教育ICTリサーチ ブログ

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書籍ご紹介:『教育格差 階層・地域・学歴』

 松岡亮二『教育格差 階層・地域・学歴』を読みました。2019年11月に早稲田大学の「教育イノベーション論」でゲスト講師をさせていただいたときに、授業後に質問に来てくれた学生さんが、「松岡先生の『教育格差』にも書かれていたように…」と教えてくれたのがきっかけです。書名は知っていましたが、まだ読んでいなかったのを、じっくり時間をかけて読んでいきました。

 松岡先生が提示している問題はとても明確で、「生まれ」という教育格差にどう向き合うのかということだと思います。さまざまなデータを理論と先行研究に基づいて紹介してくれる本ですが、「はじめに」のところで、松岡先生の思いを読むことができます。

生まれ育った家庭と地域によって何者にでもなれる可能性が制限されている「緩やかな身分社会」、それが日本だ。現行の教育制度は建前としての「平等」な機会を提供する一方、平均寿命が80歳を超える時代となっても、10代も半ばのうちに「身の程」を知らせる過程を内包している。「生まれ」による機会格差という現状と向き合い積極的な対策を取らなければ「いつの時代にも教育格差がある」ことは変わらず、わたしたちはこの緩慢な身分制度を維持することになる。それは、一人ひとりの無限の可能性という資源を活かさない燃費の悪い非効率な社会だ。(p.16)

 「燃費が悪い」というふうに書かれていますが、それよりも何よりも学校教育の現場に関わる仕事をしている立場からすると、生まれた家庭や地域による差を唯一キャンセルできる手段が公教育という仕組みであってほしいと思っています。ただ、データを見るとなかなかそうはなっていないのが現状なのも事実です。

 未就学の時期からどれくらいの本を読んでいるか。義務教育を受けるようになってから家庭の中でどういった語彙が飛び交っているか。情報社会となった今日、保護者がどのような情報活用能力をもっているか。
 そうした差を、公教育がキャンセルできればいいと思っていますし、EdTechをはじめとするテクノロジーがキャンセルできればいいと思っています。学習塾がない地域でも、EdTechにより有名予備校講師の授業が受けられるようになりました。世界中のどことでもつながってプロジェクトに参加できるようになりました。そうしたことが、はたしてどれくらいこの「緩やかな身分社会」を変えていけるのか、そこに大きな関心をもっています。ここがうまく行かなければ、結果として社会は不安定になってしまいます。そうした未来を望みたくはありません。

 学校で一人1台の情報端末をもつようになります。また、スマホを学校で使う方針を出している自治体もあります。こうしたときにも、情報端末を「消費者として」使うのか、「情報の発信者」あるいは「クリエイター」として使うのか、そうしたことも学校がある地域によって変わってくると思います。
 学校が地域の影響を受けるのは避けられません。当然のことです。だけど、その影響を乗り越えていく子どもたちを支えることが、公教育の力でできるようになればいいと思っています。そのための武器として、ICTを使っていける学校が増えてほしいと思っています。

 松岡先生のこの本を執筆した理由も、「はじめに」に書かれています。

こんな現実の中で教育社会学の研究者である私にできることは、入手可能な質の高い様々な調査データを理論と先行研究に基づいて分析し論文にすることだ。そう信じてアメリカ合衆国で博士号を取得後、2012~19年の間に国内外の学術誌で20編の査読付き論文を発表してきた。ただ、これだけではいつまで経っても物事は変わりそうにない。そもそも16編は英字論文であるし、同業である研究者に向けて書いているので、一般のみなさんに届くわけもない。そこで、過大評価も過小評価もせずに現時点でわかっている教育格差の全体像を一人でも多くのみなさんと共有することで、既視感だらけの教育論議を次の段階に引き上げることができればと本書を執筆することにした。(p.17)

 こうした研究を読んで、学校現場で何ができるのか、教育行政で何ができるのか、考える人たちがどんどん増えていくことが重要だと思います。「そうそう」と学校の現場を知っている人たちは思う人が多いのだと思います。研究でここまでわかっていることをベースに、また次の段階へ進めていくために、この本がたくさんの人に読まれるといいな、と思います。

(為田)