教育ICTリサーチ ブログ

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一人1台の情報端末を、道具が持つ「二つの分水嶺」を見ながら考えたい

 ここ1週間、いろいろなことを考えました。GIGAスクール構想で小学校・中学校に配備された一人1台の情報端末は、良い使われ方もされるし、悪い使われ方もします。もちろん、一人1台の情報端末は「道具」でしかありません。道具として間違った使い方が起こるから、やはり使わせるべきではないのではないか、というふうに考える人もいるかと思います。

 僕は、この夏に読んでいた緒方壽人さんの『コンヴィヴィアル・テクノロジー』に書かれていた、「道具には二つの分水嶺がある」というイリイチの考え方を思い出していました。
 道具には、「使う/使わない」の一つの分岐点があるのではなく、「道具をうまく使えるようになる/道具に振り回されて使われるようになる」の二つの分水嶺がある、という考え方です。
 道具を使い始めてだんだんいい感じになって、第一の分水嶺を超える。でも、だんだん使いこなしていくにつれて第二の分水嶺を超えて、過剰に使うようになり道具に振り回され使われるようになってしまう。
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 学校で使う情報端末は「道具」です。情報端末のなかには、(自治体や学校によって内容はそれぞれ異なりますが)チャットツールも、データの共有や協働編集も、ゲーム形式になっているデジタルドリルや動画を見られるプラットフォーム、画像編集ソフトなどが使えるようになっています。どれも、子どもたちの学びをアップデートするために用意されているものです。
 ですが、どのツールもアプリも、行き過ぎた使い方(=第二の分水嶺を超えた使い方)をすれば、チャットへの過度の依存や誹謗中傷などの応酬、協働編集の場での悪意ある編集、アルゴリズムに支配されている検索結果の表示やオススメ動画の表示、画像加工によるフェイクニュースの流布、これらは行き過ぎた使い方なのです。行き過ぎた使い方をしてはいけない、ということを伝えなければいけないのです。

 あらゆる道具を、二つの分水嶺の間のちょうどいいところで使う、第二の分水嶺を超えさせない(超えられるけど、超えないようにする)ことが大事だと思います。これは、あらゆる道具でも同じです。車は人間の行動範囲を劇的に拡大しているけれど、さまざまなルールを課されて使っています。

 GIGAスクールで配備された一人1台の情報端末を、子どもたちが第一の分水嶺を超えて第二の分水嶺を超えない、ちょうどいいところで道具を使いこなせるようにするための工夫が必要なのだと思います。
 こうした工夫こそは、家庭で一人ひとりが学ぶということはできなくて、学校という場で学ぶべきだと思います。その場合、先生だけでなく、家庭の協力も必要だし、外部の人の協力も必要です。

 僕が教えている小学校のクラスでも、昨年度、授業チャットを最初は便利に使っていたけれど、だんだんエスカレートして収集がつかなくなってしまったことがありました。そのときは、みんなで「授業チャットを使って、良いこと・悪いこと・おもしろいこと」をシンキングツールでまとめて考えてみました。
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 一人1台の情報端末がどう使われて、子どもたちの未来をどう変えていくのか、学校の姿をどう変えていくのかというのは、これから成果が出てくるところです。この時点で単純な「使う/使わない」という1つの分岐点で判断をするべきではないと思います。
 先生方と保護者の皆さんと、もちろん子どもたちとも、この二つの分水嶺の話をしていきたいと思います。二つの分水嶺のどのあたりにいるのかを意識しながら取り入れていくことが重要だと思います。そのための仕事を、していきたいと思っています。

(為田)