教育ICTリサーチ ブログ

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教育ICT利活用の目的 9類型(2021年3月11日版)

 GIGAスクール構想によって、一人1台の情報端末が小学校と中学校に配備されつつあります。それに合わせて、「どういう使い方があるのか教えてほしい」「先生方がICTを積極的に使いたくなるような研修をしてほしい」という要望をいただいて、研修や講演をさせていただくことが増えています。
 ICTの導入が進んでいる学校や学習塾を訪問し、授業を参観させていただいたり、先生方のお話を伺うことが多くあります。どの学校も「ICT導入先進校」ですが、使い方はバラバラです。使い方がバラバラなのは別に悪いことではありません、なぜなら、ICTはたくさんのことができるからです。ICTのどの部分を使いたいのかが学校や学習塾によって違うので、当然、使われ方も違うものになります。

ICTを使う目的を類型化してみる

 一人1台の情報端末が配備されているなかで、児童生徒の学びも先生方の授業も変わってきていると思います。書店にはさまざまな事例を紹介した本が並んでいますし、ネットで検索してもさまざまな事例を見ることができると思います。
 そこには、「この使い方がいい」とひとつの正解があるわけではありません。それぞれの学校によって、整備されている環境、学校で目指している学びの形、地域性などの要素があり、「どのような使い方をすべきなのか」は学校によって望ましい形が違うと思うからです。
 ただ、さまざまな学校を見させていただいて、ICTを導入して利用・活用する目的には類型があるように思います。「どう使うか=手段」は多様ですが、「なんのためにそれを使うか=目的」はある程度まとめることができるように思っています。
 そうしたICT利活用の目的を類型化することで、これからICTを活用される学校の判断基準になればいいな、と考えています。現状、9つに類型化していますが、これから数年たって、教え方が洗練されていく中で、類型の数は増減することもあり得ると思います。ですが、現状、こういった目的で使われているケースが多いのではないか、ということで、現状把握としてまとめておきたいと思います。

(1)興味喚起

 まず、「興味喚起」と呼んでいる目的です。これは、授業や教材にあまり興味を持てない児童生徒に対して、興味をもってもらうためにICTを活用するケースです。教科書や資料集など文字情報以外の方法でも、教材に興味を持ってもらうことはできます。
 例えば、YouTubeなどで良質のコンテンツを見ることができます。NASAが発信しているリアルタイムの火星の様子などの動画なども見ることができます。Google Earthも活用できるでしょう。映画やテレビ番組や音楽などエンターテイメントで興味を持ってもらうということもできます。そこから、教科内容やプロジェクトなどに導いていくという方法が可能です。

(2)モチベーション喚起

 「モチベーション喚起」は、「ゲーミフィケーション」という言葉を考えるとわかりやすいかもしれません。例えば、練習問題に正解するごとにポイントがたまっていったり、アイテムがもらえたりする、というようなものを想像するとわかりやすいでしょう。
 アイテムをもらうために勉強する、というのが「動機が不純ではないか?」と思う方もいるかもしれませんが、出発点が「アイテムのため」であっても、何度もくり返して問題を解いたことによりできるようになってくる学習そのものに、どこかのポイントで興味が移ることも多いと思います。
 こうしたゲーミフィケーションは、実は教室では多くされています。僕が学んだ小学校では、漢字テストの点数によって、東海道本線の駅を東京から出発してどんどん進んでいく、という仕組みになっていました。それをコンピュータで行う、と考えれば、そう不純でもないかもしれません。

(3)理解促進

 「理解促進」は、黒板や紙の教科書などでは、説明がしにくいものについて、動画などを使って説明をし、理解度を高めようとする利活用の方法です。例えば空間図形であったり、日食や月食の説明など、どうしても二次元では頭のなかにイメージを描けないという児童生徒がいます。そうした場合、三次元で動く解説動画があることで、理解できる可能性が高まることは考えられるでしょう。理解ができたら、その後は二次元で説明を続けたり、実際にテストを行ったりして、学習内容を定着させる、という先生方もいらっしゃいます。
 よりわかりやすい説明で使えるように、という教材の工夫は、デジタル教科書などで多く取り入れられていると思います。今後、一人1台の情報端末でデジタル教科書を活用できるようになっていくと思います。

