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さとえ学園小学校 授業レポート No.1(2019年11月21日)

 2019年11月21日に、さとえ学園小学校を訪問し、授業を見学させていただきました。さとえ学園小学校では、2018年から一人1台のiPadセルラーモデル)環境を実現し、学校生活のあらゆる場面で活用していて、一人ひとりの学びの成果がiPadを通じてすべて蓄積されていくようになっています。

 授業を見せていただく前に山中昭岳 先生から、さとえ学園小学校のICTの活用、教育の情報化についてお話しを伺いました。
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教育をアップデートする

 山中先生は、子どもたちが一人1台のiPadを活用する環境を作るのに際して、まず学校全体としてのシステムを問題として捉えたと言います。

  • 学校現場は、パソコンに例えるとOSがアップデートされていない状態である。古いOS、古いシステムに、新しいことを詰め込んではいけない。
    • 新幹線のきっぷの購入で例えると、今の学校現場は「窓口で長い時間並んで購入する状態」。アップデートされた環境、スマホだと「3分で購入」できる。
    • そんな現状を上手にまとめている資料がある。経済産業省の「未来の教室とEdTech研究会」で、ボストンコンサルティンググループ(BCG)が作成しているものだ(PDFはこちら)。課題としてあげられているものの中心にあるのが「学校のICTインフラ」であり、多様な問題がそこから派生してみられる。
  • 先生たちはこのような状況の中でも、十分すぎるくらいの努力をしている。そんな先生たちの意識改革も必要とされている。意識改革に必要なもの、それは「システムづくり」である。
  • 学校現場のOSをアップデートすることで、教育をアップデートする。決して今までの教育を否定するものではない。まさに温故知新で、新しいOSを手に入れることで今までの教育を新たな形へと進化させる。
  • 一人ひとりの教師が自らの能力を発揮することができる場、チームとして高め合う場、日本の未来をつくるのは自分たちだ!と自負する教師へ、つまり「教師をなりたい職業ランキング1位」にしたい!

 こうした問題意識を出発点にして、教員の仕事や子どもたちの学びをアップデートしていったそうです。

教員の仕事のアップデート

 さとえ学園小学校では、先生方も教職員全員に一人1台iPadの環境で教務や校務にも活用をしています。
 山中先生は、まず「システムをできるだけ簡単にしたうえで、相手がどうであろうと、情報共有を第一にして、“やってみよう”と思ってもらえる環境をベースとして作った」と言います。以下、山中先生からコメントをいただきました。

この取り組みは、本校のICTメンバーとつくりあげてきています。基本のコンセプトは、「公立校でもできる取り組み」です。すなわち、お金をかけない、改革です。
お金をかけるべきところは他にある。ICTはお金をかけるべきところではない、ということです。そして、もう一つ、システムについては、学校の現場に合わせたシステムではなく、社会の仕組みに合わせたシステムづくりを行うということです。
そこで活用しているシステムは、G Suit for Education(Google)とEvernoteです。子どもたちも同様に活用します。将来のBYOD化を見通し、教育専用のシステムではなく汎用性のあるもの、そして何よりも無料であること、として選択しました。この2つの活用法としては、Googleは基本的に編集できるファイルを共有する場であり、Evernoteは閲覧性のよさからあらゆる情報のブラックボックスとして設定しています。

