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森村学園初等部 FESTIVAL OF CODING 2021 レポート No.2(2021年7月20日)

 2021年7月20日に、森村学園初等部を訪問し、榎本昇先生が担当する「FESTIVAL OF CODING」を参観させていただきました。FESTIVAL OF CODINGは、6年生が6人だけが受けられる夏休みの特別プログラミング授業です。授業は午前と午後に2時間ずつ、午前はmicro:bit、午後はRootを使ってプログラミングに取り組みます。

Rootでコーディング

 午後はRootを使った授業です。Rootは、ロボット掃除機ルンバを開発したアイロボット社のプログラミングロボットです。榎本先生は、モニターにRootを拡大表示して、各部の機能を紹介していきます。
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 Rootは、iPadの「iRobot Coding」を使ってコーディングができます(今回の授業では、前身の「Root Coding」を使っていました)。iPadとRootをペアリングしたら、Rootを動かすことを楽しく体験するために、ホワイトボードを使って鬼ごっこをします。Rootはマグネットでホワイトボードにつけて垂直方向に動かせます。
 iPadのアプリで「前に進む」や「右に90度回転する」などのブロックを置いて、プログラムを実行してRootを動かして、またiPadでブロックを置いて…を繰り返して、鬼役のRootにぶつかられないように逃げる、という鬼ごっこでした。
 鬼のRootは赤いLEDを点灯させて、わかりやすくしました。先生が鬼役のRootを動かし、あとの3人が逃げ回る、というふうにしました。単純ですが、楽しんでいるうちにブロックをつなげてRootを動かすという基本的な方法に慣れることができていました。
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 午前のmicro:bitの授業と同じく、子どもたちは榎本先生から出されるミッションにひとつずつ取り組んでいきます。
 モニターに表示された最初のミッションは、「正方形をかく」でした。ミッションと共にヒントが書かれていて、午前のmicro:bitのときと同じように、子どもたちは自分でどんどんブロックを組み合わせてRootを動かしていきます。正方形をかくためにRootが曲がるたびに音が鳴るようにしたり、かく正方形の大きさを変えるなどの工夫をしていきました。
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 Rootは、まんなかにマーカーペンを挿すことで、ホワイトボードや付属のマットに線を引くことができます。ホワイトボードに正多角形をかくことができます。みんなで多角形をホワイトボードにかいていました。
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 榎本先生から提示された「正方形をかく」のミッションは、だんだんレベルが上がるようになっていて、「机の大きさギリギリで、正方形をかくように動かしてみましょう」となりました。
 Rootには、1マスが16cmの4マス×4マスのマットが付属しているので、アプリの「前に進む」ブロックの基本単位は16cmになっています。ところが、16cm前に進むブロックだけでは、机の大きさに合わせるには不便です。
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 「もっと細かく数字を設定するために…」と、榎本先生はRootのアプリでコーディングのレベルを上げられることを紹介します。Rootのコーディングのレベルは、3段階になっていて、レベル1ではブロックを使って簡単な設定ができるだけ、レベル2でブロックの中で数字などを詳細に設定できるようになり、レベル3でテキストコーディングができるようになっています。
 「もっと細かいことまで設定できたらいいのに!」というシチュエーションをミッションを使って作ってから、それを実現できるコーディングのレベルを上げるのは、授業設計としてとても自然に子どもたちが上のレベルにチャレンジしていくのでいいと思いました。
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 Rootには、壁などへの衝突を感知するバンパーセンサー、上面への接触を感知するタッチセンサー、底面で色を感知するカラーセンサーがあるので、これらのセンサーを使っうミッションも組み込まれていました。
 上面は4分割されていてそれぞれにタッチセンサーがあるので、触る場所によって違う音が鳴るようにすれば、Rootは楽器にもなります。音が鳴るときに、LEDが光るようにもできるので、子どもたちはそれぞれにいろいろな工夫をしていました。
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 次のミッションは、「Root Line Follow」でした。榎本先生がホワイトボードに緑色の線で書いたひょうたん型の線をたどってRootが動くようにコーディングしていきます。榎本先生から「レベル1のコードでできます」と聞くと、子どもたちは、自分たちなりにどのブロックを使えばいいのだろう、と考えていきます。
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 榎本先生からは、「カラーセンサー使うよね。線がRootの真下にあったら、まっすぐ走るようにするよね。じゃあ、左にあったら?右にあったら?」とヒントが出されます。あとは、みんなで考えて、ホワイトボードで実際に動かして、思い通りにならなかったら調整をする、という繰り返しです。そうやって、失敗しながら、調整していくうちに、何人かのRootがきちんと線をたどるようになってきました。
 榎本先生は「周りの人と相談してもいいですよ」「失敗してもいいから、1回走らせてみたらいいと思う」「一発でうまくいくことはなかなかないです」と言い、どんどんチャレンジしていく雰囲気を作っていきます。プログラミングの授業には、こうした雰囲気作りが大事だと思います。
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 榎本先生からは、「線をきちんとたどることができるようになったら、今度は何もないところから、線を見つけて、たどって動かせるかな?」と、さらにチャレンジングな課題が出されました。子どもたちは、「えー、やってみたい!」と言い、どんどん試していきます。
 榎本先生も子どもたちと一緒にコーディングをしていたのですが、榎本先生が作ったコードと、子どもが作ったコードで2台のRootを同時にホワイトボードで動かしてみたら、子どもがコーディングしたRootの方が細かく線をたどるようになっていました。榎本先生は、「先生よりも、細かく調整していて、いいですね」と言います。こういうやりとりが、子どもたちにはとても嬉しいと思います。「どんどん改善していこう」「自分のアイデアを出してやってみよう」という気持ちになると思います。こうしたやりとりが、プログラミングの知識や技能そのものだけでなく、プログラミングをして思い通りの成果を出す楽しさや、失敗してもどんどん直していけばいいというマインドを育むのだろうなと思いました。
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 続いては、「Rootカラーセンサー」というミッションでは、教室の机に色画用紙を使って作ってある赤のゾーンと青のゾーンを往復して動くようにします。ここでも、最初はただ往復しているだけだったRootが、赤のゾーンに向かって動くときには赤いLEDが点灯し、青のゾーンに向かって動くときには青いLEDが点灯する、というふうに工夫がされていました。
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 最終課題として出されたのは、「自分でロボット掃除機を考える」というものでした。一人ずつ、自分なりのロボット掃除機を考えて、コーディングしてデモンストレーションしてもらいます。
 最後のプレゼンテーションのときに、作ったコードのねらいを発表して、実際にRootを動かしてもらいました。「ぶつかったときに音が出るようにした」「ぶつかるとバックしてから動き直す」「耳が聞こえない人でもわかるように光るようにした」「Rootの前を触ると動き出して、後ろを触ると止まるようにした」など、さまざまな工夫が見られました。
 プレゼンテーションを聴いていていいな、と思ったのは、一人の子が「工夫のかたまりでしかない」と言ってプレゼンテーションを始めたことです。自分で一生懸命考えて、それをコーディングして、動かしてみて、というときに、やらされているのではなく自分で楽しんで作っている、というシチュエーションを作ることが重要だと思いました。こうした部分は、学校でプログラミングを学ぶ大きな意義になるのではないかと思いました。

 全員のプレゼンテーションが終わったら、修了認定証が一人ずつ、榎本先生から手渡されました。
 このFESTIVAL OF CODINGを始めるときに、榎本先生は「楽しみながらやっていきましょう」と言っていましたが、子どもたちが楽しみながらプログラミングに取り組んでいる様子、そしてそうした雰囲気を作る授業設計の工夫を見ることができたと思います。

(為田)