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「教育の情報化に関する手引」(令和元年12月)を読んで9000字でまとめてみた

 2019年12月19日に文部科学省「教育の情報化に関する手引」(令和元年12月)を公開しました。
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 新学習指導要領では情報活用能力を言語能力と同様に資質・能力の一つとし、教科横断的な視点に立って育成することを示しています。主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を促進する文脈でも、情報活用能力の育成のためにICTやEdTech環境を整備した上でそれらを適切に活用した学習活動の充実を挙げています。
 とはいえ学校教育のICT環境は不十分なままの地域が多く、その原因の一つとして「財源がない」が言われていました。国は従前から3クラスに1クラス分のタブレットPCなどの整備を地方公共団体に促しており地方交付税措置してきました。しかしこれは一般財源化されることから、教育以外の目途に活用されるのが実態でした。
 そこで国は目途を限定した補助金として財政措置することを決めました。それが、「GIGAスクール構想」です。令和元年度補正予算に組み込むことで、事務局や関係各所はかなりタイトなスケジュールで話を進めることになりますが、それだけ「待ったなし」だと言えます。文部科学省だけでなく総務省経済産業省もこれに関係するネットワーク整備、アプリケーション選定に係る財政措置を行うことを決めています。よく大学入試改革関係で「学制以来の大改革」という言葉を見かけますが、まさに「日本の教育の令和大改革」が始まったと言えるでしょう。
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 市町村や県の担当者は正月返上の様相かもしれません。学校は冬休みを迎えた地域が多いかと思いますが、情報教育担当の先生方の中には教育委員会から声がかかって今後の整備計画や研修計画の策定を進めている方もいらっしゃるかもしれません。具体的に整備計画を練ったり研修計画を立てたりするためには「教育の情報化に関する手引」は必ず参照するバイブルのようなものです。平成22年以来およそ10年ぶりに改訂された今回の手引きは、本来もう少し早い段階での公表を予定していましたが、昨今の動きも視野に検討・修正が重ねられたと聞いています。また来年にはGIGAスクール構想の実現に向けた各事業やロードマップ、説明をわかりやすくする図版などを追補したバージョンの公表も予定しているとのことです。
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 とはいえ、事務手続きはどんどん進んで整備内容が具体化されていくわけですから、首を長くして待っているというわけにもいきません。せめて冬休み中に目を通しておきたいところではありますが、手引きは巻末資料を除いても250ページ以上のボリュームで、すべて読みこなすのはなかなか大変です。ましてやICTやEdTechを活用した授業に、これから本腰を入れようという先生方には荷が重いことでしょう。しかし新学習指導要領の確実な具現化には、この「教育の情報化に関する手引」の内容を先生方みんなに知っていただく必要があります。

 今回は「教育の情報化に関する手引」の内容について、筆者がポイントと感じた部分や事柄を章ごとにピックアップしてみました。感じ方や受け止め方には違いがあると思いますが、参考の一つとして読んでいただければと思います。

第1章「社会的背景の変化と教育の情報化」

 第1章は、社会的背景の変化と、それに伴う教育の情報化について書かれています。

 前半には、現状認識や教育の情報化の進展(学習指導要領との関係から)、これまでの国の政策や提言、関係法規などがまとめられています。これだけでも今日までの経緯や取り組みを概観できる内容になっていて、これから教壇に立つ、もしくは初任者層のみなさんには読んでいただきたいなと思いました。「社会生活の中でICTを日常的に活用するのは当たり前。学習においてもそう」「ICTは鉛筆やノートと同じ文房具」としています。これは私たちの生活実感としてかなり腑に落ちます。ある方が「小学1年生がちゃんと字が書けるようになるのは、学校で先生が教え練習させているからだ。ICTだって同じだ」とおっしゃっていたことを思い出しました。小学校学習指導要領では「ICTの基本的な操作を習得するための学習及びプログラミング教育を各教科の特質に応じて計画的に実施する」こととされたことも書かれています。大事なのは「計画的に」です。6年生になったときにICTを使ってできることが、先生の興味関心によって違っていてはいけない、ということですね。

