タイトルを見かけてからずっと気になっていた、金間大介先生の著書『先生、どうか皆の前でほめないで下さい いい子症候群の若者たち』を読みました。金間先生が大学で教えている学生さんを含む若者世代のことが書かれているのですが、小学校~高校の授業とももちろん関係することは多いと感じました。興味深かったところを読書メモとして共有します。
いい子症候群とは?
最初に、いまの若者(大学生から20代半ばまで)の行動原則や心理的特徴をまとめた「いい子症候群」の特徴がまとめられていました。
「いい子症候群」:いまの若者(大学生から20代半ばまで)の行動原則や心理的特徴(p.22-23)
- 周りと仲良くでき、協調性がある
- 一見、さわやかで若者らしさがある
- 学校や職場などでは横並びが基本
- 5人で順番を決めるときは3番目か4番目を狙う
- 言われたことはやるけど、それ以上のことはやらない
- 人の意見はよく聞くけど、自分の意見は言わない
- 悪い報告はギリギリまでしない
- 質問しない
- タテのつながりを怖がり、ヨコの空気を大事にする
- 授業や会議では後方で気配を消し、集団と化す
- オンラインでも気配を消し、集団と化す
- 自分を含むグループ全体に対する問いかけには反応しない
- ルールには従う
- 一番嫌いな役割はリーダー
- 自己肯定感が低い
- 競争が嫌い
- 特にやりたいことはない
この並んでいる項目を見て、「あー」と思い当たることもあるし、他人事でなくかつて自分が上司に叱られた苦い記憶も思い出されるものもあります。
ここで並んでいる特徴について、一冊を通じていろいろと語られていきます。
目立ちたくない
金間先生が大学で講義をしていて、質問が出ないのをどうすれば解決できるか、ということを書かれていました。
実は、とても簡単に白熱教室を実現できる方法が1つだけある。匿名化だ。これは皆さんが思っているよりずっと強力だ。
その秘伝のレシピはこんな感じ。
最近では、質問やコメントを簡単に送ることができるアプリがたくさんある。それを活用し、講義中に投げかけた質問にスマホで答えてもらう。適当なハンドルネームで登録していいことにすれば、匿名性は保たれる。アプリの画面を講義室のスクリーンに映し出せば、自分以外の聴講者がどんな質問をしているのかを見ることもできる。
こうすると、質問やコメントがじゃんじゃん届く。場合によっては、送信されるコメントが多すぎて目が追い付かない状態になる。
改めて言うが、口頭で質問させようとしても誰も手を挙げない。(略)
大事なのはあくまで匿名性であり、つまりは目立たないことが重要なのだ。(p.31-32)
大事なのは「匿名性」。「質問やコメントを簡単に送ることができる」アプリやツールは、いま小学校や中学校でもたくさん使っているので、さらにこの傾向は拍車がかかるのかもしれないな、と思ったり。
匿名でやるだけでなくて、名前を出して、対面でバチバチにディスカッションする楽しさもどこかで知ってほしいなと思ったりもしますね。
続いて、本のタイトルにもなっている「皆の前でほめないで下さい」の由来のエピソードです。
10年ほど前、講義の後のちょっとした流れで学生に怒られたことがある。それが本章のタイトルでもある「先生、どうか皆の前でほめないで下さい」だった。
ほかにも、皆の前でほめた後、急に発言量が減った学生もいた。これはどういう心理なのか?
自分で何度も検討を重ねた結果、人前でほめるくらいなら何も言わないでほしいと学生が願う背景には、2つの心理状態が関係していることがわかってきた。
1つ目は、自分に自信がないこととのギャップだ。
現在の大学生の多くは、自己肯定感が低く、いわゆる能力の面において基本的に自分はダメだと思っている。その心理状態のまま人前でほめられることは、ダメな自分に対する大きなプレッシャーにつながる。つまり、ほめられることはそのまま自分への「圧」となるのだ。
この「ほめ」=「圧」という図式は、いい子症候群の大きな特徴なのでぜひ覚えておいてほしい。
2つ目は、ほめられた直後に、それを聞いた他人の中の自分像が変化したり、自分という存在の印象が強くなったりするのを、ものすごく怖がる。
ほめられて嬉しいと感じる気持ちはもちろんあるが、そんなものはミジンコ級に感じるほど、目立つことに対する抵抗感は絶大だ。(p.33-34)
目立つことに対する抵抗感が大きい、ということですね。学校ではまだ大丈夫かもしれないけど、社会に出るとこれはけっこう大変なんですよね…。学校の授業で何ができるのか、考えたいと思いました。
自分で決められない
「いい子症候群にとって、ものごとの決め方は次の3とおりに分類される」(p.63-64)と書かれていたのも印象的でした。
- 誰かに決めてもらう
- 例題にならう
- 提示された例題はものすごく参考にする
- 例題の提示がなければ基本、何もできない(しない)
- よって、参考とすべき例題の提示を強く望む
