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「新しい未来の学びPerspectiveセミナー ICTを活用した学級経営」 レポート No.3(2019年11月7日)

 2019年11月7日に、Lenovo Japan本社にて「新しい未来の学びPerspectiveセミナー ICTを活用した学級経営」が開催されました。このセミナーは、教育委員会と学校の先生方限定のセミナーで、早稲田大学教育・総合科学学術院 教授の河村茂雄 先生と、小金井市立前原小学校 前校長/合同会社MAZDA Incredible Lab 代表の松田孝 先生による講演が行われました。

 今回は、小金井市立前原小学校 前校長/合同会社MAZDA Incredible Lab 代表の松田孝 先生による講演「WEBQUの結果を活かすICT活用ー新しい事例検討と朝ノートの取り組み」のレポートとして、松田先生の講演で興味深かったところをメモとしてまとめ、公開します。
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QUとの出会い、WEBQUの実践

 松田先生は、かつて狛江市教育委員会にいるときに、河村研究室との連携プロジェクトに携わり、それからQUを活用してきたそうで、このプロジェクトについては河村先生の著書『こうすれば学校教育の成果が上がる』に書かれているそうです。

  • QUは、承認得点と非侵害得点を二次元でプロット化することで、「個人の満足度」と「個と集団の関係」を見ることができるコンテンツ。
  • いじめ、不登校、特別支援などの解決のために、年間550万部活用されている。
  • それをWEB化したのはなぜか。より多くの学校に、先生方を助けるために、「活用してほしい」という河村先生の思いからだ。
  • WEBQUは結果が瞬時に出るのがすごい。年度末の3月に取ることもできる。紙のQUだったら3月に取ったら結果が戻ってこないので活用できないが、WEBQUは年度末の3月11日くらいにやって、すごく活きたことがあった。

 松田先生が校長を務めていた小金井市立前原小学校には、児童540人が1人1台の情報端末をもっている環境だったので、そこでWEBQUを活用していました。今回は、WEBQUを現場でどう活かすか、という視点での講演となりました。

学校現場でのWEBQUの活用

 松田先生は、「ICTを活用した学級づくりは、Society5.0の先端技術を活用したデータ連携の一つの形だ」と言います。前原小学校では、まなびポケットに搭載されている、WEBQUを活用していました。松田先生は、WEBQUを「子どもの心情に深く入っていく日本で唯一の生活支援のコンテンツだ」と評し、学校現場での活用について紹介しました。
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  • 結果が瞬時に返ってくることの良さ
    • これまで、QUは結果が返却されるまで2週間。さらに、結果の分析に手間がかかってた。数字がバーっと書いてあるのを自分たちで分析しなければいけなかった。結果を活用した具体的実践に繋がっていったのか?そこは疑問だった。
  • 紙でも大変だったこと
    • 実施にあたって、紙の方が回答が簡単だ、というわけでもない。子どもがする回答には、どちらに印がついているかわからないようなものもあって、そのチェックも先生がやっていた。
    • WEBQUでは、未回答は最後にもう一度出てくるようになっているので、未回収が減る=これだけでも楽になる。
    • 欠席者がいても、暫定的に結果を見られるようになった。QUではこれはできなかったので、長期に休んでいる児童がいたら結果が出なかった。欠席者も一旦保留して見られるのは、すごく大きい。
  • 先生は実際に問題を見てみるべき
    • 子どもがWEBQUで答える質問の中身を担任に読ませてからやるべき。「クラスの人にいやなことを言われることがありますか?」「行きたくないことがありますか?」「仲間に入れてもらえないことがありますか?」などの項目を訊いている。子どもたちはこうした質問を答えている。
    • こうした質問への回答には、リアルタイムで対応しなければいけない。子どもに「アンケートに答えたのに、何もしてくれない」と思わせることもない。そうしたら、子どもたちの中に、信頼や安心が芽生えてくる。
    • こういった観点からも、瞬時に結果が出ることは重要。答えさせて何もしないのはありえない。先生たちはこれを答えさせている。これが一発で結果が出てきたら違う。
  • 次の一手を提案してくれる
    • QUでは、数字の羅列の分析をしなくてはならず、時間がかかっていた。専門的な分析をするために講師を招いたり、というのも時間のロスだった。
    • WEBQUでは、次の一手を出せるようになる。クラスの強み、弱みが出て、アドバイスが出るので、実践につながる結果が出てくる。
  • 学級の状態をコメントしてくれる
    • QUはルールとリレーションで学級の状態を把握見ていましたけども、安定度と活性度を入れて、生徒指導からみた学級集団だけでなく、より活性化する学習指導としての学級集団としての側面を含めて、学級の状態をコメントしてきます。