 後半では最初に学習指導要領の概念が整理されています。アクティブ・ラーニングやカリキュラム・マネジメントにも言及されているので、「新学習指導要領のポイントってなんだっけ?」と再確認するときには、ここに目を通すだけでも「そうだった!」となりそうです。
 続けて、学習指導要領における教育の情報化の位置付け、特別支援教育と教育の情報化(アシスティブ・テクノロジーを含む)が示されています。特別支援教育では「彼らの認知特性に合った支援機器等を活用することで、学びにくさを補い、本人の力を高めるためにICTを活用することの重要性を述べている」ことが取り上げられています。このことはまさに日常に起きていることで学校だけが特別視されるべきものではないと思います。小さい字が読みにくければメガネをかけて見やすくする、細い鉛筆で持ちにくければ正しく持てるようにするシリコン製品をつけると同じことです。どちらもどこの学校でも否定されるものではありません。ICTだって同じですね。
 最後には教育ICT活用の特性・強み・効果が示されています。今でも「ICTを使えば学力が上がるという明確なデータはない。だからICT教育投資は慎重であるべきだ」という話を見かけます。そもそも学力の捉えが違うのだと思いますし、これまでも国は実証検証の結果を示しています。おそらくそうした論調の方でもスマホを使い、PCで原稿を作り、やりとりをメール等で行って、講演などではプレゼンテーションソフトを使うのでしょう。これからの子どもたちには、その力を小学生段階で身につけさせてあげなければならない、とういうことを国民の共通理解にしたいです。

第2章「情報活用能力の育成」

 第2章は情報活用能力育成の経緯、いわゆる3観点8要素について、情報活用能力調査、資質・能力としての情報活用能力、カリキュラム・マネジメント、情報モラル教育について示されています。

 冒頭に情報活用能力について「世の中の様々な事象を情報とその結び付きとして捉え、情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して、問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力である」とあります。急速な情報化社会の進展の中、すでにこうした力は社会から求められています。小学校のうちから経験的に積み重ねていき、大人になった時にしっかり発揮できるように、子どもたちに身に付けてさせていくことが重要だと思います。「教育の情報化に関する手引」には平成25年の情報活用能力調査の概要と正答率が示されています。例えば「複数のウェブページから情報を見つけ出し、関連付ける」力を見る問題の正答率(通過率)は小学校で9.7%、中学校で43.7%でした。小学校がとても低いことは大問題ですが、中学校でも半数以上の子どもたちが正答できていないことに問題の根の深さを感じます。キーボードでの文字入力は高校生で24.7文字/分でした。文章を考えながら入力するとなるともっと少なくなるのかも知れません。

 情報活用能力は、平成30年度の情報教育推進校(IE-School)報告書で体系的に整理され、体系表が例示されています。「教育の情報化に関する手引」にも抜粋引用されています。各学校で情報活用能力の育成を計画する際にはこれを参照することが必須だと思います。報告書のエッセンスが各教科等での指導例とともにコンパクトにまとめられているので、学校現場にとってはとてもありがたいと思います。また、情報活用能力育成のためのカリキュラム・マネジメントモデルとその活用例も示されています。個別最適化やSTEAMの文脈でもカリキュラム・マネジメントは重要です。効率化して時数を確保し教科横断的な学習を創造することは、情報活用能力育成とセットで考えるととても収まりがよいと思います。
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 最後には情報モラル教育について、基本的な考え方からカリキュラム例、教師が持つべき知識内容、家庭地域との連携などについて示されています。情報モラル教育の重要性は従前から指摘され、道徳科でも指導するようになっていますが、学校によっては「何について、どのタイミングで、どんな教材で」指導するのか明確になっていないこともあるのではないかと思っています。単なるコミュニケーションだけでなく仕事を円滑に進めるためのツールとしてチャットやメッセンジャーの使用が現在では当たり前です。大人でも文字だけのやりとりが誤解を生むこともあります。子どもたちには具体的な体験を重ねて上手な使い手になってほしいと思います。先生方には子どもたちが体験する場と時間を保証してあげてほしいと思います。

第3章「プログラミング教育の推進」

 第3章はプログラミング教育の必要性や学習指導要領での位置付け、小学校段階におけるプログラミング教育の詳細について示されています。

 来年4月から小学校でのプログラミング教育が始まります。本当ならば、すでに先生方の研修や模擬授業、カリキュラム化が進んだり済んだりしている必要があったのですが、実際にはまだまだという地域や学校があるのだろうと思います。遅い方に合わせてしまいがちかもしれませんが、それでいいのかと思います。
 すでにさまざまなプログラミングのアプリケーションやロボット教材、指導例、指導案が世に出ています。先生方がそれらを体験しておくことは具体的な授業をイメージする上で重要ですが、その先には、それらのツールをうまく使って子どもたちに「何を、どのように学ばせるか」を計画することがなければならないと思います。この教科のこの単元ではプログラミングを取り入れられないか、取り入れられるとしたらどんなツールと使えば効果的か、取り入れにくいのであれば違うどの場面で取り入れれば良いかを考えることを今やっておくべきだと思うのですが、いかがでしょうか?

