教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

埼玉県立川越南高等学校 授業レポート(2017年10月31日)

 2017年10月31日に、埼玉県立川越南高等学校にて開催された国立教育政策研究所による教育課程研究指定事業の公開研究授業を見学させていただきました。今回公開授業で見学させていただいたのは、春日井先生による3年生の情報科の授業で、情報と科学の分野で「AIや機械学習の仕組みを知り、変化する情報社会での人間の役割を考える」というテーマで全17回実施する中の10回目の内容で、前時までに学んだユースケース図を使って「どんな学習データをコンピュータに与えれば、どんな人に有用になるか」をアイデア出しする授業でした。
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ユースケース図とは、統一モデリング言語で定義されている図の1つであり、利用者の要求に対してどういう機能・システムを用意するかを表した図です。
ユースケース図について、参考サイト
www.itsenka.com

 最近では、Google HomeやClova WAVEなどのAIスピーカーが販売され、高校生にとってもAI(人工知能)の技術や影響度が身近でイメージしやすいものになってきたように感じます。今話題の情報技術がどういう仕組みになっているのかを考え、その技術を使って自分たちでアイデアを考えるという授業は、生徒にとっても興味を持ちやすいテーマで実践的でとてもいいなと思いました。


グループ同士の交流で、視野を広げ、プレゼンの練習も

 今回の授業の流れは、最初に個人でユースケース図を使って「どんな学習データをコンピュータに与えれば、どんな人に有用になるか」をアイデア出しした後に、グループ内でアイデアを共有し、1つに絞り込みます。今回はアイデア出しがほとんどだったので、ICT自体は、先生が説明の際にプロジェクタや書画カメラを使用したり、アイデア出しするのに、生徒がネット検索したりするくらいでした。そして、授業終わりの方で、席に残って自分たちの内容を説明する人と、他のグループの内容を聞きに行く人に分かれて、少人数単位でのプレゼン(アイデア説明)をしました。

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インターネットで、情報を探しながらアイデアを出している様子

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生徒が書いたユースケース

 今回、個人でもグループ単位でも、なかなかアイデアが出せずにいるグループがいくつかあったので、この最後のワークがあったことで、そういったアイデア出しに苦戦していたグループにとっては、自分たちの内容を再考するきっかけになったのではないかなと思いました。

 また、アイデアを説明することはプレゼンの練習にもなります。いきなりクラス全体で説明となると緊張したり、うまく話せないものですが、3・4人相手に緊張せずに会話するように自然と説明できている様子が、いいなと思いました。クラス全体でプレゼンするまでに、徐々に人数規模を増やしたり、説明量を増やしたりすれば、プレゼンの段階学習にもなると思いました。

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自分たちのアイデアを説明している様子

 今回は、聞く側の生徒には、2種類の付箋が渡されていて、黄色の付箋にはいいと思ったこと、青色の付箋には改善点を書く指示でしたが、なかなか書くことが難しかったようで、多くは感想になっていました。他の学校の生徒でも、人のアイデアに対して批判的な意見を書く・言うことに慣れていないケースがよくあるので、アイデアに対して本質を問うような質問の仕方を以下のような型として提示してあげると、お互いにより深い気づきが得られるのではないかなと思いました。

  • 5W2Hを問う
    • いつ、どういうときに使うのですか?
    • どこで使うのですか?
    • 具体的にどんな人が使うのですか? →女性?男性?年齢は?日本人?職業は?
    • 具体的に学習データはどんなものですか?
    • どうして~にしたのですか?
    • どのくらいの人が使うと思いますか?
  • 別の選択肢・可能性を問う
    • Aではなく、Bでないとダメなのですか?それは、なぜですか?

次期学習指導要領と、中学校とのつながりを考慮した授業設計

 春日井先生の事前協議によると、今年度検討したこととして、来年告示予定の次期学習指導要領の内容と、既に告示されている中学校での人工知能の扱いを意識されたようです。

 現行の学習指導要領では、「社会と情報」か「情報の科学」のどちらか選択必修という形になっており、その選択自体は各学校に委ねられている状況です。実質80%の高校で「社会と情報」が実施されているようですが、次期学習指導要領では、「社会と情報」と「情報の科学」が合わさった「情報Ⅰ」が必修となり、科学的な理解や情報技術の仕組みの理解、プログラミングの理解といった要素が含まれるようになってくる予定です。

 中学校の技術・家庭の学習指導要領でも、既に人工知能について触れており、人工知能と人間の役割の違いや人工知能の利用方法の検討などは含まれているようです。仕組みまでは学習しないようですが、中学校の時点で既に「人工知能」という言葉が書かれていることから、春日井先生は、国民共通の素養として学習すべきであり、高校「情報科」が担う内容になるのではないかと考えたそうです。

 これらのことを考慮して、春日井先生は、人工知能の仕組みを理解することと、その仕組みを使った問題解決の授業を設計されたとのことでした。かなり挑戦的なテーマですが、目まぐるしく変化する情報社会について教える情報科が、先々のことを考えてそれに見合った授業内容を提供していく・変化させていくことは、とても大事であり、重要なことだなと思いました。


(前田)