(4)授業効率化

 授業の中で、先生が黒板に何度も同じことを書かなければならない場面もあります。先生方とお話をしてよく出てくるのは、地図やグラフなどでしょうか。また、数学の先生が「図形問題を描くのに時間がかかるわりに、すぐに解かれてしまうので、続けて描き続けなければならない」、という声も聞いたことがあります。
 図形問題や地図などは、あらかじめデジタルデータとして持っておいて、プロジェクタやディスプレイを使って提示することもできます。また、一人1台の情報端末があれば、授業支援システムを使えばオンラインで問題を配布して、できた人から提出してもらう、ということもできるようになります。
 板書している時間が減る分、先生方は机間巡視をしたり、児童生徒の様子を見たり、個別フォローをするなどに時間を使うことができるようになると思います。

(5)進捗、理解度確認

 ICTを活用することで、単純な作業を何千回何万回と正確にくり返したり、正確にいろいろなものを計測し記録しておくことができます。ここは人間よりも機械が圧倒的に強い領域です。
 学習の進捗や理解度を記録することで、「生徒Aが、9時45分から9時52分まで数学の問題(3)に取り組んでいて、正解した」「昨日の授業の理解のキーとなる問題(3)の類題については、クラスの正答率は45%だった」など、正確な記録を問題ごとに取ることが可能になっています。そうして記録された進捗度や理解度などを先生がリアルタイムで見ることができるシステムもありますので、それを使って、その後の授業の展開をどうしたらいいかと考えることもできるようになっています。
 記録を取って確認することができるので、先生はそれを自分の教室での見とりと比較することもできます。進捗、理解度確認をICTでするようになったからと言って、先生の仕事がなくなるわけではありません。記録を見て、少し進捗が滞っている生徒に気づいたら、その生徒に一言かけたほうがいいか、どんな言葉をかけるべきか、そうしたことを判断するのは、その生徒のことを知っている先生であるべきだと思います。
 これまで先生がやってきた見とりの判断材料にプラスして、ICTによって記録した進捗や理解度を役立てながら授業をパワーアップさせられるのだと思います。

(6)教材拡充

 紙の教科書や資料集には、どうしてもページ数という制約があります。しかし、ICTでデジタルデータとして教材をもてば、ページ数の問題は解消されます。教科書にある問題数だけでは解法が理解できなかった児童生徒が、もう何問か追加で練習したら理解し、使いこなせるようになることもあると思います。
 また、アダプティブラーニングの方式をとるデジタルドリルを活用すれば、「もう少しスモールステップで練習問題に取り組んでいたら、きちんとわかる」という児童生徒や、前の学年範囲でつまずいている児童には、前の学年の問題を出題するということもできるようになります。教材拡充によって、個別最適な学びが実現していきます。
 そのほか、理科の授業で高価な薬品や危険な素材を使う実験は、全員で実施するのが難しかったと思いますが、先生が実験をして動画を撮影しておき、それをみんなで見ることで、理解を深める、ということも可能です。これにより、今までは使えなかった実験教材についても、擬似的にではありますが児童生徒に触れてもらうことができます。
 また、タブレットPCは、手軽に持ち運ぶことができ、撮影したものをそのまますぐに見ることができるので、実技教科でも多く使われています。自分で撮影したものがすぐに教材として使うことができるようになります。体育でフォームを撮影したり、家庭科での包丁の使い方の動画の撮影などをされている先生方もいらっしゃいます。

(7)表現、思考手段拡充

 今回挙げている9類型のなかで、この「表現、思考手段拡充」こそ、一人1台情報端末が整備されたらいちばん進んでほしいと個人的には思っています。これまでの世代とこれからの世代で、表現方法や思考方法は大きく変わってくるだろう、と思っているからです。
 例えば、デジタルで文章を書くのとアナログ(紙と鉛筆)で文章を書くのは、まったく違うものだと僕は思っています。僕は作文指導を学校で行うことがありますが、作文の下書きを見て、「ここの段落は後ろにある方がいいんじゃないか?」とコメントをしたときに、原稿用紙で書いているときには「先生、直すのいやだ、めんどくさい」という返事が返ってきましたが、コンピュータで書いている児童生徒は「ちょっとやってみます」と簡単にコピー&ペーストをしてみて推敲作業を重ねていきます。推敲作業を重ねて、「伝わりやすい」文章を書けるようになってもらうためには、デジタルは非常に便利なツールだと思います。
 また、表計算ソフトを使って、シミュレーション(試算)をしてみるというのも、データ分析と合わせて身につけてもらいたいスキルです。プログラミング教育で身につけてもらいたいスキルも、これから必要な「表現、思考手段」にあたると思っています。論理的な思考力を養うためにも、一人1台の情報端末を道具として使いこなせるようになってほしいと思います。

