C.M.ライゲルース、B.J.ビーティ、R.D.マイヤーズ『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザイン理論とモデル』をじっくり読んで、Twitterのハッシュタグ「 #学習者中心のID理論とモデル 」を使って、ひとり読書会を実施したのをまとめておこうと思います。
今回は「第14章 モバイル学習のためのデザイン上の考慮事項」のまとめです。スマホを含めてモバイルを使った学習の可能性を知ることができる章でした。
モバイル学習の定義:「最も一般的な定義の1つは、「人々の間の複数の文脈にわたる会話と個人的な対話型技術を通して学ぶプロセス」である。ただし、モバイル学習の定義では、新しい教育法を可能にするモバイル機器の独自のアフォーダンスを捉えるべき」(p.379) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) 2020年9月24日
モバイル機器が持つ独自性によって実現する、場所を選ばない接続(ubiquitous connectivity)と協働、そして偶発的コンテンツ共有のアフォーダンスを包括したモバイル学習の定義が書かれていました。
「パーソナルもしくはユビキタスな社会的つながりを提供しながら、教育学的に設計された学習コンテクストを橋渡しし、学習者創生コンテクストおよび(個人的・協働的な)学習者創生コンテンツを推進することで、従来の学習環境との区別化」(p.379)がモバイル学習で可能 #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) 2020年9月24日
「多くのモバイル学習プロジェクトは、フォーマットが変更されたコンテンツの配信と従来型の教育実践での利用に焦点を当て、指導者中心の活動と練習を小さな画面のモバイル機器で模倣しようとしている」(p.380)→これはうまくいかない。 #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) 2020年9月24日
「モバイル学習はさまざまなツールを通じて、新しい文脈でのコミュニケーションとコラボレーションを介して学習や教育を向上させることができ、そして学習者創生コンテンツと学習者創生コンテクストに再び焦点を当てることができる。」(p.380) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) 2020年9月24日
では、そもそもモバイル機器のアフォーダンスとは何か、そして、それはどんなアプリや機能に現れるのか、について書かれていました。本に書かれていたものよりも、自分的にピンときたものも書いておきました。
モバイル機器のアフォーダンス
- 協力的なコミュニケーションの可能性
- 例:Twitter、Skype
- コミュニケーションを消費するだけでなくて、協力的にできることなら何でもいいかな、と思った。LINEでも、Googleクラスルームでもできそう。
- 相互作用と非線形性(nonlinearity)
- 例:Google Now、バーチャルリアリティ
- 分散的知識構築
- 例:グーグルプラス、グーグルドキュメント
- 日本であれば、ロイロノート・スクールなどでもできそう。
- マルチモーダルな知識表現
- 例:YouTube、Jumpcam、Vyclone
- 「マルチモーダル」とは、視覚・聴覚を含め、複数(multi)のコミュニケーションモード(mode→modal)を利用している、ということらしいです。映像制作なども入ってくるのかな。iMovieとか、ARmakrとか?
