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横浜国立大学教育学部附属鎌倉小学校 授業レポート(2017年9月28日)

 2017年9月28日に、横浜国立大学教育学部附属鎌倉小学校の竹田先生の図画工作の授業を見学させていただきました。見学させていただいたのは、6年生の授業で、「立体作品と一緒に遠近法で撮影」というテーマで、デジタルカメラを使って前時までに製作した立体作品と自分自身を一緒に撮影するという授業でした。

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撮影の様子

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写真を確認している様子

 5台のデジタルカメラを使って、グループに分かれて協力して撮影をしました。自分が作った立体作品と自分が一緒に写るので、撮影するのは自分ではない他の誰かということになります。


作品が自分のものだと思える経験と、作品の記録として

 立体作品は、宿泊研修で言った八ヶ岳の思い出をテーマとして作ったもので、その立体作品を使った新たな作品作り(写真)と記録も兼ねていました。デジカメで遠近法を使った撮影はよくありますが、今回、児童が作った立体作品と一緒に撮影するという制限を設けた理由を、竹田先生に伺ったところ、「子どもの作品を全て取っておきたいけれども、ライフスタイルや住宅事情の関係で、大型の立体作品や素材の異なる組み合わせの作品の保管は難しい場合もあり、立体作品を家に持って帰ることを好まない保護者の方もいたようです。作品が自分のものだと思える経験と作品自体の記録の意味もあります。」とのことでした。

 平面作品であれば、飾っておいたり、重ねて保管することもしやすいけども、立体作品となると、場所をとってしまうので保管のしづらさから、あまり好まない保護者の方もいらっしゃるようです。せっかく作った作品もそういった扱いをされてしまうと、児童たちからしたら作らなければ良かったと思ってしまいますし、そもそも立体作品を作るモチベーションも減ってしまうだろうなと思いました。今回のように記録として残すことで、そういった気持ちが多少緩和されるかもしれないなと思いました。

 また、記録のための撮影だけだと、「作ってもとっておけない…」と思って作った立体作品をきれいに撮影しようと思いづらかったりしますが、新たな作品作りとしていることで、立体作品を写真の中でどう使おうか、どこに配置しようかと考えるようになるので、撮影に対しての児童のモチベーションも向上されているのではないかなと感じました。


友だちに撮ってもらうことで、別の発想に出会えるように

 作品の記録となると、自分自身で撮影するのが通常ですが、竹田先生の授業では、自分は作品と一緒に撮られる側になり、別の児童に撮ってもらう形にしていました。自分ではない誰かが撮ることで、立体作品を作った意図とは異なる写真作品ができやすくなるようにして、自分とは異なる発想に出会えるようにしているとのことでした。


目的のための試行錯誤と、他人にわかりやすく伝えること

 今回、児童たちがグループで撮影している様子を見ていて感じたのは、「遠近法」という撮影方法を使っていることで、以下のような試行錯誤が自然と発生していました。

  • 作品と人をどう構成したら面白いかを想像し、グループ内で共有していた
  • こういう写真を撮りたいという目的のために、
    • どこで撮影したらいいかを考えていた
    • どのように撮影したらいいかを考えていた
    • 作品はどう置いたらいいかを考えていた
    • 作品と人はどのくらい距離をとったらいいかを考えていた
    • 人・作品にピントを合わせるには、どうしたらいいかを考えていた
  • 撮った写真を確認して、
    • さっき撮影した方法をどう改善したらいいかを考えていた
    • もっとこうしようという新たな発想が生まれていた
  • 被写体である人に、どう伝えたらわかりやすくなるかを考えていた

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作品の置き方を試行錯誤している様子

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撮影する場所、作品と人の距離、ポーズを試行錯誤している様子

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撮影する場所、作品と人の距離、ポーズを試行錯誤している様子

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モニターで確認している様子

 今はやりの、プログラミング的思考が作品作りを通して自然と行われているなと感じました。遠近法による撮影や、他人と協力すること、使いこなせてはいないデジタルカメラを使うことで、頭で想像しているようには、なかなかうまく撮影できないということが、児童たちが自然と試行錯誤したくなる要素となっているように感じました。

 授業最後の鑑賞会で、撮影のコンセプトや感想を説明してもらう際に、どういう経緯でこの写真に行きついたのかを、その前に撮った写真を使いながら説明しているグループがいて、試行錯誤や思考のプロセスが写真を通して見える化されているのがいいなと思いました。最終的な作品や出来栄えに意識がいってしまいがちですが、そこに至るまでにどういうプロセスがあったのか、どう工夫したのか、どう思考したのかが、とても重要だと思います。気軽に試行錯誤でき、それが記録として残り、共有できるのは、デジタルカメラタブレットの写真の強みだと思いました。


(前田)