2020年9月7日に、東京都立青山高等学校を訪問し、小澤哲郎 統括校長先生に、青山高校でのICTの活用について、お話を伺いました。
これから青山高校が目指していくこと
こうしてオンライン授業を着々と進めている青山高校ですが、機材や環境が揃っていない家庭もあります。現状、学校からタブレットも30台以上貸し出し、さらに1校3台しかないWiFiルーターも貸し出しているそうです。
自分の機材を使っている生徒も多いそうですが、その8割以上はスマートフォン(スマホ)だということです。スマホであれば、授業の画面が小さく見にくくなりますし、配布物も読みにくく、情報伝達も大変になります。
青山高校は授業での提示型をメインにICTを活用しているので、東京都教育委員会が進めてきた「校内WiFi+BYOD(スマホ含む)」が想定している形です。スマホを授業で使っている教科科目もあり、電子辞書でなくスマホでいろいろなことを調べている生徒もいるそうです。
小澤校長先生は、「現状で大事なことは、生徒が校内でWiFi機能を使えることよりも、教職員が授業で一斉配信ができることだ」と言います。青山高校での授業として、グループワークやペアワークにICTを活用して実施するということよりも、いつまた休校になっても、自宅にいる生徒と双方向でのやりとりができたり、伝えるべきことをすぐに一斉配信で確実に届けられることを重視しているそうです。それができなければ、学校として生徒と家庭と繋がることができず、何もできなくなってしまいます。だからこそ、伝えるべきことを伝えられる環境を作ることをいま目指しているそうです。
その次に、校内のWiFi環境が増強されれば、校内にいるときには通信費がかからなくなり、経済的にも家庭の助けになると小澤校長先生は言います。一人1台の端末を持つようになっても、学校で常に使ってもらうというよりは、「登校していても家にいても、常に学校と繋がれるという基盤を確保したい」という課題を解決したいという方向性が非常に明確だと思いました。
青山高校の授業で、プロジェクタ中心に提示型でICTを使うようになったのは、この5年間での大きな変化です。それがあったから、比較的スムーズに情報を発信する側のオンライン授業ができるようになったそうです。
それまで、青山高校ではプロジェクタは3年生の教室になくて、特別教室にしかなかったので、普通教室に付け替えてもらったそうです。普通教室にプロジェクタを付けてから使用頻度が飛躍的に伸びたそうです。プロジェクタのバルブを見たら、何時間使用したかわかるので、それを調べてもらったデータを見て、会議でどの教室に配備するかなどを決めていったそうです。
最初は校長室にもICTはなかったそうですが、いまは校長室にある大きなモニターを使って会議をしたり、プレゼンをしたり、なくてはならないものになっているそうです。
そうして先生方がICTを使う場面が増えてきているいま、問題になっているのは通信環境の弱さだと小澤校長先生は言います。通信回線の基盤を整備するものの、900人の生徒がWiFiで一斉にアクセスするのはまだ負担が大きいだろうと想像しているそうです。ただ、青山高校が現状課題として考えている、「大事なことは学校から確実に授業なり連絡なりが、確実に一人ひとりに配信できること」を考えるならば、学校で最大瞬間風速的に通信量が大きくはならないのではないかと思います。どのような課題を設定し、そのためにICTをどう活用するのかということを分析していきながら、学校での活用を進めているというふうに感じました。
まとめ
オンラインにできるものとできないもの、オンラインに適したものとそうでないもの、があるのは事実です。「こうあるべき」というべき論ではなく、対応していけるようにすることを教職員に伝えている、と小澤校長先生は言います。
新型コロナウイルス感染対策で、学校はさまざまな措置をとらなければならなくなっていますが、小澤校長先生は先生方だけでなく、生徒たちにも「変化を楽しもう」と言っているそうです。「自分の生きている時代を嘆いても何も得はしない。変化の多い時代は、名を残すチャンスが多いかもしれない。多くないかも知れないけど」と小澤先生は笑います。
青山高校は、文化祭「外苑祭」が大掛かりで有名です。2020年度は新型コロナウイルス対策で開催ができなかったのですが、小澤校長先生は「中止」という言葉ではなく、「まったく新しい形でやりましょう」と教員にも生徒にも言ったそうです。これまでの外苑祭で教室で演劇をやっていたものを体育館でやる、というのではなく、Zoom演劇にするとかミュージックビデオを創るとか、何度も生徒たちに「まったく新しい形」を考えてもらったそうです。最終的に、3年生がクラス総出演のビデオを作り、録画したものを学習発表会で配信したそうです。1年生と2年生は配信を見るという形になりました。3年生は「これでふっきれました」と言い、2年生は「自分たちにもやらせてほしい」と署名運動をして持ってきたそうです。
こうした行事を新しい形で行うように考えることや、クラスみんなで協力して学校の伝統を引き継いでいくところなどは、まさに「オンラインではできないこと」なのだと思いました。また、卒業生からのサポートがあることも、学校というコミュニティだからこそだと感じました。
青山高校では、学校説明会や式典や保護者会、保護者向け進路研修会、教員研修もオンラインで開催しているそうです。生徒たちのICTの活用方法だけでなく、先生方も含めて学校としてICTを活用することに取り組んでいる様子がよくわかりました。
(為田)