(8)家庭との情報共有

 家庭との情報のやりとりにメールなどのコミュニケーションツールを使ったり、教室と家庭で共通のウェブページを見て、状況を共有するということもできます。
 学校からの連絡の一部にメールサービスを使っている学校は多いですが、日々のプリントも教室でまだたくさん配布されています。学習塾については、時間割や宿題などの事務連絡や、家庭と学校とで共有しておくべきことなどを、専用のアプリを用いてやりとりをしています。欠席の連絡や学校アンケートをフォーム機能などを使って実施することで、電話や集計の手間を軽減することにつなげている学校も出てきました。デジタルコミュニケーションですむものはデジタルに移行し、業務を効率化することで、面談や電話連絡などアナログでの対話に適正な時間をかけられるようになると思います。

(9)学習環境拡充

 ICTを用いることで、これまでは「決められた時間」に「決められた教室」で学んでいた授業が、その枠を越えることができるようになっています。授業支援システムを活用すれば、「明後日の授業までに提出しておいて」という形での宿題を出すことができます。そうすれば、家に帰って夕食後に改めて授業の課題について取り組んで、持ち帰った端末から課題を提出することができるようになります。
 ディスカッションのテーマが授業で与えられて、提出期間を1週間とし、その間、クラスメイトとともにオンラインでディスカッションをする、ということも可能です。
 45分や50分という決められた時間では考えがまとまらない児童生徒が、時間の制約を受けず、いつでも学びの機会を与えられる、ということも可能です。

それぞれの目的は複合的に組み合わせられる

 以上、ICT利活用の目的を9つの類型に分類し、紹介してきました。この9類型は、複合的に組み合わせられることがほとんどだと思います。例えば、自動出題・自動採点をしてくれるアダプティブラーニングの形式のデジタルドリルを使えば、「授業効率化」「進捗・理解度の確認」「教材拡充」にもつながるものです。また、表やグラフを作成して考えさせる授業であれば、「表現、思考手段の拡充」であると同時に「授業の効率化」にもつながり得るものです。
 こうして9類型を軸に考えてみれば、「iPadを使ってみる」とか「デジタルドリルを使う」などの漠然とした授業計画ではなく、より具体的に、「iPadで授業支援システムを使うことで、授業を効率化するとともに、表現ができるようにしよう」というふうに授業を計画できると思っています*1
 また、「何を目的としてICTを使うのか」を明確にしておけば、批判を建設的に受けることも可能になると思っています。

最終的に、「学習者のために」考えることが大事

 また、この9類型を見てみると、「先生の授業を変える」ための使い方と、「児童生徒の学び方を変える」ための使い方が混在していることがわかります。端末が整備され、システムやアプリが使えるようになった当初は、まず先生方にとっての主戦場である授業を変えるための使い方が先行するのは大事なことだと思っています。ただ、そこで満足してしまっているケースも多く見られます。「先生の授業を変える」のは「児童生徒の学び方を変える」ための第一歩であることを学校として理解して取り組んでいく必要があると思います。
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 一人1台の情報端末によって、学習者中心の学びの実現可能性は高まっていくと思います。デジタルを思考や表現のツールとして使いこなす子どもたちを育てることは、彼らが生きるデジタル社会で自己実現を可能にする大切なことです。
 このICT利活用の9類型とさまざまな授業事例を共有していくことで、学習者が中心にいる学びの場が、日本全国に広がっていくように、学校を、先生方を引き続きサポートしていきたいと思っています。

(為田)

*1:このブログでは、9類型に関連する授業事例や教材などをカテゴリーに分けて紹介してきました。2021年3月11日現在で、1418のエントリーがありました。ブログのカテゴリーのところからご参照いただければと思います。