- みんなで決める
「自分で決められる」人になることって大事だよなあ、と思いました。学校の授業づくりで何かできることとしては、自分で決める体験を増やすことと、失敗しても大丈夫だと伝え続けて心理的安全性の高い授業を作ることですかね。
職場でも発揮される「いい子症候群」
学校でずっと同級生(に近い世代)=ヨコの世界で生きてきた若者が、会社に入ると上下関係=タテの世界に入らなければならない、ということが書かれていました。就職活動後に上司から質問される場面が例として出ているのですが、これはなかなか考えさせられます。
怖い怖い就職活動の末、晴れて入社したとしても、むろん彼らの気質がすぐに変わるわけではない。
ヨコの世界が彼らの世界であり、その外は異世界であり、上司ともなれば、それはもう異星人である。
そんなとき、上司から質問されたらどうするか。
(略)
このとき、いい子症候群の若者たちは真っ先に、どう返答するのが正解かを考える。
統計的に最も多いリアクションは「固まる」だ。(略)
一生懸命考えているからではない。一生懸命考えている姿勢を見せることが正解なのだ。固まっていれば、相手から何らかの動きがある。場合によっては、答えを言ってもらえるか、あるいは質問が取り下げられるか。いずれにしても、その場は一件落着だ。
彼らは、中学、高校、大学と「固まる効用」を経験として学習している。向こうがしびれを切らすまで待て、が正解なのだ。(p.139-140)
この、「固まる」リアクションは見ることが多いです。そして、これをどこで学んでいる家といえば、中学・高校・大学で経験して学習している、と書かれているのです。責任重大…
意思疎通不全は仕事上でもいろいろ大変になることが多い、とも書かれています。これもありそうです。(というか、学校の授業でもこういう場面を見るような…)
若者との意思疎通不全が、笑い話で済まなくなるケースもたまにある。最も深刻で、かつ多発中なのは、若者がどうしたらいいかわからないまま仕事を抱え、取り返しがつかない状態になるまで放置してしまうケースだ。筆者もここ数年で本当に多く耳にするようになった。
すぐに上司か先輩に相談すればなんてことはないのに、たったそれだけのことをためらい、抱え込んでしまう。最大の理由は、「そんなこともわからないのかと思われたらどうしよう」だ。
相談もせずに放置するなんて、その先仕事がどうなるか想像もできないのかと言いたくなるが、いい子症候群にとっては、「そんなこともわからないのか」と思われることのほうが重大なのだ。(p.142)
若者の仕事観
若者の仕事観もまとめられていました。うちの会社には若者はいないし(笑)、仕事観ががっつり現れるくらいまで一緒にプロジェクトを外部と組むなかでも若者と絡むことが少ないので、このあたりは僕はけっこう実感がなかったりします。
いい子症候群の若者たちの仕事観をまとめるとこんな感じになる。(p.150)
- とにかく人目は気になるし競争もしないけど、自分の能力を活かしたい
- そこそこの給料をもらい残業はしないけど、自分の能力で社会貢献したい
- 自ら積極的に動くことはないけど、個性を活かした仕事で人から感謝されたい
- 社会貢献といっても、見ず知らずの人に尽くすとかではなくて、とにかく「ありがとう」と言ってもらえるような仕事がしたい
まとめ
最後に「いい子症候群の若者たちへ」というメッセージがあるのですが、そこに書かれていたことも響きます。若者の話をしているようだけど、そんな社会を作ったのは我々なんだよ、と。
私が知る限り、若者は「現役選手」しか尊敬しない。
大人たちの多くは、自分の過去における実績が自分を形成していると信じている。だから(特に若者の前では)それをアピールしがちになる。
でも今の時代、若者はそんな誰かの実績語りを毎日のように耳にしている。よって、リアクションが表面的なのも当然だ。
そんなことより、彼らはあなたが今日何をして、明日何をなすのかに興味がある。彼らにとってのあなたの評価はそれで決まる。過去の実績ではない。
本章で見てきたとおり、若者が変化を好まず、挑戦を避け、守り一辺倒の内向き志向となっているのは、若者が育ってきた日本社会がそうだからだ。
挑戦や変化が成長につながらず、チャレンジしても得られるものがないと若者が思っているのは、大人がそう見せつけてきたからだ。
自分が出来もしないし、やりもしないことを、若者に押し付けるなんて搾取以外の何物でもない。
したがって、本書の提言は1つ。
大人のあなたがやるべきだ。まずはあなたが挑戦するべきだ。
あなたが挑戦し、失敗し、そして復活するところを堂々と見せるべきだ。(p.225-226)
僕はもう若者じゃないけど、「いい子症候群」なところもけっこうあるかもなー、と思いながら読みました。
学校が変わることで、変えられることもたくさんありそうです。自分のやれることをやっていこうと思いました。
(為田)