教育ICTリサーチ ブログ

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日本経済新聞「ICTが変える学び」(赤堀侃司・白鷗大学教授) (2015年3月9日)

 2015年3月9日付の日本経済新聞の教育欄に、赤堀侃司先生(白鷗大学教授)による「ICTが変える学び」という記事が掲載されていました。簡単に要旨を箇条書きにメモしてみます。
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 最初は、ICT CONNECT 21についてでした。

  • ICT CONNECT 21(みらいのまなび共創会議)の設立
    • 赤堀先生が初代会長に就任。
    • 教育情報化関連団体、電気通信企業、教育総合企業が会員になって運営する。
    • 「教育ICTオールジャパン協議会」と考えるとわかりやすい。

 これは、すでにエントリーを書いていますので、そちらもご参照ください↓

ICT CONNECT 21(みらいのまなび共創会議)の設立発表会(2015年2月2日) - 教育ICTリサーチ ブログ


 続けて、教育ICTが目指す姿や背景についてです。

  • これまでの教育は、熱心な教師が、洗練されたカリキュラムのもと、優れた授業技術で教えることで質が向上すると考えられてきた。
    • 教師たちは、職人技とも呼びたいような優れた指導技術、実践知をひたすら磨いてきた。
    • 子供一人ひとりに気を配り、子供に応じて声掛けの仕方を変え、宿題では一人ひとりに赤ペンでコメントを書く…そうしたきめ細やかな指導法が、日本の教育を支えてきた。

 きめ細やかな指導法が日本の教育を支えてきた、というところはまったくそのとおりだと思うのですけど、この後に「デジタル技術やクラウド環境が“このスキーム”を変え始めた」と文章が続くので、そうすると、いいところも変わっちゃうのかな?と読めてしまいました。
 デジタル技術やクラウド環境を「どう使うか」という点では、優れた授業技術や実践知を持った先生方こそが上手に使いこなすのだろうと思われます。むしろ、この「どう使うか」をもっともっと突き詰めていかなければいけないのではないかな、と読んでいて思いました。

  • 近年のデジタル技術やクラウド環境が、このスキームを変え始めた。
    • 子供たちの前には、いつでもアクセスできるデジタル環境がある。
    • 大人が知らないうちに知識を得たり、交流したりして別の世界が広がってきた。
  • これは見方を変えれば、子供たちが「自主的に知識を得た」ともいえる。
  • ならば、正しくアクセスをして正しい知識を得られるように変わればいい。子供が自分で知識を得て自分で理解でき、問題を解決できるように変わればいい。
  • 上手に知識を教える立場から、学びを支援する立場への転換である。

 学校の現場を見ていると、「上手に知識を教える」というのと「学びを支援する」というのと、当然両方あるわけで、「転換」と言っちゃうと、「全部変わらなきゃいけないの?」「いやいや、知識も大事だ」みたいな反論も来てしまうのかな、と思います。
 両方をバランスよくやっている実践が、もっともっと出てきたらいいと思っています。もちろん、我々が関わっている学校様からそうした事例をたくさん出せることを目指します!

  • デジタル環境は、善でもなければ悪でもなく、光でも影でもない。それ自身に価値はなく、問題は使い方である。ここに、世間では誤解があるようだ。
  • だから、子供には教師の支援が必要。ここには2つの考え方がある。
    • 子供がアクセスしたいなら、子供の知的好奇心をさらに高めて、優れた教材を用意しよう、デジタル環境が持つ良さを積極的に伸ばそう(欧米の考え)
    • 影や悪が生まれないように予防しよう(日本の考え)
  • ICT CONNECT 21の設立趣旨としては、「もしデジタル環境に短所があるなら、家庭や学校でルールを決めてきちんと対応すればよい。それよりも、このデジタル環境をもっと活用しようと考えるほうが、健全ではないのか。社会や技術は絶えず動いている。新しい技術を使って子供が主体的に学ぶデジタル環境を、もっと教育に役立つように構築しようと考えるのは、さらに建設的である。それには民が一致協力することが一番だ。」

 ここはまったくそのとおりだと思います。いずれ使うことになるすきるならば、最初から使えばいいと思います。
 先生方にも、「ああ、こういうこともできるんだね」「こういう教え方もできるかもね」と、気軽にコメントをいただきながら、やっていけばいいと思います。

  • これからの日本は厳しい状況に置かれることになる。
  • 山積する難問に、直面するのは、今の小中学生やこれから生まれてくる子供たちである。
  • 大人は、子供たちに、自分たちで取り組んで解決してほしい、解決する能力を身に付けてほしい、と願っている。
  • 今の大人にできることは、主体的に学び問題を解決する能力を教育の中で身に付けるように支援すること。
  • 子供たちは、受け身で知識を覚えるだけでなく、自らがデジタル環境にアクセスし、協同で解決策を見いだし、知識を創出していかなければならない。

 ICTを使って、「もっともっと!」と知識を広げて、深めて、という学びのスタイルが出てくればいいと思います。でも、最初に「もっと!」と思わせるのは、おそらく教室にいる先生の指導技術でやるのがいちばん速いと思います。
 教室でやる気に火をつけて、「もっと!」という部分をICTで補完する、というのがひとつ、やりやすい形ではないかな、と。
 だから、僕個人としては、今回の記事の見出しの「ICTが変える学び」みたいにはあまり思えてなくて、「ICT(を使って先生)が変える学び」みたいなところに落とし込みたいな、と思っています。

  • 国立教育研究所は、グローバル社会を生き抜くために、「思考力」を中核に「基礎力」と「実践力」の三層構造で構成される「21世紀型能力」を求めている。
  • 子供たちがデジタル環境にアクセスして主体的に学ぶスタイルは、まさにこの21世紀型能力に近い概念であり、世界各国ともその教育モデルを探求し始めている。
  • いまこそICTを活用して、教育を知識の伝達スタイルから子供の主体的な学びのスタイルへ変換する時である。

 世界各国の教育モデル探求については、eduview「世界の教育の潮流「新しい能力」とは〜松下佳代氏に聞く」が参考になるかと思います。
世界の教育の潮流「新しい能力」とは〜松下佳代氏に聞く | eduview

 本当に、全世界的に、教育関係者がこの「新しい能力」を考えているように思います。どれがいい悪いではないですが、それぞれをウォッチしておきたいと思っています。(研究員・為田)