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書籍ご紹介:『親子で育てる ことば力と思考力』

 大学時代に「認知学習論」という授業を受けました、発達心理学社の今井むつみ 先生の『親子で育てる ことば力と思考力』を読みました。「思考力」を身につけられる教材とはどういうものなのか、「思考力」を身につけられる授業とはどういうものなのか、ということについて考えられる人になりたいと思っていて、この本のテーマは非常に興味があります。興味深かった部分をメモとして公開したいと思います。

親子で育てる ことば力と思考力 (単行本)

親子で育てる ことば力と思考力 (単行本)

  • 作者:むつみ, 今井
  • 発売日: 2020/03/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 今井先生は、最初に「ことばの力」が重要だと書いています。 

自分で学び、常に知識をアップデートできないと、技術の変化に取り残されてしまいます。そして自分で学ぶ力を育むためにとても大事なのが、「ことばの力」なのです。(p.3)

 ただし、この「ことばの力」は、ただ物知りであればいい、というのではありません。今井先生は、暗記しただけの知識=死んだ知識、ではなく、使ったり他の知識と組み合わせて新たな知識を得られる知識=生きた知識を身につけることが重要だと書いています。

 そのうえで、この本で伝えたい6つのポイントがまとめられています(p.8-10)。

  • ことばの知識も、算数などのことば以外の知識も、大人がフラッシュカードなどを使って教え込み、外から入れようとしても「生きた知識」には育っていきません。
  • 子どもに身につけてほしいのは、外から入れようとした「使えない知識(死んだ知識)」をたくさん持つことではなく、思考力です。
  • 思考力は単に知識を持っていることではありません。知識を使って問題の意味を考え、最善の解決策を考えて、結論を引き出す能力(問題解決能力)です。そのためには、多くの「生きた知識」を持ち、それを必要なときに素早く記憶から取り出したり(情報処理能力)、必要な知識と今は必要でない知識を選り分け、不必要な情報を無視する能力(実行機能)も育てなければいけません。これらの能力も思考力の大事な要素です。
  • 思考力はことばの力とタッグを組んでいっしょに育ちます。乳幼児期に自分で考えてことばを覚えた機会が多いほど、思考力は育ち、伸びます。
  • 小学校以降の学びには、日常会話で使うことばだけでなく抽象的な意味を持つことばが必要になってきます。しかしそれらのことばも、大人が「外から入れる」ことはできないので、大人との会話や読書を通じて自分で抽象的なことばの意味を考え「生きた知識」として持っていることが必要です。
  • だから乳幼児期から児童期にかけて、子どもがことばにたくさん触れ、ことばの意味を自分で考える機会をつくってあげることが、とても大切なのです。それが思考力を育て、自分で学べることにつながります。

 この6つのポイントを見てみると、「ことば力」はただ暗記しているだけではダメであることがわかります。そして、「ことば力」をどのように子どもと一緒に育んでいけばいいのか、というヒントがたくさんあるように思います。授業を改善していく参考になると思います。

 僕は、学校は家庭だけでは得られない知識や体験を得られる場だと思っています。子どもたちはどの家庭に生まれるかを選べるわけではありません。また、多くの時間を過ごす家庭の環境から逃れることはできないと思っています。そうした環境の影響をある程度キャンセルする機能を、公教育=学校が持っているのだと思っています。
 今井先生は、学校で起こっている問題についても書いています。

小学校低学年のうちから、日常会話で必要なことばしか知らない子どもと、読書などから自然と日常会話ではあまり使われない抽象的なことばを覚えた子どもの間で、ことば力の差が大きくなります。特に3、4年生になるとその差が学力に大きく影響してくるのです。(p.66-67)

幼児期で何よりも大事なのは、日常生活や遊びの中で、自分の身体を使って五感全体で身の回りの世界を探索し、その中でことばに関する興味や完成を育むこと、数、空間の中のモノ同士の関係性、できごとの因果関係に自然に注意を向けるようになることなのです。
毎日の生活体験の中で、モノとモノとの間の関係や、人同士の関係に興味をもち、目を向ける習慣が、学校で学ばなくてはならない抽象的な学習内容を自分の生活の中での具体的な経験に結びつけて理解していく能力の基礎となります。抽象的な概念に対して、その概念の具体的な例を自分で思いつくことができる。これが抽象的な内容を理解するためにとても大事なことなのです。(p.86)

 日常会話で出てくる語彙には限界があります。具体物で言えば、生活の場面で目にするものは限界があると思います。また、例えば「平和」「自由」のような抽象的な語彙についても、なかなか触れる機会はないでしょう。
 家庭では触れられない語彙に、学校の授業や教科書や、自分とは違う人たちを通じて触れる、ということは、学校の大きな役割だと思っています。
 もちろん、学校だけである必要はありません。本、映画、インターネット、ゲーム、さまざまなものが子どもたちの「ことばの力」を伸ばしてくれると思っています。こうした観点で、ICTやオンラインコミュニケーションは、「ことばの力」と「思考力」を伸ばす大きな武器になるのではないかと思っています。

(為田)