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『学力喪失 認知科学による回復への道筋』ひとり読書会 No.1

 今井むつみ 先生の『学力喪失 認知科学による回復への道筋』を読みました。とても考えさせられるテーマが多かったので、読書メモを共有したいと思います。興味をもっていただけたら、ぜひ原典にあたっていただきたいです。

「学力」はテストの点数ではなく、「学ぶ力」

 『学力喪失』というタイトルを見ての第一印象は、「学力低下という言葉はよく見るけれど、学力喪失という言葉が耳慣れないな」というものでした。
 今井先生がこの本のタイトルに使っている「学力」は、テストの点数という意味ではありません。この本での「学力」は、今井先生の専門である認知心理学での、乳幼児が言語を習得していく驚異的な「学ぶ力」のことです。その「学力」が「喪失」されている。これはすごく怖いことで、それをどう回復していくか、ということを認知心理学のアプローチで解説していく本です。

 今井先生は「はじめに」のなかで、この本のねらいを以下のように書いています。

子どもたちが本来的にもっている「学ぶ力」をなぜ十全に発揮することができないのか、その原因と回復への道筋を認知科学の視点から解き明かしたいのである。(p.iv)

 乳幼児が言語を習得していく様子を見ていると、人間に本来備わっている「学ぶ力」の凄さを感じます。乳幼児はたくさんの言い間違いや聞き間違いや勘違いをしながら、どんどん語彙を増やし、適切に言語を使えるようになっていきます。最初は身の周りにある具体的な語彙から、目に見えない抽象的な語彙まで使えるようになっていく様子はすごいです。
 そんなふうに言語を習得するほどの「学ぶ力」を乳幼児の頃はもっているのに、どうして学校に入るとその「学ぶ力」は発揮できなくなってしまうのでしょうか、というのがこの本の大きなテーマです。

なぜ算数ができないのか、読解ができないのか、を解き明かす

 「第Ⅰ部 算数ができない、読解ができないという現状から」と「第Ⅱ部 学力困難の原因を解明する」では、今井先生が開発した「たつじんテスト」の学校現場での実践研究が紹介されています。
 算数の「たつじんテスト」の誤答をたくさん見て、その背景にどんなスキーマがあるのかという事例をたくさん知ることができます。これを読むと、「丁寧に何度も教える」というだけでは解決しない間違いがたくさんあるのだ、ということがわかります。
 2022年に出版された今井先生の『算数文章題が解けない子どもたち ことば・思考の力と学力不振』でもたくさんの事例を読むことができましたが、そこからさらにいろいろな事例を読むことができました。また、「どうしてそうなっているのか」の解説もとても興味深く読みました。

blog.ict-in-education.jp

参照:東京書籍のがんばる先生のための算数・数学ポータルサイト「math connect」でのインタビュー

 東京書籍が運営している、がんばる先生のための算数・数学ポータルサイト「math connect」でPDFを公開している「math connect Vol.11」(PDFで読めます)は、特集が「認知心理学の視点からみる算数・数学」で、今井先生のインタビューを読むことができます。

 『学力喪失 認知科学による回復への道筋』と『算数文章題が解けない子どもたち ことば・思考の力と学力不振』で紹介した子どもたちの認知についても紹介されています。

mathconnect.tokyo-shoseki.co.jp

まとめ(というか、気づき)

 「第Ⅰ部 算数ができない、読解ができないという現状から」と「第Ⅱ部 学力困難の原因を解明する」は、算数を教える機会がある先生方は是非読んでみるといいと思います。また、算数が苦手な子をもつ保護者の方も、ちょっと読んでみるといいと思います。「こういう理屈で間違えるのか」ということを知るのはとても大切なことだと思います。
 ただ、この本は「じゃあ、どう教えればいいのか」というノウハウ本ではありません。それは「はじめに」にしっかり書いてあります。

ただ、一言お断りしておきたい。本書は、日本全国に大勢いるにちがいない、学校での学びにつまずいてしまった子どもたちにどう対処したらよいかを事細かく述べるマニュアルではない。(p.v)

 学校での学びにつまずいてしまった子どもたちのために、より大きな視点で、どうやって回復への道筋をつけられるのかが書いてあった「第Ⅲ部 学ぶ力と意欲の回復への道筋」に、僕はいちばん惹かれました。次回以降で読書メモを共有していきたいと思います。

 No.2に続きます。
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(為田)