12月18日に、玉川学園高等部を訪問させていただき、登本洋子先生が担当されている、高校3年生のオフィスの授業を見学させていただきました。
グループワークにする意図
この授業では、最終課題の最終プレゼンテーションが行なわれました。これまで、1回めと2回めの授業で、担当した業界について調べ、業界3位の企業が業界1位になるためにどうすればいいかの戦略を立ててきました。その成果を最後にプレゼンテーションします。
グループワークの形式で行なって意図は、登本先生が登壇されたワークショップ「Officeソフトを活用した問題解決型実習の体験」の中でも語られていた、以下のポイントがわかりやすいと思います。
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- ゲームっぽくて楽しんでできる。
- 3位だと、上を目指したいと思える。
- グループの中で、分担ができることでサボれない。
- 仮にサボるのがいても、それは社会と同じ。
- Excelデータを、リアルなものを使うことで、動機づけさせるのは大賛成。
- 加工したい、PDFでしか発表されていない、とか、いろいろと見えることが変わってきそう。
実際、それぞれのグループのプレゼンテーションは、1人が多く話すグループあり、分担して話すグループあり、と多様でした。こうしたグループの中での仕事の分担や責任感の負い方などもすべて含めて、将来への経験になると思いました。
発表を聴いて
今回、聴いた発表は、「鉄道」「テレビ」「映画」「コンビニ」でした。いずれも企業といっても多角化が進んでいて、ホールディングスの統計資料になるので、なかなかリサーチが難しそうだな、と感じました。そうなると、サイトに載っているグループ全体の売上をそのまま発表するのではダメで、その内訳がどうなっているのか、ということに疑問をもって、さらに調べていく、ということが必要になります。
あとは、「数字を作る」というところももう少し入るといいかな、と思いました。例えば、「店舗数を増やす」という施策を出すならば、「1店舗増えたら、どれくらい売上が上がるのか」「1店舗出すのに、いくらくらいかかるのか」という数字が紐づいて、「あれ?」と疑問に思える、というのが大事だと思うのです。「イベントやって、お客さんを増やします」にしても同じで、「何人、お客さんを呼べばいいのか?」「それって、今より何倍くらいお客が来ればいいということか?」みたいに紐づいて疑問が出てくる、みたいなふうになります。
“質問する力”の大切さ
プレゼンテーションが終わった後に、「業界3位の企業が、業界1位になるには?」という観点で質問を受け付けます。プレゼンテーションを聴いてすぐに質問をする、という力も養うねらいがあるのかな、と感じました。
大学の講義や、一般の講演会であっても、「何か質問ありますか?」という司会の言葉のあと、会場がシーンとなることは多いですから、“すぐに”、“適切な質問ができる”というのも非常に重要なスキルだと思います。
この質問のところで、数字に関連した質問がもっと出ればよかったかな、と思いました。ただ、玉川学園のこの最終課題は全体で10時間くらい。数字まですべて追いかけて行くと時間的に厳しくなって、グループ内で分担して幅広く情報を集めて、それを比較する、という大きな目標がむしろ数字の分析の方で取られてしまう、という状況を避けるためだったのかな、とも思います。
どこまで先生がヘルプするか問題
こうしたプロジェクト型の学習をするときには、先生が「どこまで手を貸すか」というのがポイントになってくると思います。上に書いたような、数字を紐づけて考えましょう、というのもワークシートなどを使ったり、業界をある程度絞ってこちらから選ばせたり、というふうにすれば、もっと的確にできるようになります。でも、そうしたら自分で考え学ぶ、という自主性のところはどうしても減ってしまいます。ここのトレードオフをどうするか、というのがポイントだと思います。
ただ、こうした贅沢な悩みができるのは、Officeの操作方法についてマスターをしているからこそです。
ところで、昨年、このオフィスの授業を履修した生徒は、4万7千人がエントリーしたというMOS試験で、のべ11名が全国20位に入賞をはたしたそうです。
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また、そのうちの1名は、日本代表に選ばれ、アメリカで行なわれた世界大会に出場し、4位の成績を収めているそうです。
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商業科ではなく普通科での取り組みで、これだけの実績を出し、さらにスキルの習得だけでなく、グループワークでプロジェクトをするなかで、スキルを使っていくことに意義があると思います。今年度のほとんどの生徒たちも資格を取得しているそうで、「また活躍してくれるのではないかと期待しています」と、登本先生はおっしゃっていました。
まとめ
玉川学園では、前回紹介したように、中学部の方でアカデミックライティングをしっかり学んでいます。中学部の時期に、しっかり枠を与えているのです。例えば、数字で事例を見ましょう、ということはやっていると思いますし、全体だけでなくて事象を分解して考えましょう(≒内訳を考えましょう)というのもやっていると思います。
こうした枠組みを中学部で与えておいて、高等部ではそれを自由に組み合わせて使わせて、大学進学以降の学びへの準備とする、という意図なのだろうと思います。
生徒たちは、みな楽しそうにこの最終課題に取り組んでいました。グループ内で、モチベーションやスキルに濃淡はあるものの、そうしたことを乗り越えて、最後の発表まで行き着いています。そして、プレゼンテーションまでしっかりやり遂げているというのがいいと思います。
大学に進学して、この課題研究のようなプロジェクトをしたことがない学生、アカデミックライティングのための枠組みを持たない学生と一緒にグループワークをしたときに、初めて違いに気づくのだと思います。そのときには、玉川学園出身の子たちが、「こうやっていけばいいんじゃないか」とグループの中でリーダーになっていくのではないかな、と思いました。
来年度もぜひ、授業を見学させていただいて、今度はこの学びの土台になっている、アカデミックライティングの授業を見せてもらえるようにお願いしようと思っています。(たまたま、12月12日に桐蔭学園で行なわれた、アクティブラーニング公開研究会で、登本先生がこのアカデミックライティングの授業について説明をされていましたので、そちらもまたレポートしたいと思っています)
(為田)