教育ICTリサーチ ブログ

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書籍ご紹介:『自在化身体論 超感覚・超身体・変身・分身・合体が織りなす人類の未来』

 稲見昌彦先生らが取り組んでいる稲見自在化身体プロジェクトに関わっている先生方によって研究成果が紹介されている、『自在化身体論 超感覚・超身体・変身・分身・合体が織りなす人類の未来』を読みました。

 全部で稲見先生を含めて8人の研究者の先生方が、「変身・分身・合体まで」「身体の束縛から人を解放したい」「拡張身体の内部表現を通して脳に潜む謎を暴きたい」「自在化身体は第4世代ロボット」「今役立つロボットで自在化を促す」「バーチャル環境を活用した身体自在化とその限界を探る」「柔軟な人間と機械との融合」「情報的身体変工としての自在化技術」という8章を執筆しています。
 章タイトルだけを見ると、難しそう…という感じもしますが、それぞれに想像もしていなかったテクノロジーの話、研究の話が出ていて、視界が広がるように思います。

 学校で使っているICTと直接関わる感じはしませんが、「デジタルが子どもたちの人生にどう関わってくるのか」ということを知ることは、日々の授業にも関係することだと僕は思っています。「はじめに」のなかで稲見先生は、テクノロジーと身体の関係について書いています。

これらの産業の興隆を総括すると、人々を「脱身体化」する動きだったといえます。もともと人間の肉体が担っていた労働を機械に置き換えていくことが、工業化のそもそもの目的でした。数々の機械の登場は、身体を酷使する苦役から人間を解放しました。さらには20世紀後半に台頭した情報通信技術が、人々の思考やコミュニケーションを肉体の制約から切り離します。新型コロナウイルスの蔓延に情報技術の進歩が間に合ったからこそ、場所や時間を問わない働き方が普通になったともいえます。
ただし今回のパンデミックは、行き過ぎた脱肉体化の弊害も浮き彫りにしました。一日中部屋にこもって仕事をする閉塞感は、ネットを介した触れ合いがあっても、時として人の心を蝕みます。友人との飲み会がZoom経由だけではやっぱり味気ありません。たまには顔を突き合わせ、直接会いたくなるのが人間です。人の心は肉体と不可分であり、身体を置き去りにした情報通信技術のままでは、個人や社会の存在の根幹に不協和音を響かせかねません。
それでも時計の針は逆には戻りませんし、戻す必要もないでしょう。脱肉体化の100年を経た我々は、情報通信技術が日常の隅々まで根を張った時代に、どのような身体がふさわしいのかを見いだすことで、困難を乗り越えられるはずです。(p.iv)

 書名にもある「自在化」はキーワードだと稲見先生は「はじめに」のなかで書いています。

プロジェクト名にある「自在化身体」が、我々が考えるこれからの身体像です。高度に情報化された日常の先に人々が見出す新しい身体は、生まれもつ自身の肉体だけに限りません。我が意のままに振る舞うロボットや、情報通信が織り成すバーチャル世界のアバター。あるときは複数の身体のチームを同時に操り、別の場面では大勢の仲間と1つの身体をシェアする。人々は物理空間とバーチャル空間を縦横無尽に行き来しながら、幾多の身体を自らのものとして自由自在に使い分けることが可能になるのです。(p.v)

 稲見先生が率いる「稲見自在化身体プロジェクト」のなかの、「PROJECT」のページを見ると、さまざまな研究を垣間見ることができます。
www.jst.go.jp

 本のなかにも出てくる「MetaLimbs」の動画を見ることができました。こうして動画でも見ることができるといいですね。英語でのナレーションですが、どんなプロジェクトなのか、教室で子どもたちに見せても伝わりそうです。

www.youtube.com

 こうした最先端の研究を見て興味をもち、その一部でもいいから自分でプログラミングで再現してみたいと思ったり、アイデアを自分で膨らませてみたり、というふうにプロジェクト学習につながっていくこともあるのではないかと思います。

 最近、テクノロジーによる能力の「拡張」ということについて考えているのですが、その先にあるかもしれないものとして、「自在化」というキーワードを教えてくれた本でした。

(為田)