 プログラミング教育については平成30年に「プログラミング教育の手引(第二版)」が示され、未来の学びコンソーシアムが運営する「小学校を中心としたプログラミング教育ポータル」もあります。準備期間はあと3ヶ月。どこまで準備しておくべきかも含めて冬休みに再確認しておくとよいのかもしれません。

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第4章「教科等の指導におけるICTの活用」

 第4章は授業でのICT活用について詳しく示されています。平成23年度から25年度に行われた「学びのイノベーション事業」実証研究報告書にある学習場面に応じたICT活用の分類例や小・中・高校の各教科に対応した具体的な授業場面でのICT活用、特別支援教育におけるICT活用について、一つ一つ丁寧に、約100ページにわたって述べられています。
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 すべてに目を通すのはいささか大変なので、小学校の先生であればご自分が得意とする教科と外国語、道徳科、総合的な学習の時間、特別活動をご覧いただくとよいと思います。中学校・高校の先生方はご自分の教科と道徳科、総合的な学習の時間、特別活動をご覧いただくとよいと思いますが、ぜひご自分の教科の小学校部分もご覧いただくとよいと思います。
 すでに一部の先進地域では「小学校でICTを活用して学んできたのに、中学校や高校になったらほとんどICTに触れる機会がない」問題が起きています。教科等の学習の中で先生が効果的な指導を行うためにICTを活用することはもちろん、子どもたちが文房具としてICTを使いこなし学ぶことはどの学校種でも必要かつ重要です。むしろ活用の幅が広がるとか高度に使えるようになるとか、創造的に使うようになるとかが望ましいし、そうあるべきだと思います。
 1人一台の時代は目の前ですから、先生方のマインドチェンジを促すためにも情報教育に関心の高い先生方から他の先生方にこの章を読むことをおすすめいただくとよいと思います。
 加えて特別支援教育の部分もぜひご覧いただきたいと思います。いわゆるグレーゾーンの子どもたちは1教室に3人は潜在するとも言われています。合理的配慮やICTでの能力の拡張は子どもたちが学びやすくなるためには必須です。特別支援学校や支援学級の子どもたちだけの「特別な指導」ではないので先生方みんなの共通理解として、学校で読み合う機会を持つなどもよいと思います。

第5章「校務の情報化の推進」

 第5章は働き方改革の文脈も含めた業務改善・効率化について示されています。

 いわゆる教育の情報化調査でも「統合型校務支援システム」の導入について訊かれていますが、そもそも「統合型」とはどういうことなのか、はっきり知らないまま回答していることはないでしょうか。情報担当者や事務職員の皆さんは知っていても、他の先生方は知らないということが多くありそうです。
 「統合型校務支援システム」とは「教務系・保健系。学籍系、学校事務系などを統合した機能を有しているシステム」のことです。成績処理だけでなく保健に関するデータなどを統合的に扱うことができ、グループウェア機能なども持ち合わせた、学校業務全般に毎日使うシステムです。先生方の働き方を効率化して、結果として「教育の質向上」に繋げるのが目的です。
 システムの共同調達によるコスト削減や運用ルールの見直し、自治体ごとのカスタマイズの必要性、セキュリティにも言及されています。セキュリティといえばGIGA スクール構想のHPには「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドラインの改定について」の項目があり、パブリッククラウド対応に改定されています。学校の先生方が直接意識することは少ないかもしれませんが、教育委員会の情報教育担当の方々はよく目を通し、機にあったセキュリティポリシーの改訂を進めていただければと思います。
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第6章「教師に求められるICT活用指導力等の向上」

 第6章はまず、毎年年度末に行われる「ICT活用指導力チェックリスト」の結果を示しています。内容は平成30年に改定されていますが、平成19年度以降の推移が掲載されています。また平成31年度の結果も示されています。特別支援教育におけるICT活用指導力の重要性や専門性にも言及しています。続けて「校内研修リーダー」養成研修の内容、先進的な取り組みの事例、教員養成・採用について示されています。

 教育委員会の方々とお話していると「ICTを使わなくても効果を上げてきた先生方の中には、ICT活用の必要性を伝えてもなかなか具体的な授業に反映されない先生もいる」ことを危惧する声をうかがうことがあります。「教育の情報化に関する手引」にも校内研修リーダー養成研修のカリキュラムの一つとして「授業設計ワークショップ」を挙げています。どんな子どもたちが育っていくとよいのか、そのための授業の仕立てはどうすべきなのかが先にあって、それを実現するにはICTは相性が良いことを体感していただく必要があると思います。私の経験でも、授業力の高い先生ほどICTの良さを知るにつけ手離せなくなる傾向があると思います。研修をするならば、体験会や使い方研修ばかりではなく授業づくり研修がいちばん大事なのだと思います。

