自覚する。「あ、自分にはこの知識が足りていない」という気づきと自覚が学びのトリガーになる。
  2. Awkwardness(違和感)
    学びをスタートさせた直後は分からないことだらけ。うまく行かないことも多い。ここで「自分には向いていない」と脱落せず、違和感を抱えながら、学びを継続していく。うまくいかないことを無視する、あれこれ考えず鈍感でいる、という態度が大切。「自分は正しく学習の第二段階にいる!」と自分にいいきかせる鈍感力が、このステージをクリアするコツ。
  3. Achievement(達成)
    「集中力を保てれば結果を出せる」「数回に一回は成功できる」という段階。モヤが一気にとけて成長が実感でき、学習してきた努力が報われたように感じる段階だが、できないことやわからない部分もそれなりに残っている。実践を積むことで経験値を上げていくことが重要になる。
  4. Assimilation(一体化・無意識化)
    無意識のうちに物事を実行できるようになる。自分が「できる」ことすら意識に上らない、無意識でできるようになる状態。学習のステージの最終到達地点。

「どんなテーマでもこの「4つのA」の順に学習は進行していきます。この4つのAでカギを握るのが「違和感(Awkwardness)」のステージです。
(略)
BTC型人材を目指そうとすると、一生、越境の道を進むことになります。その過程でいちいち悩んでいてはエネルギーの浪費ですので、鈍感メンタリティーを養っていくことも意外に重要なのです。(p.156-161)

 2段階目の「Awkwardness(違和感)」のところで立ち止まらせず、クラスの力で進んでいったり、先生の見とりによって前に進んでいったり、ということができるのは、学校で学ぶことの良さになり得るのではないかと思います。
探究にも役立ちそう。

デザインに向かう越境のためのトレーニング方法

 Takramの事例として、エンジニア/ビジネスパーソンが、クリエイティブへの越境を進める上で役に立つ考え方や初歩的なアプローチが紹介されていました。

デザインに向かう越境の超基礎編(p.113-155)

  • n=1
    • n数を多く取る定量調査でなく、「現場」「現物」「現人」を、観察やインタビューで深堀りしていく。
    • ユーザーや環境を取り巻く様々な要素のすべてを、ありのままに情報としてインプットしていく。
    • 背景にあるコンテクストやストーリーについても、掘り起こしていき、状況を単純化せず、複雑なまま理解するように務める。
    • 解像度の高い、そして細かい気づきを大量に含んだ内容を獲得できる。
    • 「この情報がどれだけの普遍性を持つのか?」という疑問には、プロトタイプで確認したり、途中段階で定量調査をかけて確認する、と割り切って仮説ドリブンで進めていく。
  • ふせんトレーニン
    • センスを鍛えるためのもの。「センスはジャッジの連続から生まれる」=「センスのない人は、何もジャッジをしていない人」
    • 日々、ジャッジを繰り返すことで自然とセンスは磨かれていく。
    • 赤・青・黄の3種類の小さい付箋を準備し、デザイン系の雑誌や写真集を数冊買ってきて、それを見て、いいと思うものに「青」、ダメだと思うものに「赤」、よくわからないものに「黄」のふせんを貼る。数冊分やると、これまでボンヤリとしか意識できていなかった自分の好き嫌いが、3色のふせんでビビッドに可視化される。
    • 「センスがない」のバロメータは黄色のふせんの量になる。黄色のふせんは、「ジャッジができていない」のあらわれだから。
    • このトレーニングを他の人に見てもらうことで、自分とは違う目線から、自分の好みを批評してもらえるので、ジャッジの精度を一気に向上させられる。
  • たす、ひく、みがく
    • 物事をよくしていくときのアプローチは、「足りないものを足す」「不要なものを引く」「残すものは1ミリでもよくする」の3つしかない。
    • 「引く」作業が欠落している組織は多い。
  • デザインフィクション
    • 将来起こりうる可能性をフィクションとしてストーリー化し、考えを深めていく手法。
    • 人間の生活様式や価値観について嘘をつき、その嘘を起点にして、周辺のコンテクスト、つまりどんな社会になっているか、どうやればそのような社会になっていくかを考察していく。
    • デザイン思考との違いは明確。デザイン思考は「目の前にある課題」を発見し解決する手法。デザインフィクションは「目の前にない課題」を擬似的にフィクションの中で発生させ、それを解くためのプロダクトやサービスを実際に検討してみることで新しい発想に至る手法。
    • 飛躍のあるアイデアを生む手段として有効。
    • 例えば、「税金がゼロになっている」という状況をぽんと決めて、それが実現している未来のために何ができるかを考えていくやり方。
    • 狭くなりがちな視野を強引にストレッチするひとつの手段であり、具体化の手段はまったくともなっていないことは要注意。

まとめ

 おもしろいと感じた部分が多く、たくさんメモしてしまいました…。そのまま直接学校の授業で使えるというよりは、ここを起点としていろいろな考え方やツールなどをカリキュラムや授業案の中に入れていく、ということができたらな、と思います。

 Takramは、ここ数年、すごく関心をもって追いかけている組織です。Podcastでは、Takram Castを聴き、ラジオでは、TAKRAM RADIOを聴いています。

 ご興味ある方は、ぜひお読みいただければと思います。

(為田)