教育ICTリサーチ ブログ

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トッパン教育情報化セミナー@大阪 第1部「ICT利活用による新たな学校教育の可能性について」(佐賀県教育委員会・福田孝義 副教育長)

 凸版印刷が、トッパン教育情報化セミナーを2015年2月11日に大阪・中之島フェスティバルタワー24Fにて開催しました。第1部の佐賀県教育委員会・福田孝義 副教育長による特別講演「ICT利活用による新たな学校教育の可能性について」についてレポートします。
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 佐賀県は年越しの日程で県知事選がありました。県知事が変わっても、教育の情報化の流れは変わらないのか、おそらく福田副教育長はいろいろな場所で質問をされているのでしょう、まずその質問への答えから講演が始まりました。答えは、「教育の情報化は、教育委員会が物申して進めている教育の情報化なので、変更はありません。」とのこと。4月に佐賀県立高校の1年生全員が、タブレットPC佐賀県では学習用PCと呼びます)を持つという施策をスタートさせました。

 2014年9月に、NHKクローズアップ現代で、佐賀県の事例と韓国の事例について紹介をされたが、インタビューの一部だけを切り取って放送をされたので、その誤解も解きたい、とおっしゃっていました*1

NHK クローズアップ現代

授業を公開する理由

 佐賀県では、年に何回か全県立高校の授業を公開しています。僕も、2014年7月に参加してきました。


佐賀県 「先進的ICT利活用教育推進事業」成果発表会 - 教育ICTリサーチ ブログ


佐賀県立神埼高校 フリー参観デーに参加しました - 教育ICTリサーチ ブログ
 生徒たちが使っているタブレットの操作体験会をやっている。こうした取り組みをしているのは、視察に来る県外の方々に対してだけでなく、保護者の方にも知ってもらいたいという思いからだということです。学習用PCをどのように使っているのかを公開することによって、先生方同士で授業を研鑽していくようになった、と学校見学の際に先生からお伺いしました。

教育・学習クラウドを点から面へ展開

 佐賀県が目指しているのは、21世紀型教育への移行。教育の情報化ビジョン(2011年4月)によるもの。高度情報化、グローバル化社会への対応です。教育クラウドをベースにして、学校のどこでも、家庭でも、どこでもつながるようにしています。SEI−Netというシステムを凸版印刷が提供をしています。SEI-Netを通じて、佐賀県では遠隔授業を実施もしています。遠隔授業は、特別支援学校、不登校の生徒に対して非常に意味があると福田副教育長はおっしゃっていました。また、肢体不自由な生徒たちだけでなく、知的障害の生徒にも、非常に役立っているそうです。「これは実際にやってみなければわからなかったことです」と言います。実際に挑戦しているからこそ、得られる知見だと思います。
 こうした教育・学習クラウドプラットフォームは、国として実現しようとしているということ。今までのフューチャースクールは、点でしたが、これからは点をつないで面にしていくということだと思います。福田副教育長は、「私のミッションは、佐賀県が作ったSEI−Netと、教育・学習クラウドを一体化できないか、ということです」と言います。

先生方へ広げる施策

 2008年くらいでは、まだまだ佐賀県は遅れていたそうです。ボード型電子黒板を導入し、Googleマップなどをズームで表示するくらいの授業だったが、それでも児童たちがぐっと集中している様子が見られた。そこに可能性を感じた。だから、導入を進めた、ということです。
 2010年、佐賀県には8000人の教員がいたが、ICTを使って「未来の教育はこうあるべきだ」ということを伝えられる指導主事がいなかった。だから、佐賀県では指導主事を育てる施策をとった。
 福田副教育長は、「授業は教員です。どんなにいい機器を入れても、授業は教員によって変わる。だから、校長に信頼できる先生をリーダーとして選び、そのリーダーに任せなさい、と伝えている。リーダーの中から、スーパーティーチャーを認証している。スーパーティーチャーは全県で20人くらい。給与にも反映をしている。」と言います。
https://www.pref.saga.lg.jp/web/kisha/_78341/_79112.html

高校生がICTを使って学ぶ日常を作る

 県立高校の生徒たちにコンピュータを買ってもらったのは、未来永劫続くシステムにしたかったからだそうです。備品として買ったら、生徒たちに持ち帰ってもらえなうことはできなくなってしまう。家に持って帰ってもらう、というふうにしたかった。そうした議論を知事も副知事も入れて議論を繰り返し、家庭に買ってもらうようにしているそうです。県立高校の募集要項には、「学習用PC」を持つこと、と書かれているそうです。仕様が書いてあるので、それに見合うものならばいいことになっていますが、「一括購入すれば安い」というのも伝えている。

 佐賀県では現在、校務管理システム、学習管理システム、教材管理システムを統合して使っている。SEI-Netを作るときには、市町で使ってもらえるように設計した。佐賀県教育委員会と市町の教育委員会は同等で指揮体制にあるわけではないので、使うかどうかは、市町で判断してもらうことになります。ただ、使わない場合でも、公共のネットを通じて教材を使うことはできるように設計をしているそうです。
 また、機器としては、佐賀県内の小学校中学校すべてに、これから電子黒板が入る。先生方からの「ほしい」という希望があったからだそうです。
 佐賀県県立高校での学習用PCの導入は、今年度の大きなニュースでしたが、その導入の裏側について詳しい話を聴くことができました。まだ、「どう授業に使うか」の部分は、試行錯誤の状態も続いていると思うのですが、「授業は教員です」と言い切っている福田副教育長が、どう根付かせていくのかに注目していきたいと思っています。

(研究員・為田)

*1:韓国の教育事情に明るい方にメールで質問をしたときも、同じようにおっしゃっていました