  • 情報を先生個人で閉じずに、全体でどんどん共有していく。
    • Hangoutsで常にコミュニケーション、連絡を取れるようにしている。
      • オンライン会議での方針決定、情報共有にも活用している。
      • 連絡事項としての校内放送がほぼなくなった。
    • 個人情報・成績情報以外は、あらゆるものをGoogleドライブ、Evernoteに。
      • Evernoteを見れば、すべての資料がそこにある。そして発信する場にもなった。
      • 検索機能が優れている。
      • 手書きでも認識できる。
      • 授業の様子(板書等)も共有している。
      • 一気にペーパーレスを実現した。職員会議資料なども、Evernoteに。中途半端にペーパーレスの方が、「これ紙だっけ?」となる。
    • アプリ選択会議は、Trelloを活用し、すべきことを列挙、進捗状況を把握している。
  • 授業や行事などでもICTを活用し、すぐに発信できるようにしている。
    • 運動会などの行事でも、資料がEvernote上にあるためiPadや様々なデバイスでみることができ、たくさんの資料を持ち運ばなくて済んでいる。
    • 学級通信等の連絡も、Evernoteで作成してすぐに発信。「写真1枚+ひとことコメント」という最小限の情報発信が可能に。
    • 連絡帳はGoogleクラスルームを活用。
  • 児童の様子をデジタルで記録する。
    • デジタルポートフォリオ
      • 通知表の所見を書くよりも、ずっと具体的に書ける。これを毎回の授業のときにできれば、学期末の業務がなくなる。
      • システム化できれば、通知表よりも情報の質も量も良いものになる。
  • 教師の“なんでも屋さん”を解消したい。
    • 教師は、営業、企画、事務、毎日プレゼン、そして食事や清掃の担当…と、多様な仕事を全部やっているのが現状。人間の脳はマルチタスクが苦手で、だからこそ教師の多忙感が生まれてくる。
    • 特に事務処理の割合は教師の仕事の2〜3割を奪い、多いときは半分を占めるときもある。職員室に1ないし2名の庶務さんが入るだけで、その2〜3割の仕事がなくなり、その分教材研究等、本来の業務に取り組める。

 さらに、山中先生は、以下のようなコメントを寄せてくださいました。

先生たちが安心して過ごすことができる場こそが改革の一歩。本校はその一番重要な鍵を握っている管理職が率先して安心できる場の提供を実践してくれている。このような管理職の先生方のリーダーシップは必須。今私がこのように動くことができているのは安心して見守ってくれているからこそ。校務のICT活用は効率化というより、安心をつくるという意図で設計されている。あらゆる情報が共有されることで教職員全員が学校のめざすビジョンに対して思いをともにすることができる。だからこそビジョン実現にむけて個々の多様な考えや方法が受け入れられる。授業については、Evernote上で情報共有することはもちろん、実際に自分の授業を観てもらい、私自身が失敗しているところも含めて情報共有をすることで、先生たちも安心して自分の授業を発信してもらう環境を心がけている。

 もちろん、すべてがデジタル上で完結するわけではなく、会って打ち合わせをしたり情報共有をしたりする方がよいものはあるので、それはそのままです。あと、今までこれは絶対に教師の仕事ではないと思われることも管理職の努力によりやらなければならないものを減らしていく、という作業をされたそうです。

 仕事だけでなく、さまざまなリソースや素材についても、デジタル化を進めているそうで、学校説明の資料も、iPadの中に入っていました。学校説明会の際などにも、こうした形で見てもらえます。写真だけでなく、動画やプレゼンテーション資料を入れることもできるようになっていました。
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子どもたちの学びのアップデート

 子どもたちもiPadを活用している様子は、授業で見ることもできますが、以下のような事例も出てきているそうです。

  • Evernoteで情報共有を子どもたちもしているので、家に帰ってからもやりとりができる。
  • 運動会の応援合戦の曲を決めるときに投票をし、データをiPadでまとめるなど、そうしたことも全部自分たちでできるようになる。
  • 音楽祭において、クラスの合唱を高めていくために自分たちの思いや意見、情報を共有する場としてTrelloを活用している。
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  • 小学校2年生で、宿題をTrelloで管理する事例もある。
    • 今日やる宿題を、できたらボードを変えていく。
    • 目に見えた形で、やることとできたことを変えていく。

 さとえ学園小学校は、「本当のリーダーを育てる」とかかげ、育てたい児童像として「自分が置かれた立場(状況)の中で、自分に何ができるのかを見つけて一歩踏み出す人」を上げています。「自分に何ができるのかを見つける」ための武器として、ICTを活用できる環境を学校が整えているのだということを感じました。

 No.2に続きます。
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(為田)