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校内研修リーダー養成のための研修手引き

第7章「学校におけるICT環境整備」

 第7章は先生方というより教育委員会向けな内容かもしれません。GIGAスクール構想によって劇的に環境整備が進むことを考えると、学校の現場としては整備はどうするかを気に病むより、使ってどんな学習を創造するかに力点を置くことになろうかと思います。過去のICT整備ではハードがあってもソフトが不十分だったりネットワークが貧弱で事実上十分に使えなかったりといったことがありました。今回行われる環境整備はその轍を踏まないことが重要です。
 先日、「経済産業省は2020年度、公立学校などがパソコン端末上でデジタル教材を試験的に導入する際、自治体や学校側の負担をゼロとするための補助制度を創設する方針を固めた」との報道がありました。今回の補正予算に計上し、ICTお試し教材を提供する中小事業者に対し、経費の2/3を補助するとのことです。納入実績のある大手が共同で提供する場合の補助率は1/2のようです。実際に授業で試用してみて、より良い、子どもたちの実態に合ったアプリケーションを選んで導入するための足掛かりとして、とても良い政策だと思います。
 先生が知らないことで子どもたちが不利益を被ることはあってはいけません。こうした情報すら届いていないとしたら、それも大問題です。先生方から教育委員会に情報提供してもよいでしょうし、教育委員会が先生方からヒアリングした上で制度を利用するのもよいでしょう。

 この章では遠隔教育の推進にも触れています。平成31年の「遠隔教育システム活用ガイドブック」の10類型を再掲しているので、ガイドブックをご覧になっていない先生方にもぜひ目を通していただきたいと思います。遠隔教育というと交流学習をイメージしがちかもしれません。交流学習にも子どもたちを育てる強い力があります。10類型には継続的な合同授業や免許外教科担任支援、個に応じた支援、不登校支援、院内学級支援の遠隔授業なども含まれています。必要となる環境も示されているので、遠隔授業を視野に入れた整備の推進も重要度を増していくと思います。

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遠隔教育システム活用ガイドブック

 その他にも先端技術利用としてAR、VR、AI、センシング、教育ビックデータ活用などにも触れられています。セキュリティについて6章に引き続き詳しく示されています。ICT活用時の子どもたちの健康に対する配慮について具体的な対応策も示されていますので、この部分は先生方ばかりでなく養護教諭にも目を通していただき、一緒に対応していくことが大切だと思います。

第8章「学校およびその設置者等における教育の情報化に関する推進体制」

 最終章である第8章には教育委員会や学校管理職の果たすべき役割が具体的に述べられています。一時期話題になってそのあとあまり聞くことがない「教育CIO」「学校CIO」の機能等が表で示されているので、校長先生や教頭先生、教育委員会の方々は必読です。ICT支援員の必要性と役割についても詳しく示されています。現状ではICT支援員が配置されている地域はまだまだ少数という印象があります。学校の諸問題を解決していくために教員以外の人材を積極的に呼び込んで、一緒に考えていこうという動きは以前からあり、例えばALTしかりスクールカウンセラーしかりです。スクールソーシャルワーカー、スクールロイヤーを配置している地域もあります。
 ICTは意図せぬトラブルが起きることも少なくないので、その時に頼りになる人材が身近にいれば先生方は安心して授業に集中できます。ICT支援員は教育活動にも知見が求められますので、そうした訓練や資格取得も必要になってきます。これまで学校で活躍する外部人材はボランティアというイメージが強かったように思います。これからもボランティアの力を借りる機会は少なくないと思いますが、専門職として学校を支えていく人材の確保はしっかりとやっていかなければならないと思います。
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おわりに

 今回改定された「教育の情報化に関する手引」は、もちろん情報化のバイブルです。しかし、よく読んでみると情報化のこと以外にもたくさんのヒントが詰まっていることに気づくと思います。アクティブ・ラーニング、カリキュラム・マネジメント、個別最適化、小学校英語、道徳科などなど、今まさに取り組まなければならい事柄と教育の情報化は密接だと改めて感じます。
 全文をくまなく読むのは大変だと思いますが、本稿を通じて「教育の情報化に関する手引」が先生方の手に届くといいなと思います。

(佐藤)