教育ICTリサーチ ブログ

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Kids Creator’s Studio「未来の創り手」成果報告会 レポート No.3(2018年3月27日)

 2018年3月27日に、大崎ゲートシティホールにて、Kids Creator’s Studio「未来の創り手」成果報告会が開催されました。
 第2部は、「未来の創り手」トークセッションです。登壇したのは、第1部でプレゼンテーションをしてくれた、Kids Creator’s Studioの吉田たくと さん、斉藤みり さん、曽田柑 さん、高橋温 さん、菅野晄 さんの5人と、中澤仁先生(慶應義塾大学 環境情報学部 准教授)、犬童周作さん(総務省 情報流通行政局 情報流通振興課長)、秋田夏実さん(アドビ システムズ 株式会社)で、モデレーターは上野朝大さん(株式会社CA Tech Kids代表取締役社長)がつとめました。
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 総務省では人工知能(AI)、ロボットが生活をサポートしているであろう2040年をイメージしているそうですが、2040年に社会の中心にいるのは、まさに今日プレゼンをした5人の小学生たちの世代です。
 2040年の社会で活躍する、いまの小学生にどんな力が必要でしょうか。犬童さんは、「創造力はもちろんだが、コミュニケーションする能力。情報リテラシー。いろんな能力を一緒に学べるような取り組み」が必要だろうと言っていました。
 Kids Tech Schoolで教えているプログラミング教育は、2020年から公立小学校で必修となります。ですが、情報通信の世界の変化は非常に速く、おそらく学校教育だけでは追いつかないのではないかと犬童さんは言います。プログラミングを必修として最初に教えてくれる学校は「きっかけを与えるところ」であり、あとは学校の外で、みんながしているような活動を支援していきたい、と言います。
 プログラミングをツールにして、それで楽しく学べる。デザインであったり、ものづくりであったり、いろいろなことができる。それらを学びながら、創造力やコミュニケーション能力なども含めて学んでいけるような環境づくりをしていきたい、と犬童さんは言っていました。


 ここで、上野さんが、「写刺繍」を作った菅野さんに、「もしアプリを有料にするなら、いくらで販売する?」と訊きました。菅野さんは、「0円。別に刺繍の図案を作るのは、自分でもできるわけだし、刺繍の図案づくりを楽にするために作ったので、色んな人に興味をもってもらいたいので、有料にしなくてもいい。」と答えました。「売ってみたい、という人はいる?」と上野さんが他の4人にも訊くと、「有料だと使いたくなくなっちゃうという人もいるかもしれない」など、だいたい菅野さんと同じ意見でした。いまは、無料でもいいから、たくさんの人に使ってほしいという気持ちが強いようです。こうしたところにも「社会で役に立つものを作りたい」という、何人かのプレゼンテーションの中に出てきていた思いが現れているように思いました。

 普段、大学生を教えている中澤先生は、今日プレゼンテーションをしてくれた5人はみんな「楽しい」と言っているけれど、大学生になると勉強は「一生懸命するもの」になる、と言います。中澤先生は、「小学校、中学校、高校とずっと教育してきて、なぜクリエイティビティが失われていくのか、という問題意識がある。今日のアプリとかは、小学生からしか出てこないんじゃないか。こういう頭を柔らかくする教育が大学でも大事なのではないか。そういうのができないと、この国はダメになる。今日の5人は、特殊ではないかもしれない。何かの運に恵まれてここにいるのかもしれない。それでいいんだと思う。こういう柔らかい脳を柔らかいままにしておくという教育を、大学から下に下げていきたい。」とおっしゃっていました。
 アプリを実際にプログラミングで作るところまでいかなくても、こうした頭を柔らかくする教育として、他の教科と結びつけるという場面は、小学校~高校でもっとたくさんあってもいいかな、と思いました。


 アドビの秋田さんは、「こうした機会は、世界にいくつかあるとは思いますが、プロのクリエイターが使うアドビのソフトをしっかり学んで使っているというのは珍しいと思います。大人は、テキストを読んで、難しいなと思ったりするものを、子どもは軽々と越えていく。触って、自ら体得していく。そういうのを子どもはできる。関心とおもしろい楽しいで自分で学んで、自分で形にしていける。それを見せてくれたと思う」とおっしゃっていました。
 大人向けのソフトを使ってみて、「今まで“なんでこんなの描けるんだろう…”と思っていたような絵が描けた。最初は難しいけど、慣れてくると平気なので、子どもの頃から使っている方がいいと思う」と、デザインをしたり絵を描いたりするのが好きな高橋さんは言っていました。
 特に、今回使ったAdobeの新製品 XDも使っています。菅野さんは、「これまでは自分の頭のなかでこんなのがいいかな、と思ってそのまま作るか紙に描いてやるかだったけど、XDを使うと、実機みたいなのが出て、紙に描くより改善点などを探しやすかった。」と言っていました。高橋さんも、「手描きだと疲れるし、消しゴムで消すときにも時間がかかる。XDを使う方が、全体像をイメージできると思う。」と言っていました。

 大人向けのソフトやアプリや環境も、「やりたい」という気持ちで乗り越えていく力が子どもたちにあるのであれば、そうした場をしっかり設計することで、クリエイティブな学びの場を学校の内外に作ることができそうだと感じました。
 こうした環境を作るのは、人材面でも設備面でも、すべての学校では難しいですが、民間の力を借りていくことで実現していくことは可能なのではないかと思います。ここで発表されたKids Creator’s Studioでの成果から、2020年に向けて、学校の先生方もプログラミング教育へのヒントを見つけられるのではないかと思いました。

(為田)