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 「教員一人ひとりが、WEBQUの結果に主体的に向き合う必要がある」と松田先生は言い、実際に学校でWEBQUの結果をどのように活用してきたかについて説明しました。
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  • WEBQUでは、安定度と活性度をとって、学級の状態が示される。コメント欄を見ると、どういうふうに関わればいいかのコメントが書かれている。コメントを見ながら、「次にどういう方向で声掛けするか」など方針を決められる。クラスの大前提をここで確認することができる。
  • 学校全体で結果をシェアすることで、専科の先生も、それぞれの学級の状況を知って授業をすることができる。
  • WEBQUをやると、担任の学級指導の成績表のように見える。だが、担任の先生の指導力の評価ではない。一人でクラスを見ているわけではない。専科もあるし、学年でも見る。そこにも責任の所在はある。「担任が厳しく押さえつけるから、専科の時間がうるさくてしかなたない」と避難しあってもしかたない」ということも学校ではある。WEBQUを見て、共通理解を持てば、対応をとれる。お互いが学級の状況について、アドバイスをし合えばいい。それが組織対応につながる。
  • 個別に分析的に見ると、プロットが出てくる。要支援群に入った児童は、すぐに面談をセットしていた。

前原小学校の「朝ノート」の実践事例

 QUで評価される、「リレーション」を作ることを重視した松田先生は、前原小学校でまなびポケットに入っている、schoolTakt(スクールタクト)を使って豊かな関わりを作れるのではないか、と関係構築を目指した実践をしていました。

  • 「朝ノート」には、その日の体調や気分、一言、昨日のMVPなどを書く。
  • 朝、登校したら、schoolTaktを開いて、朝ノートを書く。
  • 自分の分がかけたら、クラスメイトの朝ノートを読みに行く。schoolTaktでは、「いいね!」を押したり、コメントを書いたりできる。それによって関係性が作られていく。
  • 「普段話さない人とやりとりできた」という感想もあり。また、「自分の中がいい子にMVPをあげていたけど、もっとクラス全体を考えたいと思う」とクラス全体を考えられるようになった6年生のふりかえりもあった。
  • 誰が、誰にコメントしているかを子どもたちは見ている。人間関係を把握している。書いている子も、みんなに見られることを前提に書いている。
  • schoolTaktで一人ひとりがPCに向かっていて、教室は静か。それを「冷たい」と感じる人もいるが、オンラインでは、いいねやコメントでのやりとりが行われている。どちらの方が豊かな関係性になっていますか?
  • エンカウンターを構成するのは大変。朝ノートをすれば非構成型のエンカウンターができる。リレーションから学級づくりができる。
  • 子どもたちは飽きなかった。子どもの承認欲求は高い。自分のことをわかってほしいと思っている。
  • スキルができるようになってくると、勝手に画像を貼り付けたり、炎上してしまいそうなコメントを書いたり、そういったことも教室内で起こる。そのときに、著作権や情報モラルについて指導できる。閉じられた環境で指導ができることは学校教育の良さ。

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まとめ

 「ICT活用は学校・学級経営のインフラ。使いたいときに使うんではなくて、使うのが当たり前」と松田先生は言います。WEBQUを通じて学級集団の様子を把握しながら、リレーションを作るための「朝ノート」の実践も、インフラとしてのICT活用(一人1台環境)があってこそのものでした。
 また、松田先生は「アクティブラーニングを実質化するにはプログラミング教育がいい」と言います。

  • プログラミング授業が、最高の学級集団づくりの体験だと思う。試行錯誤もできる、個性を磨く協働ができるようになる。
  • プログラミングには正解がなく、正解がないから「これくらいのこともわからないの?」と言われる恐れもなく、質問するのが恥ずかしくない。
  • 正解がないから、「自分は、こうしたい」が基準になる。「こういう考え方があって…」と外から決められたものもない。

 ICT活用がインフラとなり、WEBQUやプログラミングなど、まなびポケットのコンテンツを使っていくことは、学級集団をより良いものにしていくための先生方の強力な武器になるように思いました。
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(為田)