教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

『十五の夏』と『埼玉県立浦和高校』を読んで、ここにICTがあったらどうだろう?と考えた

 元外交官で作家の佐藤優さんが高校1年生(15歳)のときに東ヨーロッパ・ソ連を一人旅したルポ『十五の夏』を読みました。上巻は東ヨーロッパ、下巻はソ連。1975年に、共産圏を高校生が一人で旅をする、というのはもう今では全然想像もつきません。この旅への背中を押すご両親が素晴らしいと思いますし、同じことをいま自分が親としてできるだろうか…と考えました。

 佐藤さんは、ロシア情報収集・解析のエキスパート。この旅が、将来の素地として活きていることも多いのだろうな、と思っています。直接体験は本当に大切です。何でも検索でわかるような言い方をする人もいますが、そもそも「検索では見つからない」ことも多いのです。
 何でもデジタルですむようにはなりません。そもそもデジタルでの検索にしても「どんなキーワードで検索しなければいけないのか」を知らなければなりません。自分が持っているキーワードを増やすために体験は重要なのは、昔から変わっていない。
 デジタルに寄りすぎて体験が軽視されるのは、それもまた違う。デジタルでいろいろなことがわかるようになったからこそ、体験の価値も増えていくと思います。
 旅の間、さまざまな人と会って、さまざまな話をしている様子が書かれています。佐藤さんのこの旅にICTがあったら、例えば、「このときに、メールがあったら、Googleがあったら、LINEがあったら…」、どんなふうだっただろう、と何度も考えました。
 デジタルも活用しての情報活用能力を高めるために、旅をしたり、現地へ行ったり、人と会って話したり、ということは本当に重要なことだと思います。

 『十五の夏』を読んでいると、佐藤さんが当時在学されていた、埼玉県立浦和高校の話がたくさん出てきます。気になって調べてみると、なんと浦和高校の杉山校長先生と共著『埼玉県立浦和高校』が出ていました。

 浦和高校の高校生向けの講演だけでなく、保護者向けの講演の様子を読むことができます。保護者に向けて、以下のように浦和高校の説明をしています。

この浦和高校という学校は、日本の中で残っている数少ないエリート校だと思います。ここで言う「エリート校」とは「将来において各界で力を発揮する、真の意味でのエリート(選良)を育てようとしている学校」という意味であって、「偏差値が高い」とか「将来性がある」とか、「難関校に入った」とか、狭義の意味で使っているわけではありません。(p.96)

 ここで話をされている内容は、『十五の夏』のなかでも書かれていることと繋がっていると思いました。
 また、あとがきでも、浦和高校という「学校」がどういう役割を果たしたのかということが書かれています。

高校時代に良き師にめぐまれること。人生や社会について友人たちと徹底的に議論を交わすこと。そして、そのために必要な基礎的知識や教養をしっかりと学んでおくこと。こうした貴重な経験を高校時代にしっかり積んでおいたことが、間違いなくその後の私の人生の大きな糧となり、危機を打開するための「人生力」となっている。(p.205)

 僕は、学校というしくみを信じています。学校だからこそできることがたくさんあると思っています。学校での先生方の仕事についても、本当に価値あるものだと思っています。だからこそ、学校という場にICT/テクノロジーが入ることで、子どもたちにとっての世界が広がることを望んでいます。
 浦和高校だけでなく、日本中の高校にICTが入り、生徒たちが自由に思考や表現の武器として使いこなし、コミュニケーションを世界中ととっていくようになったときに、どんな未来が来るだろう、とワクワクしています。ICTをただの「消費の道具」として使わずに、「創造の武器」として使ってほしいと思っています。
 浦和高校の本を読んだことがきっかけですが、話はもちろん浦和高校だけの話ではありません。先生方が、テクノロジーを子どもたちに武器として持たせて未来に送り出すことをワクワクできるように、そうした未来を一緒に思い描けるように仕事をしていきたいな、と感じました。

(為田)