教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

書籍ご紹介:『個別最適な学びと協働的な学び』

 奈須正裕 先生の『個別最適な学びと協働的な学び』を読みました。「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して(答申)」で提起された、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実について、山形県天童市立天童中部小学校での実践をベースに考えることができる本でした。

 本のなかで、天童中部小学校で実践されている、3つの学習スタイルが紹介されていました。この3つのスタイルが、「協働的な学び」「個別最適な学び」「探究的な学び」に繋がっている様子がわかります。

  1. 自学・自習
    • 子どもたちが進める授業。協働的に学ぶ。
    • 先生がする授業を真似っ子し、子どもたちが授業をする。
    • 授業が進行するなかで、先生は「単元のこの部分を、自学・自習でやってほしい、と子どもたちにリクエストする。
    • 子どもたちから、「指導案見せてください」「指導書見せてください」と言われることもある→言われれば見せる。
  2. マイプラン学習
    • 個別最適な学び。一般に「単元内自由進度学習」と呼ばれる学習方法。
    • 学ぶ内容が決まっているが、いつ何をどんなふうに使って学ぶかは、各自の計画やそのときどきの考え次第。
    • 複数教科同時進行。与えられた時間を自由に使って創意工夫に富んだ学びを計画、実施する。
    • 子どもたちは、「学習のてびき」と呼ばれるカードをよりどころにして、学習計画を立案していく。
  3. フリースタイルプロジェクト
    • どのように学ぶかという学習方法のみならず、何を学ぶか=学習内容までも子どもに委ねる。
    • 探究的な学び。

 実際の授業の様子も紹介されています。そして、子どもたちの学びのさまざまな場面で、タブレット端末の活用が進んでいる様子も描かれていました。

 「第7章 ICTという新たな道具立てを得て」では、ICTの活用のいちばんベースの部分として、「文章を書く」というところで使いましょう、と書かれていました。

多くの学校ではいまだに作文を手書きで行い清書までさせていますが、ナンセンスです。以前、一文字の脱字に気付いた子どもが丁寧に書いた何行もの文字を消しゴムで消していたところ、原稿用紙が大きな音を立てて破れてしまい、すっかりやる気を喪失する場面に出合いましたが、こんなことをいつまで続ける気でしょうか。
作文の本質は文字を書くことではありません。伝えたいこと、表したいことにふさわしい論理や表現となるよう文章にさまざまな工夫を施すことであり、施した工夫の妥当性を慎重かつ多角的に吟味することです。(p.214-215 )

 「作文の本質は文字を書くことではない」という部分は、「そうだそうだ」と同意したい先生も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

一人一台端末を日常的に活用するのに、文章作成はもってこいの活動です。毎日のように生じる文章作成の要求を柱に据えることで、子どもたちはパソコンの操作はもとより、情報活用に関わるさまざまな資質・能力を短期間のうちに向上させるでしょう。(p.218

 はじめに文章作成をしっかり一人1台端末でできるように学校でみんなで学んでおけば、いつでも自分の端末で文章作成=自己表現の研鑽に取り組むことができて、すごくいいのではないかと思っています。ただ授業支援ツールを使って問題を配布・回収しているだけでは、なかなかこの部分にまでたどり着かないと思っていて、ここにはしっかり「文章を書かせる」ことの大事さを評価する意思がないと難しいな、と思いました。
 この延長線上に端末の持ち帰りが出てくるのですが、「持ち帰ったら壊れない?」という心配への奈須先生のアンサーが非常に正論だな、と感じました。

持ち帰らせて壊れないかと心配する人がいますが、今のパソコンはそう簡単には壊れません。そもそもスペック的に何十年も先までは使えませんから、届いたらすぐに、毎日使い倒す勢いで子どもに委ねるのが賢明です。そうして子どもが学習の道具として使いこなせるようになれば、次の予算取りの際にも地域の賛同が得られるでしょう。(p.218

 天童中部小学校の先生方の座談会なども収録されていました。子どもたちが楽しく学んで、できることを増やしていけるような環境づくりの参考にしたいと思います。自分の手の届く範囲で、どういう実現ができるか考えようと思います。

(為田)