- 真正な・文脈化された・位置づけられた資料、相互作用、タスクおよび場面設定
- 例:拡張現実(AR)
- あ、ここに拡張現実が入ってくるのですか…。「その場所にいるからこそできる」という感じの使い方なのかな。QRコードとかもここに入れられるのかもしれません。
- 多機能性と収束性
- 例:Siriのような音声認識システム
- 携帯性、普遍性、および個人の所有権
- 例:スマートフォンなど
- ユーザー創生コンテンツとコンテクスト
- 例:Behanceなどのeポートフォリオ
モバイル学習の種類:「私たちは、学校内外の学習経験を橋渡しして結び付け、真正な学習経験の設計を可能にするモバイル機器の能力に特に関心がある」(p.381) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) 2020年9月24日
学校内外の学習経験を橋渡しできる、モバイル機器によって、「インフォーマル学習」と「公的学習」の2つを行えるようになります。
- インフォーマル学習
- 「インフォーマル学習は、教室の外で起こる学習経験によって特徴づけられる。」(p.381)
- 学習者のスマホで撮影し、共有できる偶然のイベント。
- 内蔵のGPS、コンパス、近接センサによるコンテクストメタデータの記録などが含まれる。
- その場ですぐに共有される。
- 公的学習
- 「公的学習は、一般に、指導者によって設計され、形成的評価または総括的評価が直接関連づけられた、教室環境で行われる学習活動によって特徴づけられる」(p.381)
- Twitterでのライブ会話、学習者が創生したモバイルマルチメディアのキュレーションと共有、eポートフォリオ、YouTubeビデオ、ブログ投稿、Soundcloudレコーディング、Flickrフォトストリームなどのプロジェクトなど。
「モバイル学習のデザイン理論は、新しい学習法、特に学習者の可動性と、コミュニケーションとコラボレーションの中心的役割に据えた学習者中心のインストラクションを可能にするために、モバイル機器独自のアフォーダンスを活用する必要がある。」(p.381-382) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) 2020年9月24日
この後に続けて書かれている、OECDが2015年に出している言葉がとてもいいと思いました。(原文がどこにあるのか、わからなかったのです。後で探してみたいと思います)
新技術が自動的に存在するだけで教育法を変えるというわけではない。「学習者がスマートフォンよりもスマートになることを望むなら、私たちが彼らを教えるために使っている教育法についてもっと考える必要がある。テクノロジーは優れた指導を増幅することができるが、優れたテクノロジーは悪い教育に取って代わることはできない」(OECD)。(p.381-382)
最後に、モバイル学習原理が書かれていて、これを「教授設計にモバイル機器のアフォーダンスを活用するためのガイドライン」および「モバイル機器で教授方法を実現するためのガイドライン」の支えになるものとして紹介されていました(p.382-390)。
モバイル学習原理について考えるときの普遍的原理:
- 学習者創生コンテンツを可能にすること
- 「モバイルソーシャルメディアは、個人に合わせることが可能な強力なツール群を提供することができるので、学習者を労働者や自己調整学習者、そして指導者に変身させる」(p.383)
- 協働学習ツールや授業支援ツールは、まさに学習者をただ知識を与えられるものでなく、「自己調整学習者」や「指導者」にしているな、と思います。
- カメラや動画編集ツールなども含めて、自分たちでマルチメディア製作ツールを利用できる
- 学習者創生コンテクストを可能にすること
- 「モバイル学習は学習者が創生するコンテクストに焦点を当てた教育を可能にする。教育者主導のコンテンツ配信から、(略)学習者主導の学習への移行ができる」(p.384)
- 「学習者中心の教育法の学習ゴールは、変革的な学び(transformative learning)の経験を可能にし、創造的な自己調整学習者を生み出すことである。モバイル学習経験のデザインは、教室内外のさまざまな状況で学習者の創造性を促進することに焦点を当てるべきである。」(p.384)
- 真正な学習経験を可能にすること
- 「真正なモバイル学習の経験では、オンライン試験や指導者作成コンテンツへのモバイルからのアクセスではなく、学習者創生ポートフォリオや真正なプロジェクト開発に焦点を当てる」(p.386)
- 「モバイルソーシャルメディアを利用すると、学習者はグローバルな専門家ネットワークやコミュニティの積極的なメンバーになり、卒業後の進路として選択した業界や職業の中で実際の役割を果たすことができる」(p.387)
- モバイルソーシャルメディアの利用を、消費に限定するべきではない。「したがって、モバイルソーシャルメディアの教育利用における設計者、ファシリテーター、およびメンターとしての指導者の役割は非常に重要である。指導者の役割は、真正な学習経験をサポートするためのリソース環境のデザインと、学習者創生コンテンツや学習者創生コンテクストを以前の社会的利用を超えたものにするトリガーイベントを設計することになる」(p.387)
そしていよいよ最終章である15章を読む、No.15に続きます。
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(為田)