2024年6月17日に十文字中学・高等学校を訪問し、打江絢乃 先生と熊谷朋香 先生が担当する中学1年松組の数学の授業「文字式の加法・減法」を参観させていただきました。隣の1年梅組の教室にも2人の先生がいて、同じ単元の授業を行っていました。2クラス同時展開で授業を進めることで、生徒が選んだ学習スタイルによって教室の環境を選んだり、少人数での取り出し授業を行ったりと柔軟に学習の形態を変えられるようになります。
十文字中学の数学の授業では、J-PALM(ジェイパル)というシステムを導入しています。J-PALMは「Jumonji Pearsonalized Active Learning in Mathematics(=一人ひとりに最適な手法で、より思考をアクティブに学びを深めよう!数学を楽しもう!)」という思いが込められた名前で、3年前の中学1年生から順次導入して、2024年度現在、中学1年生から3年生までの学年がJ-PALMで学んでいます。
十文字中学では、数学の授業を以下の4つからなるフェーズで学んでいきます。
- 概念導入
- 教員主導により、新しい単元を学ぶ意味や基本の考え方を学ぶ。
- J-PALMタイム
- J-PALM学習シートを使って、生徒一人ひとりが自分の進路、目標、理解度に合わせて、自分で学習計画をたてる。
- 一人1台のChromebookでデジタル教材プラットフォーム「Libry(リブリー)」を活用し、自由進度で学習していく。
- グループで学習しても、個人で学習してもいい。
- 先生が一人ひとりの学習をサポートする。
- 最後にJ-PALM学習シートに自分の取り組みをふりかえって自己評価し、家庭学習で取り組むべきことをリストアップする。
- チェックテスト&フィードバック
- チェックテストで自身の学習理解度の確認をする。
- フィードバック授業により、内容の補足やポイントの確認を行う。
- テストの解き直しノートを作り、提出する。
- 数学探究
- 日常に存在するさまざまな課題に対して、数学的な視点から探究・発表する。
J-PALMでは、この1~3の学習サイクルを1週間ごとに回していきます。基本的に生徒たちは、月曜日に新しい章や節の概念導入の授業を受けて、火曜日から木曜日にJ-PALMタイムで自由進度で学習を進め、金曜日にチェックテストを受けます。チェックテストの結果をふまえ、週末に1週間の総復習とチェックテストの解き直しを行います。翌月曜日に解き直しノートを提出し、同範囲のRetryテストを受験することで学習の定着度を再確認します。
この日の授業は、4つのフェーズのなかのJ-PALMタイムにあたる時間となっていました。授業の最初にJ-PALM学習シートを開くと、表面に「単元」「小単元」「達成すべき学習目標」が書かれています。チェックテストの日程はあらかじめ決まっていますが、その日までにどの学習目標をいつ達成するかを自分で考えて計画を立てていきます。
十文字中学では、啓林館の教科書・問題集を、紙だけでなくLibryでデジタル版も提供しています。そのため、生徒たちは紙の教科書・問題集を使って学習することもできますし、Chromebookを開いてLibryを使って学習することもできます。
生徒たちが紙の教科書・問題集かLibryかを自分で選べるようになっています。紙の教科書・問題集を使う生徒は、ノートや問題集に手書きで問題を解いていきます。Libryを使う生徒は、タブレット上で教科書・問題集のページを表示して、それを見ながらノートや問題集に手書きで問題を解いていきます。
問題を解いたら、解説を見て生徒が自己採点をします。自由進度学習なので、先生が1問ずつ順に一斉授業形式で解説をすることはなく、生徒たちは自分で採点し、自分で解説を読み、次の問題に取り組みます。このように、紙の教科書・問題集でもLibryでも、問題を解いている姿はあまり変わりません。
紙の教科書・問題集とLibryとで違うのは、Libryを使うことでさまざまな学習履歴をログとして残すことができるということです。Libryを使っている生徒は、自分で採点した後で「正解」「不正解」のボタンを押して記録を入力していきます。また、Libryでは問題を表示させると自動的にストップウォッチがスタートし、記録を入力するとストップウォッチが止まるので、解くのにかかった時間も自動的に記録されます。
こうして記録した正解・不正解の履歴や問題を解くまでにかかった時間などの学習ログを、Libryではデータレポート(リフレクションシート)として書き出すことができます。先生たちは、リフレクションシートによってJ-PALMタイムでの生徒たちの自由進度学習の進捗や習熟度などを見て、個別に対応をすることができます。
すべての学習を生徒たちに「任せる」のではなく、自由に自分たちで計画を立てて学習を進めてもらいながら、学習ログとリフレクションシートを見つつ、学習が順調に進捗しているかを見守っていく授業スタイルになっています。
現状、授業内にLibryを使わず紙の教科書・問題集で学ぶこともOKにしていますが、Libryへの正誤入力は必ず行うよう指導しています。これは学習の仕方として生徒が紙とLibryとどちらが使いやすいか・学びやすいかというのを生徒たち自身に任せたいという方針であって、使いにくい方を先生の都合で選ばせることはしたくない、という学習者中心の考え方だなと感じました。
J-PALMタイムの間、生徒たちは自分で学習を進めていきますが、教室にいる2人の先生が教室を回って、生徒たちが学んでいる様子を見ながら適宜サポートをしています。全体に対して同じことを説明したり、一斉に授業を進行するということは少なく、そこを個別最適学習で手放した代わりに、一人ひとりの生徒たちに対してきめ細かくサポートをしていました。
授業の最後の15分間は、自分のペースで問題に取り組んでいた生徒たちが手を止め、先生の解説を聴く時間になっていました。この時間を「集中タイム」と呼んでいて、質問の多い問題や重要ポイント、思考力を要する問題など、知識をみんなで共有する時間になっています。
熊谷先生は、「この集中タイムは学校でしかできないことを行うようにしています。自分で学習を進める事は家でもできること。学校では、大事なことをみんなで共有する時間を大切にしています」とおっしゃっていました。
教室全体で一人ひとりが自分で自分の学習の計画を立て、自分のペースで学習に取り組んでいる様子が印象的でした。また、最後の集中タイムのように、「学校でしかできないこと」を先生方が意識して授業を設計していると感じられる授業でした。
No.2に続きます。
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(為田)