11月19日に、千葉県立袖ヶ浦高校 情報コミュニケーション科 課題研究発表会がありました。3期生によるポスターセッションを聴いた後で、参加者は情報実習室に戻って、放送大学の中川一史教授による講評を聴きました。以下に、講評のポイントをメモとしてまとめます。
課題研究発表会について
中川先生は、最初に「課題研究発表会の特徴」について整理をしました。挙げられたポイントは5つです。
- 「日常生活の延長であること」→袖ヶ浦高校はBYOD。自分の端末を持っているので、日常の延長である。
- 「ポスターセッションであること」→プレゼンテーションでなく、ポスターセッションがよかった。距離感がいい。リアクションがすぐに返ってくるし、聞いているのかがわかる。
- 「紙の掲示物がしっかりできていること」→紙のポスターの方がすばらしいと思った。あれがあってこそのテクノロジーだと思う。
- 「自分の言葉で説明していること」→とってつけたような言葉でない伝え方だった。借り物の言葉だと、すぐに詰まってしまう。これをつぶすのが、小学校、中学校でも同じ問題だ。いちど飲み込んで、自分の言葉にしているのがすばらしい。
- 「質問対応力が鍛えられていること」→厳しい質問をしても、全部軽やかに返ってきた。中身を全部自分たちのものにしているな、と感じた。これがすばらしい。
また、課題研究成果発表の会場に、1年生が見に来ていたこともよかった、とおっしゃっていました。たしかに、こうした「先輩たちの背中を見て育つ」というのは、学校の文化を育てていくうえで非常に大切なことだと思いました。
タブレット端末活用について
タブレットの導入には、以下のようなパターンがある、と中川先生は紹介します。
- タブレット端末導入パターン
- 教師用
- グループ分導入
- 1クラス分導入(PCルームをリプレース)
- 複数クラス分導入
- 全校児童生徒一人1台
- 全校児童生徒一人1台(保護者負担)
一人1台を用意するのは、まだまだ大変なのが実情で、お付き合いのある学校で先生に訊いてみると、「1クラス分を導入する=共用で使う」という実証校が多いような気がします。袖ヶ浦高校のようなBYOD=個人所有は国内でもまだ数限られたケースしかないそうです。
今後の展開として、保護者負担となる全校児童生徒一人1台の形式だと、アメリカのヴァージニア州のFairfax学校区では、BYODで各自がバラバラのデバイスを持ってきているそうです。中川先生は、これから、こういう導入が進むときに、どうするのかを日本でも考えておくべきとおっしゃっていました。
アクティブラーニングについて
続いて、アクティブラーニングについての紹介がありました。
- 学びのイノベーション事業において、協働学習のところにアクティブラーニングがある。C1、C2、C3がアクティブラーニング?
- グループで話し合いがされていれば、アクティブラーニングなのか?
- 「主体的・協働的に学ぶ」というのはいったい何か?
- 次期学習指導要領の改訂が目指す学びの視点(第100回)で、3つのコメントがある。
- 深い学びの過程の実現
- 対話的な学びの過程の実現
- 主体的な学びの過程の実現
- 3つの実現 (1)自己の学びの深化 (2)対話的学び (3)主体的学びの過程
- どこにウェイトを置くか、どのようにバランスよく進めるか。
- アクティブラーニングを深い学びに落としていくときのキーワードは、「からみ」と「ゆらぎ」
- 話が「からむ」ということ。意見を重ねていきながら、建設的に話し合い。
- 「この人にどうやったらわかってもらえるだろう?」と立ち止まるのが、「ゆらぎ」
- この2つが、主体的、協働的な学びには欠かせない。チョーク&トークでもこうした学びはある。ICTがしているのではない、教師がしているもの。
- 教師の「出」:想起、拾い上げ、ほめ、通訳、ゆさぶり、確認、整理など
アクティブラーニングを深い学びに落としていくときのキーワードとして「からみ」と「ゆらぎ」があるというのは非常に勉強になりました。この「からみ」と「ゆらぎ」は、もちろんICTを使わない、チョーク&トークの授業でもできるわけですが、ICTを使うことで、話をより「からませる」ことができるかもしれません。また、「ゆらぎ」を見つけるために全員の学習の様子が見られるようになる、というのもICTによって実現できるかもしれません。こうした「からみ」と「ゆらぎ」を軸に、ICTがどんな役割を果たせるのかを考えていかなくてはならないな、と感じました。
そのうえで、「何を求める学習活動か」をやはり考えなければならないのだ、という話に進んでいきます。
- 「何を求める学習活動か」
- 正解がある/正解がない
- 最適解の追究/多様性の理解
- 小学校ではよくある。いろんな考え方がある、と多様性の理解を目指す。
- 「は・か・せ」=はやく、かんたんに、せいかくに、できるのはどれ?と船橋市の小学校の先生。これだと、最適解の追究となる。
- 「正解がある/正解がない」「最適解の追究/多様性の理解」の軸がごっちゃになってしまってはダメだ。
- 何度もスパイラルに学んでいく。
- 学びを拡張するICT
ICT活用熟成のフェーズでは、慣れるインターバルが必要だ、というふうに中川先生はおっしゃっています。最後の質疑応答でも出たのですが、とにかく「使ってもらう」。そして、使ったことについて「褒める」。「とにかく使ってみる」段階に進ませるのが、教育委員会の研修や学校での導入研修のところではやはり重要だな、と感じました。
質問として、「ICTを使ってよかった、というエビデンスはとれないでしょうか?」と伺ったら、「それがわかれば、本を3~4冊書いています。非常に難しい」とジョークを言いつつ、「エビデンスがほしいのは議員さんで、学校の先生方はそうではない」「拡張させること、使ってもらうこと」から始めるべき、というお答えをいただきました。また、学校でICT利活用が進んでいくケースとして、「指導力のある先生が使い始めることで、広がるケースがあります」ということを教えていただきました。
さまざまな学校を見ているからこその講評で、ICT、アクティブラーニング、授業設計、導入研修など、さまざまな自分の関心領域とつながる話をお聴きすることができました。
#4へ続きます。
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(為田)