2021年12月17日に愛媛県立松山南高等学校を訪問し、新海(にいのみ)孝則 先生と渡部精児 先生による、数学×美術のコラボレーション授業を参観させていただきました。松山南高校では、さまざまな教科横断型の授業に取り組んでいるそうです。
Libryを使って小テスト
最初に、一人1台のノートPCでLibryを起動して、5分間の小テストをしました。Libryで問題を表示して、配布されたプリントに問題を解いていきます。
小テストは5分間でしたが、新海先生は「できたら丸つけして送信してください。終わった人は他の問題にチャレンジしていいよ」と言います。Libryは、問題に付いている「タグ」をもとに、解いた問題と同じ知識を使う問題、解き方が近い問題を自動で推薦する機能がついています。この機能があるので、はやく小テストが終わった生徒は、自分で次の問題を解いていくことができます。Libryの解説を読んで自己採点を終えた生徒たちは、他の問題にチャレンジしていました。
Libryで自己採点した生徒の結果を、新海先生はLibryの先生用ツールで見ることができます。瞬時に提出率や正答率はデータとして出ますので、「時間内に終わっている人は46%」「正答率どれくらいだと思う?」というふうにデータを生徒たちに伝えることもできます。
最後に、新海先生は、「定着できていないことがわかると思うので、復習しておいてください」と言い、数学×美術の教科横断授業へと入っていきます。問題を配布し、回収し、採点し、解説をする部分については、Libryを活用することで最小限の時間にして、作り出した時間を使って、教室で生徒たちみんなで取り組むからこその良さが出る授業を行っていきます。
松山南高校では、Libryをこのような小テストのほか、週末課題として出す形で使っているそうです。Libryの導入によって、先生方の課題準備の時間が短縮されているそうです。
数学と美術の教科横断授業
小テストの時間が終わり、いよいよ数学×美術の教科横断授業が始まります。最初は、数学担当の新海先生が授業をします。プロジェクタでYouTubeのチャンネル「TED-ED」から、「ケーニヒスベルクの橋の問題」は数学をどのように変えたのか? ― ダン・ファン・デア・フィーレン」を投影し、クラスみんなで見てみます。数学者であるオイラーが問題を解決したこと、そこから発展してグラフ理論に繋がっていることを新海先生は紹介しました。
www.youtube.com
新海先生は授業後に、「こうしてアニメーションやTEDなどを取り入れることもできるのは、ICTの良さです」とおっしゃっていました。
プリントを配布して、オイラーが「ケーニヒスベルクの橋の問題」として取り組んだ問題と同じ、一筆書きができるかどうかを考える問題を隣同士で話し合いながら解いていきます。新海先生は、「確定でなくてもいい。予想でいいので、どう考えたのかを言語化してみよう」と言います。
それぞれに考えた成果を、教室の前に出て説明してもらいます。教室がどよめく一筆書きをする生徒もいました。自分なりに考え、周りの人とグループになって考えても出せなかった解決法を見ることで、多様な考え方に触れて創造的な思考をする機会になると思います。
この後、新海先生は、図形の頂点と枝の数に着目して、どのように考えればいいのかを示していきました。通常の授業で扱う問題とは違うこうした問題に取り組むことによる良さを、新海先生は「問題をただ解いていくドリルになってしまうと、“なんでこれをやるんだろう”というのがわからなくなってしまう。今日はいつも数学が苦手な生徒も今回の課題には取り組めていた」とおっしゃっていました。
ここで、美術担当の渡部 先生にバトンが渡されました。数学の視点とデザインの視点が重なるところをねらった授業となりました。
渡部先生は、「あなたは松山市のデザイン会社に勤務しているプロダクトデザイナーです。高校生を対象としたボールペンをデザインしてください。どんな観点でデザインしますか。」と課題を提示します。
渡部先生が指名した生徒たちから、いろいろなアイデアが挙げられました。そうしたアイデアのなかには、ボールペンを使う人や使う場面を考慮した観点=条件が含まれています。デザインを考えるときに、「条件を足していくからこそ、条件が絞られてくる」と渡部先生は言います。
最後に、渡部先生は、アート的思考とデザイン的思考の違いについても説明していました。プロジェクタでたくさんの青い円を映して、このなかで「青」と言える色はひとつだけだし、「青」と「ブルー」は違う、という説明をしてくれました。
ここで渡部先生が紹介した、「青」を明確に定義することと「青」をグループとして捉えることの違いは、数学で条件を書き出したり一般化することなどと重なることだと感じました。
数学×美術の教科横断型授業への生徒たちの感想をいただいたので、紹介します。
- いつもと違った視点から数学Aのような図形について考えて、法則や規則などだけを見て、覚えて解くのではなく、なぜそうなるのだろうかをイメージすることの大切さを改めて感じました。美術の観点から数学的考えにつながるところがあり、数学的考えから芸術の観点につながるところがあり、すべてはつながっていて、どれも大切ということを学べたのでとてもよかったです。
- 今までの数学の証明のイメージは数学的に考えて式を展開したいして、「できる」ことを証明するイメージだったけど、「できない」ことを証明することを初めて見たので驚きました。
- 条件という観点で、答えを見つけ出していくことが楽しかったです。また。美術では相手に対してのデザイン思考など、人によって着眼点が違うところも面白いなと思いました。知論的な考えと独創的な考えを折り合わせながら、高校生活を送っていきたいなと思います。
- 数学と美術にも共通点があることを知れてよかったです。私はモノ作りなど美術に関することが好きなので、大学でこうこうことを学びたいと思いました。一筆書きの問題は何度もなぞって答えを導くものだと思っていたので、頂点の枝の数と数えればわかりやすくなることを知れてよかったです。
- 考えの幅が広がる授業でした。楽しく様々なことを知ることができ、芸術の時間では青の話が面白かった。数学も単純なようで難しい一筆書きの問題を通して、物事の法則+本質を見抜く力の大切さを学びました。
- 新たな発見ができたところがとても多く、楽しみながら授業することができました。はじめは数学と美術で関係するところなんであるのかと思っていたけれど、物事をかんがえていくためのプロセスなど、共通するところも多く、とても参考になりました。物事を考えるときに条件を決めたり何が大切になるのかを考えることは、数学や美術だけではなく、他の教科やこれから先、生きていくときにも大切になっていくことだと思うので、そのような力を高校生活の中で伸ばしていくことが出きれば良いなと今回の授業を通して考えることができました。
授業の最後で、新海先生が「こうして数学と美術を横断して考えたように、他の教科もどんどん関連させていく学びの形を高校生活のなかで得てほしい」と言って授業が終了しました。こうした教科を横断する、新しい学びの形の授業が多くの学校で増えていくといいと感じました。
(為田)